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自己満足、他が為成らず。一年後…  作者: 赤茶猿マン
終焉に向かう未来編
14/29

突然変異。

何とか一命を取り留めたお婆さんだが、まだ油断ならない様子。そんな中主人公に…



 治癒を施してから既に二時間経つが、未だに衰弱が酷く、目を覚ます気配はない。見つけた時の傷の具合からして、恐らくヤツらにやられたモノだと推測出来る。だとしたら、お婆さんを追いかけてこの世界に戻ってくる可能性が高い。


「ゆうこさん、申し訳ないんだけど、この事を川上さんに伝えて欲しいんだ。ヤツらが来る可能性の事も含めてね。それから、出来る限り街の人の避難もお願いしたいから、それもお願い。」


「それって、この場でヤツらと一戦交えるって事なの?…、う、うん、分かったよ。万が一それまでにヤツらが現れても、独断での戦闘は控えてよね?私達だけじゃ勝てないと思うから、そっちも頼んだよ。」


ゆうこさんは何か思うところがあったみたいで、何かを言おうとしていたが、ボクの怒り爆発寸前の気持ちが顔に出ていたのかもしれない。


憎い、こんな事になったのはヤツらのせいだ。戦うからにはただ普通には殺してなるものか。そういう感情が溢れ出して来て、鼓動の高鳴りを抑える事が出来ない。ゆうこさんが忠告してくれたが、今のボクには守れるか分からない。


自宅二階の来客用寝室窓から庭を覗き見るが、今は何の気配も感じられない。


《お婆さんも気の毒だけど、それ以上に洋子さんを傷つけたヤツらを早く殺したい。出来る限り思いつく残酷な方法で!う〜…、早く来やがれ!》


「稜くん、悪いんだけどこの水を入れ替えて…、え…、誰?…、お前は誰だ!」


 お婆さんの熱を冷まそうと用意したタライを持って、水替えを頼みに来た洋子さんが、ボクに向かって戦闘の構えを取る。そして投げられた言葉も殺気がこもっているのが感じられた。


「ヨ…、ヨウコサ…ン…。アレ…、コエガ…!?」


「な、なぜ私の名前を…!もしやヤツらの!…、稜くんをどうした!!その服は稜くんのモノだ…、お前…、お前お前お前お前ーーー!!!!!」


突然の事でどうしようも無かった。洋子さんの本気の、いやそれ以上の殺気のこもった蹴りをモロにくらってしまった。部屋の壁を突き破り宙を舞うボクの身体。


それを追いかける様に壁の大穴から飛び出す洋子さん、まだ殺気は消えていない、このままではまた攻撃を受けてしまう。


《うっく…、空間転移…。》



 〜 打ち捨てられた鉱山作業場跡 〜


 とにかく誰も来ない場所を考えたらここが頭に浮かんだ。ここはいつか店長達暗殺者から、洋子さんと逃げ込み隠れた場所だ。あの時とさほど変わっていない景観だ。


かなり強く蹴り込まれたが、治癒能力のお陰で、内臓の損傷は治っているみたいだ 。先程より痛みが無いのがその証証拠だ。


重い身体を引きずりながら、ボクは以前洋子さんと隠れたあの家に入った。確か、キッチンの奥には隠し部屋があったはずだ。いざとなったらそこに飛び込めば良い。


ボクは二階へと上がる気力まで削がれていたのか、面倒になり、キッチンに向かう途中の廊下でそのまま寝てしまった。


 〜 夜 〜


 目を覚ますと辺りはすっかり暗くなってしまっていた。ここに来た時より身体が動く。どうやら完全回復したようだ。しかし、洋子さんの蹴りは危険だ。誰よりも治癒が速いボクの身体を、たった一撃でここまで追い込む事が出来るのだから。ヤツらと善戦したというのも納得だ。


雨どいが閉じられてはいるが、木製の為か光があちこちから漏れている。その一つに顔を近付け、外の様子を伺ってみたが、枯れた草が風で転がっていく様子以外に、特に変わった動きは確認出来なかった。


その事がボクを安心させたのか、自分の身体が汗臭い事に今更ながら気付いた。


《確か、以前来た時、水道は使えたと思うけど…、あ、出た出た。》


キッチンの流しで蛇口のハンドルを捻ると、勢いよく水が出てきた。いくらなんでもお風呂は無理だろうからと思い、シャツを脱いで湿らせて、それで全身を拭いて我慢する事にした。


今夜は月明かりがとても明るいみたいだ。キッチンの窓には、全て内側から新聞紙が貼り付けてあるのだが、その紙越しにも月明かりが部屋全体を照らしてくれている。お陰で足元までハッキリと見える。


身体を拭き終わり、シャツを綺麗に洗って、椅子の背もたれに掛けて干しておく。流しに溜めた水を抜こうと、底の栓を抜こうとして一瞬固まる。


バッ!と音がしそうな程勢いよく振り向いて後方を確認する。続いて天井を見上げる。


《おかしい…、確かにヤツらの顔が水面に映っていたと思ったんだけど…。》


神経がまだ逆立っているのか、気にし過ぎて幻覚まで見てしまう程参ってる様だ。そう思いながら、気を取り直して流しの水に視線を落とすと、またも同じ様にヤツらの顔が映っている。


《なっ!…、え?なんだ!?…こ、これ…、これがボクだと言うのか!?》


そう、またも振り返ろうとした時、水面に映るその姿も同じ様に動いたので、もしやと思い自分の顔を触って確かめてみたのだ。すると水面に映るソレも同じ様に顔を触っていた。


洋子さんが『誰だ!』とボクに向かって言っていた意味がようやく理解出来た。無理も無い、今のボクの顔は、ヤツらと同じで、半分怒り、半分笑っているという奇怪な顔なのだから。


《そういえば、洋子さんに話しかけた時…、声がヤツらみたいに変になっていたなぁ。何故こんな顔になったんだ?いつ?…、う〜ん…、分からないなぁ。》


可能性として考えられるのは、過去にヤツらの体液、というか血液がボクに混じったのが原因だと推測出来るが、ハッキリソレが原因かどうかは分からない。


今はどうやって洋子さん達にボクだと分かってもらうか?これが最優先事項だ。その後で母に原因究明の依頼をすれば良い。ただ、今動くのは危険だ。恐らく川上さんの部隊がボクを探しているはずだ。良い案が思いつかない以上、闇雲に動いて戦闘にでもなったら大変だ。仲間に殺されるのだけは避けたい。


それを考えたら、ヤツらは凄いと思った。一応人格は二人なのだが、身体は一つなのだから、一人で戦っているのと変わらない。たった一騎で戦場を駆け巡る英雄の様だが、残念ながらヤツらは悪だ。


今でこそボクはこんな悪者じみた顔になってしまってるけど、ヤツらみたいに一人であの洋子さん達と戦う無謀さは持ち合わせていない。


さっきまで眠っていたので、全く眠くは無いのだが、何が起こるか分からない明日に向けて、身体を横にして目を閉じ、洋子さん達と接触する為の案を考えてみる事にした。


 〜 朝 〜


 散々寝たはずなのに、またもグッスリと寝てしまっていた。良い案も浮かばないままだ。


《ボクは何て呑気な性格をしているんだ…。きっと鳥が朝からさえずる事をしなかったらまだ寝ていたに違いない!全く……、鳥?…、あ!そうか!やっぱボクはアホちんだ!》


そう、先日も『憑依』で寄生体の鳥から抜け出せずにいた時、洋子さんから念を送って貰った事を思い出した。今回も念を送り説明すれば良かったのだ。やはりボクは呑気でおっちょこちょいなアホちんだ。早速洋子さんに念を送ってみる事にした。


《洋子さん、洋子さん。応答願います…。こちら稜です、洋子さん応答を願います。》


何故無線口調なのかは聞かないでもらいたい。うまく洋子さんに届くといいのだが。


《り、稜くん?…、稜くんなの?無事なの?洋子だよ稜くん。もう一度声聞かせて…。》


どうやらコンタクト成功の様だ。


《洋子さん!うん、無事だよ。その…、ちょっと今から説明をさせて欲しいんだけど、洋子さん落ち着いて黙って聞いて欲しいんだ。いいかな?》


そう念を送るボクのお願いに同意してくれたのを確認して、ボクは昨日の事や、今のボクの状況を説明した。全てを説明し終わった時、洋子さんが泣きながら謝罪してきたが、この顔を見れば誰だってそうなるよと、月並みな慰めの言葉をかけておいた。


《洋子さん、過ぎた事はもう良いのだけど、母さんにこの事を話して、ボクの症状の改善を試みてほしいんだ。それにはそこに帰る必要があるんだけど…、大丈夫かな?》


《うん、勿論だよ〜。もう攻撃しない…。その代わり合言葉とか決めてくれると分かり易いかも。もし稜くんに成りすましたヤツらだったら、ここにいる人達が危険に晒される事になるから。》


洋子さんが言う事ももっともだ。と言う事で合言葉を色々と提案したのだが、結局洋子さんが決めてしまった。最初からそうしてくれても良かったのに。


合言葉は『洋子さん愛してるよ』だ。何だかこれの方がよほど単純なのだが、洋子さんが満足そうな感じだったので仕方ない。


ボクは今から帰ると念を送り、懐かしいこの鉱山跡を後にした。

相変わらずお騒がせで緊張感の無い主人公。おまけに抜けているときてる。いい加減学習という事を知ろうね。

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