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自己満足、他が為成らず。一年後…  作者: 赤茶猿マン
伊町稜 親子の戦い編
2/29

新たな敵の出現。

ゆうこを救出すべく、シャクシに案内してもらう主人公達だが、転移したそこには…



 シャクシさんに同行転移して着いた先は、何とあのすり鉢谷の施設だった。ここでは死にかけた嫌な記憶しかない。そんな嫌悪感を抱きながらも、本来の目的であるゆうこさんの救出を優先に考える。


 しかし、肝心なその姿を確認出来ない。ゆうこさんどころか、敵の姿さえ見当たらない。


「シャクシさん、ここで間違いないの?誰もいないみたいだけど…。」


「はい、お気に入り様の自宅を訪れた直前の感覚によりますと、間違いなくこの場所です。あ…、痕跡を感じます…、お二方、もう一度飛びますよ。」


 フォォォォォッ! 「どわっ!?」(洋子さんとボク)



 〜 転移先 〜


「ハハハ…ハハ。オマエ…、シヌ。ハハハ…ハハ。」


 転移した直後、まるで安物ロボットオモチャの音声の様な、温かみを感じない声が飛び込んできた。ボク達が転移した目前では、青木と同様に、筋肉が腫れ上がった様な人型バケモノが、ゆうこさんに尖った指先を突き刺さんと構えているのが見える。髪の色は緑では無いが、実験の産物である事に違いない。


「ゆうこさん!『超・瞬足』『縦横無尽・改』『閃光一閃・改』今行くよ…。」


 ズドンッ!! ビュォッッッ!!


 転移して僅か五秒足らずで瞬時にその場を蹴り出し、天を仰ぎみるも、果敢に立ち上がろうとしているゆうこさん目掛けて突進した。視界が針の先程に細く鋭く狭まるが、この目はゆうこさんを捉えて逃さなかった。

 既にこちらに気付いていたゆうこさんが、『鉄壁』と呟いた事が、その唇の動きで読み取れた。ボクの意図を理解して、横から掻っ攫った時の衝撃に備えている事が予測される。ボクは遠慮なくそのゆうこさんを、フォークリフトの爪で掬い上げる様に抱き上げる。


 シュパパパパッ! 「ギィィィィィィヤァァァァァァァッ!!」


 バケモノが断末魔にも似た、機械音じみた叫びが、この南国の港に響き渡った。

それは、抱き上げた瞬間にゆうこさんを片手で支え直し、振り向き様にバケモノの尖ったその指を、根元から四本共『閃光一閃・改』で薙ぎ払ったからだ。


 通り抜け様に、バケモノがその場でのたうちまわる姿勢に入るのが見えた。ボク達はそこから二十メートル程離れた場所で止まった。


「稜くん、すまない!結局キミをこの場に呼び寄せる結果になってしまった!本当にごめん!」


「何を言ってるの、自己満足、他が為成らずだよ?アハハッ。洋子さんの悲しむ顔は見たくないからさ。」


「ふふ、キミが来たのも自己満足って訳か…、アハハ、キミらしいよ。その洋子がホラ、アイツを始末するみたいだよ?」


 久しぶりの再会の第一声が、謝罪で始まるゆうこさんは、ボクの自己満足精神を理解した後、ボクの肩越しにバケモノの方へと視線を移し、そう教えてくれた。


振り返るとその洋子さんが、のたうちまわるバケモノの腹部を蹴り上げ、かなり上空高くまで打ち上げてしまった。更に洋子さんが、右腕に『炎掌一閃・改』を纏い、膝を折りグッと力を溜めるのが分かる。


 ズドンッ!! ゴォォッッッッ!!


その場の砂煙を周囲に撒き散らし、勢い良く上空のバケモノ目掛けて飛び上がった洋子さん。そして、突き出された『炎掌一閃・改』が見事にバケモノの身体を貫き、そこから更に、『爆裂』を使用した様だ。


 洋子さんを中心に、炎の渦が巻き起こり、一気に周囲へと弾け広がった。ボクにはキチンと見えていたので、すかさずゆうこさんとシャクシさんを包んでしまえる『音壁・改』を発動させた。


 しばらく、砂煙が舞い、上空からは色々な落下物があったが、無事にゆうこさん救出は成功を収めた。しかし、倒したバケモノが、本当にボクの父親だったかは分からない。


 因みに、先程から使用している『◯◯改』についてだが、これはボクと洋子さんしか使用出来ない。『最善』と『最悪』に能力の底上げをしてもらった洋子さん、『虚無』にて奴らの体組織の一部とも言える血液をもらったボク。この二人だけだ。


「ところでシャクシさん、あのバケモノがボクの父親だったって言う事なの?」


「いや、アイツはただの実験体に過ぎない。そんな奴に遅れを取るとは、思っても見なかったけどね。」


 シャクシさんに尋ねたボクへの返答は、先程まで苦戦していたゆうこさんがしてくれた。ただの実験体にゆうこさんが遅れを取ったとなると、他のメンバー達が心配になる。


「ゆうこさん、寺ッチたちはどこに?ゆうこさんが手こずるんだから、彼らでは到底太刀打ち出来ないだろう。まさか…、死んでしまったりは…。」


「まさか、そんな無茶な事させないよ。アイツらには情報収集の任務を与えてあるから、余程の事がない限り死にはしないよ。」


 寺ッチ達の安否を気遣ってのボクの質問に、『ゆ』の文字が入った缶バッジを触りながら答えるゆうこさん。その仕草が言葉通りの心境では無さそうに思わせる。


「しかし、何でまたこんな所に…。洋子さん、街の様子も見に行こうか。」


「そうね、稜くんの行く所ならどこへでも、うふふ。」


「ではお気に入り様、私は母上の元に戻り、更に情報を集めて参ります。失礼。」


 フォォォォォッ!


 そう言ってこの場から転移してしまったシャクシさん。


 とにかく今は、あのバケモノが変異体では無かったにしろ、ゆうこさんを追い詰める程の強敵だった事は間違いないので、この南の国の港街が心配だ。ボクの言葉に返す洋子さんは、デートみたいに感じているらしい口調だったが。


 街の懐かしい診療所が見えてくる。相変わらず汚れが目立つ白い建物だ。


『おおっ!!救世主様だーっ!!おおおおっ!!救世主様ーっ!!』


 ボク達を見つけた街の人々が声をあげて讃えてくれるが、正直なところ照れ臭いのでやめてほしい。どうやらこの様子だと、街に怪我人は出ていない様だ。


「あの…、初めまして。私はこの港街で診療所のボランティアに来ています、『伊藤 喜一』と申します。以前も助けて頂き、本当にありがとうございました。」


人混みをかき分けて、ボク達の前に出てきてそう言った、『伊藤 喜一』という男性は、まだボク達と変わらない歳頃を感じさせる青年だった。少しくたびれた白衣を纏い、女性を思わせる顔立ちには似合わないメガネ、その牛乳瓶の底の様なレンズの奥には、異様な程に大きく見える瞳が。


その瞳が瞬きする度に、思わず吹き出しそうになったが、実に失礼な事なので、横を向いて我慢する。隣にいる洋子さんもボクの方を見て口を押さえていた。頼む、我慢してくれ!と、心が叫んでいた。


「あ、あの?どうかされましたか?」


「い、いえぇ!なんでもありません…、はい。ご丁寧にありがとうございます。」


 頑張ってそう切り返したボクは、洋子さんの手を取りその場から早々に立ち去る。免疫力を養ってから再度訪れる事にしようと、密かに心に誓いを立てた。


「ぷ、ぷ、プププッ…、アハハハハハハハハハ!!…、ヒーッ、稜くん…、もうダメ…、アッハハハハ!」


「よ、洋子さん!聞こえちゃうよ!?ちょっ…ぶぶっ…やハハハハハっ!」


 自分でも良く分からないが、戦いの緊張が解れたののだろうか?とも思える程に笑いが止まらなかった。普段こんな事で笑わないはずなのだが。相手に対して失礼過ぎる。


 バリバリバリ!!ズガガガン!!


 笑いが止まらなかったボクだが、ほんの一瞬の殺気でそれに気付き、笑いが止まらない洋子さんを抱き上げ、瞬時に建物の屋根まで飛び上がった。一瞬ではあったが、イナズマに似た電撃がボク達に襲いかかってきたのを見た。


 バリバリバリバリバリ!!ガラガラガラガラ…


 今度は背後から同じ攻撃の気配を感じ、通りを挟んだ向かいの建物の屋根へと飛び移る。明らかに能力者がチカラを使って攻撃していると分かり、その発動元へと視線を移す。


「やぁ、やっと気付いてくれたね。笑わせて隙を突くつもりだったが、さすがにキミはそうもいかない様だね…、伊町氏の言っていた通り、油断ならない男だね。」


「なるほど、どうりでボク達がこんなに笑わされた訳だ。喜一、だったかな?どういうつもりだ!伊町とは、ボクの父の事か?」


 そう、攻撃を仕掛けてきたのは、先程診療所で挨拶してきた、『伊藤 喜一』だった。おそらくだが、ボク達があんなに笑ってしまったのは、コイツのチカラなのかもしれない、と感じた。そして今の電撃のチカラ。先程まで立っていたあちら側の屋根瓦が、粉々に吹き飛んでしまっていた。


コイツも父の差し金かと詮索したボクは、喜一にそう尋ねたのだが、一向に答えようとしない。それどころか好戦的な態度で両手を構え、その間にイナズマを生み出し手遊びしている。話し合うつもりはサラサラ無い様子だ。


「さて…、第二ラウンド開始といきましょうか。」


 そう言う喜一の言葉を聞きながら、ボクはゆっくり洋子さんをその場に下ろした。そしてそれに応えるべく斜めに構えて見せる。喋らないのならば喋らせるまでだ。



やはり主人公達の敵となる者達は、好戦的な輩が多い。自分の父親の行方を確かめるべく、主人公の戦いが今、始まる!

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