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「まさか、この俺が外しただと?」
お嬢様が狙撃された公園から、
約300メートル程離れた場所にある廃ビルの屋上で、
外国人風の男が呟いた。
「間に割って入って来た男に当たったのか?
いや、負傷した感じは無かったな、
まあ良い、次で仕留めてやるさ。」
「いいや、お前に次は無いぜ。」
誰かが、男の後ろから声を掛けた。
「何!?お前は誰だ!
気配を感じなかったが、いつの間に俺の後ろを取ったんだ!?」
「どうせ言っても信じないさ、
取り敢えず眠っとけや。」
一郎は、狙撃犯を魔法で眠らせると、
最寄の警察に、
『銃らしきものを持った男が廃ビルに入って行くのを見た。』と、
通報しておいた。
お嬢様狙撃事件から数日たった、ある日、
K&T探偵事務所を若い女性の客が訪れた。
「すいませ~ん。」
「はい、いらっしゃいませ、
当探偵事務所へようこそ、お出で下さいました。」
「私は獅子頭って言うんだけど、
貴女は?」
「私は、当事務所の社長をして居ります香月と申します。
以後お見知りおきを・・・」
姫花は、名刺を差し出しながら告げた。
「このチラシを持ってた、
男の人が居ると思うんだけど・・・」
「ああ、当社の調査員の田中ですね、
生憎、ただ今、調査に出て居りますが、
そろそろ帰ると思います。」
「そうですか、
では、田中さんが戻るまで、
待たせて貰っても良いですか?」
「ええ、それは構いませんが、
その・・・先程、獅子頭さまと名乗られましたが、
もしかして、貴女は・・・」
「ええ、内閣総理大臣の獅子頭 華山は、
私の父です。
私は娘の華音と申します。」
「あの、獅子頭総理の娘さん・・・」
現在、日本の内閣総理大臣を務める獅子頭 崋山は、
5年前に総理大臣へと就任を果たしたのだが、
就任直後より、思い切った経済政策を打ち出して、
日本の経済を回復させたり、
近隣諸国への強気の外交で、国民人気は高いのだが、
その強気な政策と発言から、多くの敵も生み出していた。
実際に、何度も暴漢に襲われていたが、
優秀なSPの活躍や、
本人も若き日より武道に打ち込んで、
鍛え上げられた肉体の身体能力により、
難無く切り抜けていた。
「ただいま~。」
その時、最近のライフワークと共に仕事であるペット探しを終えた、
一郎が事務所に戻って来た。
「お帰り田中くん、お客様がみえてるわよ。」
「俺に、客だって?」
「あの時の人だわ!間違いない!」
「あの~、
どこかで、お会いしましたっけ?」
「田中くん、このお嬢さんは獅子頭総理大臣の娘さんなのよ。」
「そんな、お嬢さんが何だって俺に・・・お嬢さん?
あんた、あの時の公園に居たお嬢さんか!」
「そうです。
あの時は、ありがとうございました。」
「あの時って?」
「この、お嬢さんが狙撃された時に、
偶々(たまたま)、近くに居た俺が助けたんだよ。」
「それって、この前、
有名な犯罪狙撃手が捕まったってニュースでやってたアレ?」
「ああ、俺がとっ捕まえて警察に連絡したんだよ。」
「やっぱり、あの犯人を捕まえたのは、
貴方だったんですね。」
「そんな面白そうな事を、何で黙ってたのよ。」
「だって社長に話したら、
県警の最上警視正に伝わるかも知れないだろ?
そうなると、取り調べとか色々と面倒じゃないか。」
「何で?協力すれば良いじゃない。」
「そうなると、何で狙撃手が居た場所が分かったんだとか、
どうやって、そんなに早く移動したんだとか問題になって来るだろ。」
「ああ、それもそうか・・・」
「そう、それよ!
後から警察の人から聞いたけど、
私が狙撃されたから犯人が捕まるまで、
数分しか経っていなかったって言うじゃない、
どうやって、あんなに早く移動出来たのよ?」
「それに付いては企業秘密って事で。」
「分かったわ、
パパに命の恩人が見つかったから、
警察の偉い人に連絡してって言っとくわね。」
「えらく性格が良い、お嬢さんだな。」
「ええ、良くそう言われるわ。」




