『ゆ組』の目的。
※友人からのリクエストにより、もう少しだけ自己満足の世界を覗いた物語を投稿させて頂きます。超暇な時間がおありでしたら、時間潰しに読まれてみて下さい。
主人公達の最後となった戦いからわずか一年。川上が築き上げたのは『市』であった。そこには、これまで登場してきた様々な人達が集い、各々の生活を始めるのであった。そんな中、主人公達にまたまた不穏な空気が!?
『伊町マンション』が完成したのは、今から一週間前だ。既に何組かの世帯がここでの生活を始めている。ボク達もここに越して来ようかとしたのだが、この街で最初から住んでいる家がある為、そこが良いと言う洋子さんの意見で諦めた。
少しマンションに憧れがあったのだが仕方がない。ボロいアパートにしか、住んだ事がなかったせいか、凄く高い場所からの景色を見たいだけだった。
「伊町さん、洋子さん、本当にありがとうございます。家族皆んなで感謝しているんですよ。特にお義母さんは伊町さんの事を褒めちぎっていました。」
そうお礼を言ってきたのは、宿の街で知り合い、ご主人の暴力から逃げ出してきた佐々木さんだ。あの頃と比べて、笑顔が良く見られる程明るくなっていた。
「いえいえ、お役に立てたのなら嬉しいですよ。……、ちょ、ちょっと近いですお婆ちゃん…。」
佐々木さんにそう答えているところに、義母の『タケ子』さんが歩み寄ってきていた。しかも目線の高さを合わせたいのか、低い脚立まで用意してだ。顔が近い上に無言で、尖らせた口を寄せてくるのは止めて頂きたい。手際よく洋子さんが引き剥がしてくれたが、まだ脚をバタつかせている佐々木の婆ぁさん。
「い〜ま〜ち〜、ワシの伊町が〜ぁ、こりゃ娘!離しぇ〜!……。」
「す、すみません、ウチの義母がご迷惑を。伊町さんのファンなので。」
「あ…、いえ…、ハハハハ…。」
毎度のことだが、この佐々木の婆ぁさんは、ボクの唇を奪おうと、日々色々な手を使ってトライしてくる。洋子さんも慣れてしまい、最近では、剥がして除去する手際も良くなった。害虫駆除業者顔負けだ。
引っ越しの片付けが残っていると言う佐々木さん一家は、ボク達に再度お礼の言葉を告げて、マンションの中へと入っていった。
「稜くん、まだマンションの事考えているの?私は稜くんと二人っきりのあの家が好き。」
「ん…、ああ、ここじゃノイジーを置いておけないしね。というか、違う事考えてたんだよね。」
ボーッと考え事をしていたボクに、洋子さんがそう尋ね、正直な気持ちをぶつけてくれた。しかし、ボクが考えていたのは、ゆうこさん達の行方だ。
戦いが終わった後の数日間はこの街にいたのだが、『ゆ組」の連中を率いて突然街を出て行ってしまったのだ。勿論、不満に思わせる様な事は、ボクの知る限りでは無かったはずだ。洋子さんがこの事について、一切語らなくなったので、ボクからも、話しに出てこない様にと気を回していた。
「確かに、ノイジー…、大っきいもんね。散歩に連れて行ける場所も、この街には無いしね。」
「あ、それなんだけど、あの南の島で離したらどうかな?アレ、洋子さん買ったんでしょ?」
「え…、えとぉ…、稜くん!大変、私の耳が聞こえないよ!島の話しが聞こえないよ!あ〜っ!」
もしもし洋子さん?島の話しだと分かってるじゃん…。
「ねぇ、洋子さん?川上さんの情報なんだから、間違いないとボクは思ってる。どうして内緒にするのかボクにはそれが分からないよ…。」
「…、ぶー…。だって、稜くんのお誕生日にって思って、内緒にしてたんだもん…。」
「え…、ボクの為なの!?あ…、ごめんね、洋子さん。でも、ありがとう。」
ボクが問い詰めてしまったので、少し拗ねてしまった洋子さんだったが、ボクがお礼の言葉を伝えながら、洋子さんの髪を撫でであげると、モジモジしだして機嫌が治った様子だ。
因みに、大きな戦いは落ち着いたのだが、ボク達は夫婦でありながら、キス以外はまだなのだ。洋子さんは十分すぎる程に魅力的なのだが、ボクが物怖じしてしまい、中々一歩が踏み出せないでいた。
とりあえずは、狙われる様な事も無い生活に戻ったので、それはひとまず置いておく事とする。
ボク達がそんな事を話しながら、歩いて自宅へ向かっていると、高級感漂う黒のセダンが、こちらに向かってきているのが見えた。それはこの街の、いや、『市』の専用車両だと一目で分かる。
フロントバンパーに小さく聳える旗には『川上市』のシンボルマーク『ガーベラの花』が記されていたからだ。川上さんいわく、花言葉と見た目で決めたそうだ。その専用車両がボク達の脇に停められた。
「伊町さん、こんにちは!あ、洋子さんも。もうマンション視察は済まれたのですか?私はこれから行くところでして…、良かったら伊町さん、ご一緒にと…、勿論、洋子さんもついでにお誘いして構いませんよ?」
専用車両から降りてきて、洋子さんを『ついで』呼ばわりするこの女性こそが、この市のトップの川上さんである。あの戦いで、マスターとの偽装結婚がバレて、何かが吹っ切れた様子の彼女は、再び結婚したボクにアプローチをかけてくる、何ともタフな女性だ。
「川上さん、お気持ちだけ頂いておきますよ。それに、視察はもう済ませてきましたので。」
「川上ちゃんもサッサと行くといいよ!市長は忙しいから大変ね!…、ベーッ!」
川上さんも言葉に棘を感じさせる口ぶりだったが、ボクの洋子さんも負けていない。もっとも、洋子さんの場合は、可愛らしい棘だとボクは思った。刺されてもいいと思うくらいだ。
しかし、川上さんには可愛らしいと受け取れなかった様子で、その場で地団駄を踏んでいた。これ以上は関わり合いになりたくなかったので、変顔を続けて川上さんに飛ばす洋子さんの腕を掴み、そのままズルズルと引きずって、その場を後にした。可愛いのだが、もう少し大人になってもらいたいものだ。
そう、言い忘れていたが、この街の中では、市の内外へ転移する場合を除き、基本的に能力の使用は禁止されている。一般市民が増えて、このチカラの事を知らない人の方が多いからだ。
洋子さんと色々話しをして歩いている内に自宅が見えてきた。即席で自宅の庭に作った、港の倉庫並みに大きいノイジーのハウスが良く目立つ。
そうそう、ボクの母の事だが、川上さんに『中央センター内で研究しませんか?』というオファーがあり、今はそちらに日夜こもっている。もう住んでいると言っても過言ではない。
ノイジーがお出迎えに出て来てくれるのは嬉しいのだが、『ガシャガシャと足音がうるさい!』と、近所からまたクレームが来そうで憂鬱になる。相変わらず洋子さんのいう事しか聞かない。
「ノイジー!寂しかったでしょ?よしよし〜。良い子良い子…、ノイジー、ハウス!」
洋子さんの側まで来て、喉元をガシガシしてもらったノイジーは、普通の子犬みたいに目を細めていたが、洋子さんの指示にカッと目を見開き、専用ハウスへと戻って行った。その庭に植えられてある芝生には、ゴルフクラブのアイアンで抉られた様な穴があちこちに見える。それらはノイジーが走る度に増える。
フォォォォォッ! 「お気に入り様、ご報告があります。」
風の如く庭に姿を現し、そう告げてきたのは、善さんの街を受け継いだ『シャクシ』さんだ。少し驚いたが、川上さんの決めたこの街の誓約を思い出し、辺りをキョロキョロ見回すボク。
「シャクシさん、場所を選ばないとマズイよ。人に見られでもしたら…。」
「も、申し訳ありません。緊急を要する事案なので慌てておりました。」
「シャクシ…、緊急を要する事案って何よ?稜くんなら貸さないわよ!?」
洋子さん…、雰囲気からしてそれは無いと思うよ?善さんじゃあるまいし。
「いえ、私はお気に入り様にその様な感情はありません。」
う…、ソレはソレで少し寂しい様な…。
「それよりも、お気に入り様!ゆうこ様の危険を察知致しました!ご本人様より口止めをされておりました。ゆうこ様はお気に入り様の父上を討伐しに向かわれたのです。」
「え…、と、シャクシさん、ボクの父は実験材料として死んだはずでは?」
「いえ、藤永の手により、青木同様の強化改良生物となっている様です。これは貴方の母上様の情報です、間違いありません。」
「お母さんが!?なぜボクに話さなかったんだ…。」
「り、稜くん…、ごめん。実は…、お義母さんから黙っている様に言われてたの。」
ゆうこさんが危険だと言う情報に引き続き、母が一枚かんでいる事、更には洋子さんまでもがこの事を知っている様子に、ボクは驚きと疎外感を覚えて言葉が見つからない。
「稜くんに父親を殺させる事が出来ないと言う、お義母さんの気持ちにゆうこが応えたの。勿論、私も同じ意見だよ。」
「そうだったの…、皆んなに気を使わせちゃったね。でもゆうこさんが危ないんだよね?行かないと。シャクシさん、場所は分かってるの?」
「はい、お気に入り様!私が誘導転移致します。お二人共、お手を!」
皆んながボクを気遣っての事だと分かり、疎外感が瞬時に消えたボクは、そう言って手を差し出すシャクシさんに、ゆうこさんの元へと案内してもらう事にした。
何かが不満で出て行ったと思われた『ゆ組』。そこには主人公の周りの人間達の優しさがあった。
これより主人公の父親であった男との、小さな戦いが始まる。




