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一体何をしたと言うのだ。
気がつけばアナリア様のお付きの侍女様が私の専属侍女になっていた。名前はララさん。私より5つ年上の超美人だ。
彼女は子爵家の御令嬢、つまりは貴族の生まれな訳で、私は生粋の平民の生まれな訳である。
分かってもらえるだろうか。
ララ様と話しかけたらとても丁寧に、「今度言ったらしばく」と言われた。
こう、ギルベルト様に付いてた侍女さん達のように馬鹿にされた言い方ではなく、人生で初めて綺麗な笑顔で怒られた。
淹れてくれた紅茶がとても美味しかったので『紅茶ありがとうございます、淹れ方がお上手なのですね、とても美味しいです』と言ったら、とても丁寧に、「私に敬語だなんて何考えてるんですか、これくらい出来て当たり前です。でもありがとうございます、嬉しいです」と言われた。
丁寧な言葉使いに慣れてなさすぎて自分の言葉でしか表現出来ないのがとても惜しい、迫力がまるで違う。めっちゃ怖かった。
そして初めて2人きりになった時に言われた言葉。
「レティシア様、私はレティシア様専属の侍女として、貴方を立派なレディに差し上げる義務がございます」
そんな言葉を言われて何も答ることができなかった事は平民の中で、絶対普通の対応であった。
御令嬢に『様』を付けられることも、朝の支度から夜のお風呂まで面倒を見られることも全て普通なのであれば、私は永遠に普通にはなれないのだろうと思う。
ただ、その感想についてはすでにララさん…いやララから「これが普通だと思って頂けるよう貴方様に尽力致します」等言われている。
迷い込んだ迷路に、気がついたらゴールまで一直線の道が出来ていたかのような現象が起きている、誰か、この複雑な気持ちに解答を求めたい。
さて、辺境伯様の家ではギルベルト様に家を移されてからの期間で最も『今の貴族』という物を学んだように思う。
朝から昼までアナリア様からの『貴族学』昼から夕方までララによるダンス指導、夕食の時間は朝の復習とザヘメンド家の小話(旦那様に対するお言葉は鋭すぎてたまに震えた)。
そして夕方から少しの時間はギルベルト様から魔術を教わった。
ギルベルト様は、私が魔術を教わりたいという意志がある事に驚いていた。
さも教わりたくないように聞いていたらしい。誰にかと思えば寮にいる侍女達だそうだ。この屋敷に来てからの侍女さん達を見ていると、寮にいる侍女達の無能さは明らか、なぜギルベルト様に付いているのか不思議だった。
何が無能って思考能力だけではなくて、紅茶の味であったり掃除の後などがより顕著に分かるだろうか。
同じ茶葉だという紅茶は香り高く、掃除の後はまるでチリひとつない。更にいえば、常に気を使ってくれるわ、褒めてくれるわ、世話をさせろとばかりに、しかし、しつこくない程度に迫ってくる。(そしてつい、お願いしてしまう)
あっちの侍女達も来たばかりの頃はすごいと思っていたが、ここの侍女さん達を見てしまうとプロフェッショナルとアマチュア位の差を感じる。
しかも、プロ中のプロとそこそこなアマ位の差である。
それについてを一度アナリア様に聞いてみると、周りに星が飛んでいるのが見えるほど顔を輝かせた上で「レティシアはレティシアねぇ!」と言われた。私の頭の中は疑問符で埋め尽くされ、その後何故かギルベルト様のお兄様との婚約を勧められたので全力でお断りさせて頂いた。
あのお方は何文か文章を省略させて話す癖がある。
多分わざとなのだろうが私はまだ理解出来ない時が多い。困った方だと思う。
でも、そこがアナリア様の魅力でもあるのだろう。
因みにギルベルト様にも侍女について聞いてみたが、しばらく無言の後「母上に許されていない」と言った。よく分からなかったので首を傾げると、頭をくしゃりと撫でられて、「バレているのだろうなぁ」と呟いていた。
やはりよく分からなかったが、この方の私に対する小動物扱いは学園に入る前にやめて頂きたいものだと思う。
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