ボクの為の自己満足な結末。
記憶が戻った洋子の話しを聞き、色々な事が理解できた主人公だが…
公園での感動の再開を果たしたボク達は、その後ボクのアパートで過ごす事になり、夕飯も洋子さんが作ってくれた。その食卓で、これまでお互いに何があったのかを語り合った。
洋子さんの話しを聞いて理解した事はこんな感じだ。別世界の洋子さんと知り合ったのは、彼女が四十歳の時で、ボクは二十二歳。しかし、この世界ではそこが少し違っていて、ボクは二十二歳なのだが、洋子さんは若返った時と同じ二十歳だ。
一番気になっていた記憶の事だが、洋子さんが十八歳の頃に善さんに記憶を戻されていた事が分かった。善さんは何故、この事を隠してとぼけていたのだろうか?と疑問に思った。が今回、善さんがこの場に現れる事は無かった。現れるとは言うものの、善さんの実体は無いので変な感じがする。
洋子さんの話しに戻ろう。洋子さんの記憶の事について、正確には高校卒業と同時にそれは起きたと言う事だった。それからボクのことを探し回って、やっと見つけたが、様子を伺う事しか出来なかったと言っていた。理由は、ボクが記憶を取り戻していなかった時の事を考えると、怖かったと聞かされた。
それに関してはボクも経験したので直ぐに理解出来た。それに、その頃のボクはまだ、記憶を取り戻していなかったので、話しかけられていても、今のこんな気持ちが生まれたかどうかは疑問だ。
自分自身では、記憶が無くても、洋子さんを何度でも好きになる!と言いたいが、現実はそう上手くいかないだろう事は容易に想像出来る。実際この世界では、洋子さん以外の彼女がいて、幸せな日々を送っていたのだから。
その状態で洋子さんに会ってどうなる?記憶も持たずにだ。それは言わずと知れた事だ。お付き合いしている彼女が大切に決まっているから、気持ちが浮つく事なんて無いだろう。だが、今は記憶があるから、あの世界での洋子さんと共に戦い、支え合い、そして深い絆で結ばれた記憶が。
いかんいかん、つい感情的になって洋子さんの記憶の話から逸れてしまった。結局洋子さんはそれから二年近く、ボクを遠くから眺めていたという。そして、奈々子と接触してから、ボクの様子が変わった事に気付いたのだそうだ。
そこで洋子さんは、自分の持っている記憶を頼りに、奈美恵さんの入院する病院への勤務を、母親を通して実現させるところまで持っていったらしい。が、そこで記憶とは違う光景を見てしまった。それは、奈美恵さんの退院だ。
別世界での洋子さんは、奈美恵さんの担当看護師だった事から、当然そうなると予想していたと言う。そしてボクとの再開を果たすと。何故そう思ったのかを聞いてみると、奈々子との接触の後、早い段階で奈美恵さんに会いに行った事で、半信半疑ではあったが、もしかしたら別世界の記憶が既にあるのではないか?と考えられたからだそうだ。
でも現実は違っていて、既に奈美恵さんは完治して、退院するところまで来ていた。そして、洋子さんの中では、病院への勤務も意味が無いモノになり、もうどうしていいか分からずボクの後を尾けていったが、ボクに見つかってしまい、ヤケを起こした。と言う事らしい。
「でも、その洋子さんのヤケになった行動が無かったら、ボク達はすれ違ったままだったかもしれないよね?ありがとう洋子さん。そして…、待たせちゃってごめんね。」
そこまで聞いた後、ボクは洋子さんにそう伝え、あの別世界の事を思い出しながら彼女を抱きしめた。洋子さんも力強く抱き返してくれる。
「うん…、待った…。たった二年かもしれないけど…、本当に…、稜くんがいない二年は長かったよ…。」
涙交じりであると分かるその言葉が、二年もズレて記憶を取り戻したボクの心を切なくしめあげてくる様な、そんな感覚にとらわれた。どうしようも無い事だと、仕方の無い事だと分かっているのだが、呑気に過ごす二年前の自分が悔やまれてならない。
しばらくそうやって抱き合ったままで、何も語らずお互いの体温が十分に伝わり過ぎる程の時間を過ごしたが、不意に鳴り出した目覚まし時計が、雰囲気を台無しにしてしまった。
「洋子さん、今日が初出勤だって日に…、ごめん。もう朝が来ちゃったね。ボク、まだ有給休暇中だから、病院まで送っていくよ。」
気付いたらもう朝だった。顔を見せ始めたであろう太陽が、窓ガラスに光を浴びせているのが、厚手のカーテン越しにでも分かった。
「う…ん…。そっか、お仕事…。」
昨日洋子さんの母親が、退院する奈美恵さんと話していた時に、明日から働く事に…、とか言っていた記憶があったのだが、洋子さんの表情が硬い。心配になり、その訳を聞いてみると、こんな答えを口にする洋子さん。
「う〜ん、稜くんと接触する為に、あの病院に行こうって思ってたから、今はそれが叶ったし…、お仕事行かない!稜くんと一緒にいる!えへへぇ。」
「ちょ、ええ!?いいの?初日から休んで大丈夫?それにほら、お母さんは?」
「ん?初日っていうか…、もうあそこ行かない。本当はお母さんも反対してたんだ〜。親子で職場が一緒だと、仕事やり辛いんだって。だからいいの、行かない。」
「えええ!?そんな簡単に決めて…。」
「ぶーっ、稜くんは私と一緒にいたくないの?私はもっといたいなぁ〜、うふふ。ね、今日はデートしよっ!一緒に伊勢海老食べるの!う〜んっ、最っ高〜!」
「一緒にいたいけど…、伊勢海老食べたいだけ…とかじゃないよね?」
「ななななな、何言っちゃってんのかなぁ〜…。ほら、用意して出かけよう!」
《な〜んか、目が泳いでたけど、まぁ、当面の生活費はボクが頑張ればいいか。》
「ところで洋子さん?伊勢海老の美味いお店とか知ってるの?」
「何言ってるのよ稜くん。ほら、あの温泉宿があるじゃない!初デートもあの街だったしね〜。でね…、こっちの世界では…、その…。」
何故かモジモジし出して言葉を濁す洋子さん。久々に見たモジモジは可愛いけど、何を今更照れる事が?と思い、何気なく聞いてみる。
「洋子さん、デート、緊張してるの?ボクもしてるけど、嬉しい気持ちが勝ってるかな。」
「う、うん。そうなんだけど…、そのほら、こっちの世界では、まだ…、アレは…。キャ〜っ。」
《うわぁ!?そういう事か…。その恥じらう姿はとっても可愛いんですけど、言っている事は凄く大胆な事ですよね?こっちがキャ〜って言いたいよ〜。》
「だからね、その…、今日は宿にお泊り…、でもいいかな?…キャッ。」
「う、う、うん…、いんじゃないきゃな…。」
《し、しまった〜。噛んだし、声が上ずってたし…、ヘタレな男に見えたかな…。》
その会話の後は、お互いに目が合う度に赤面して、結局支度が終わって、アパートを出るまでは、何も話せず仕舞いだった。こんな事で、宿に泊まったりして大丈夫なのだろか?という心配はあったが、あちらの世界ではもう経験済みなんだからと、自分に言い聞かせて、洋子さんの手を取って転移のチカラで移動した。
〜 一年後 〜
あの世界では出来なかった事、それがこの世界では、無限の可能性を秘めていて、実現可能だと知った。
ボクと洋子さんは、この世界でもめでたく結婚する事になったのだが、その大きな役割を果たしてくれたのは、このボクの腕の中で眠る赤ん坊だ。女の子で、名前は『松田ゆうこ』だ。洋子さんに似て、顔立ちは美人さんになる事間違いなしだ。
もうお気づきかもしれないが、そう、ボクは洋子さんの家に婿入りしたのだ。なので娘の名前が『松田』の姓になっているのだ。勿論、ボクも『松田稜』となった。異論はない。
実はこれ、洋子さんの両親からの条件である。あの温泉宿のデートで、洋子さんが強行手段に出たのだが、その時に言った洋子さんの言葉がこれだ。
「稜くん!結婚するには、ウチの親を強引にでも納得させる必要があるの!!だからジタバタしないの!既成事実が必要なのよっ!!稜くーーん!!!」
とまぁ、半分洋子さんに襲われた様なものだが、お陰でボク達はこの『ゆうこ』を授かり、洋子さんの両親も同意してくれた。(お義父さんは渋々だったが)向こうの世界では絶対に出来なかった事だ。
さて、そのお義父さんなのだが、挨拶に行った時は、それはそれはもう恐ろしかった。いきなりお腹の大きな娘を連れて、どこのウマの骨か分からないヤツが現れたんだ、そりゃぁ怒る。当然ボクはぶん殴られたが、洋子さんとの結婚の為ならと思えばこそ、痛みは我慢出来た。
しかし、洋子さんの両親の気持ちを傷つけてしまった事は、心の痛みとしてしばらく消える事は無かった。にしても、お義父さんの拳は、身体強化しなくてもメチャメチャ効いた。
「稜くん、私にもゆうこを抱かせてくれんかね?孫の顔はずっと見てても飽きない物だよ。あ、キミは向こうに行っててもらっても構わないよ。何なら屋敷の外、遥か、遥か遠くに行っててくれても構わない。」
我が娘を抱きながら、これまでの事を思い起こしていたボクに、お義父さんがそう声をかけ、ゆうこをサッと抱き上げる。
《アハハハ…、まだ怒ってんのか…。まだまだこれから色々知っていけばいいか。》
「まぁ、それは冗談として、稜くん、キミも一族の一員になったのだから、胸を張って、もう少し気品ある行動を心がけなさい。そして、当然の事だが、私の事業も学んでもらわねば困るぞ。ゆくゆくは、キミがこの松田の家を継いでいかなければならんのだからな。」
「も、もしかしてそれは、お義父さんがボクを認めて…」
「甘ーーい!!まだ私は認めてなぞおらんぞ!全く…勘違いをしおってから…ブツブツ…。」
そう言いながら、ゆうこと屋敷の中に入っていくお義父さんだが、最初の頃から比べると、かなり話しかけてくれるようになった。
《その後ろ姿、しっかりと追いかけていきますよ。お義父さん。そしていずれは…》
そんな思いでお義父さんの後ろ姿を見ていたボクの後ろから、洋子さんが抱きついてきた。
「稜くん、大成功だよね、私達の再スタート!これからもずっと私だけのダーリンでいてね。稜くん!うふふ。」
そう言って、ボクにキスしてくれる洋子さんを、ボクは強く抱きしめキスを返す。
《洋子さん、これからもボクの自己満足な人生に、付き合ってください。》
最後は洋子の作戦勝ち!主人公もまんざらでは無い様子。そして、この先も、二人で自己満足な幸せを!
ところで、善さんはどこへ?
「あらあら、アタシは全ての世界の監視者なのですよ?この二人はもう大丈夫。え?何故嘘をついたか?…、呑気なお気に入りさんに腹が立っただけだなんて、口が裂けても言わないのですよ。あら?そこの貴方、そう貴方。貴方の世界、少しおかしいですわね?滅ぼしてさしあげましょうか?」




