ケース10 令嬢襲撃事件
K&T探偵事務所の出勤時間は朝の9時だ、
今日も、いつもの様に社員の一郎が出勤してくる。
「おはよう、社長。」
「おはよう、田中くん。」
社長の姫花も、いつもの様に挨拶を返した。
「今日は、何か新しい依頼は入ってるのか?」
「いいえ、ここのところ、コレは!って依頼が無いわね。」
社長の姫花は、一般の興信所に勤めていたのだが、
もっと、自分がやりたいと思える案件を求めて、
一郎と共に探偵社を開業したのだ。
「じゃあ、今日もペット探しをしてくるぜ。」
「いいわよ。」
一郎は、ただ単に悪人を懲らしめたいのと、
依頼者たちの喜ぶ顔を見たくて始めた仕事なので、
依頼内容に拘りはない、
最近は、空いた時間を使って、
セッセとペット探しの依頼を熟す日々を送っていた。
何故、ペット探しなのかと言えば、
大概の行方不明になったペットは、
まだ、飼い主の家の近くに居るので依頼が早く終えられるのと、
一郎自身が動物好きだからだ、
そして、依頼者の殆どの人が、
自分が飼っているペットの写真を所持しているので、
写真を見るだけで、その居場所が分かる一郎の能力にピッタリだからだ。
「じゃあ、今日は近場で探すとして、
3丁目のジョリーと、7丁目のマルコ、
大郷町のピックルと、西町のダイサクを探して来るかな。」
最近、一郎の探偵事務所に依頼すると、
100パーセントの確率でペットが帰って来ると、
愛好家の間に口コミで広がったので、
一郎の元には全国から、引っ切り無しに依頼が舞い込んでいるのだが、
依頼を熟す順番を週の前半は近場で、後半は県外で探す事にしていた。
勿論、中には事故死してしまっているケースも何件かあったが、
周囲に露見する恐れがある場合を除いて、
一郎は魔法で生き返らせてから飼い主の元に送り帰していた。
「ふ~、今日も無事に、
飼い主さんの元に帰してあげられて良かったな。」
一郎は、予定していた4件の依頼を熟して、
公園のベンチで缶コーヒーを飲みながら一息付いていた。
その時、
「キャ~、誰か助けて~、
誘拐されてイヤらしい事をされちゃうわ~!」と言う、
若い女性の助けを求めている大声が聞こえて来た。
「お嬢様、何て事を仰るんですか!
お父様が心配されていますから、
早く我々と一緒に、ご帰宅して下さい。」
(何だ、関係者に連れ戻されようとしている、
お嬢様か、まあ良くある事だな・・・)
実際には、ドラマや映画でしか見かけない場面なのだが、
変わり事に慣れている一郎には日常の風景にしか、
感じられていなかった。
事件性は無いと気を抜いた一郎の気配察知に、
突然、緊急を要する危険を知らせる予感が走った。
「あの、お嬢様か!?」
一郎は、身体強化を使って一瞬でお嬢様の元へと駈け付けると、
その前に、立ち塞がった。
「あっ、あなた、今どこから現れたの!?」
「お前は何者だ!お嬢様に何をする気だ!」
「早く、お嬢様から離れないか!」
「危ない!みんな伏せろ!」
一郎が、お嬢様の前で何かを払う様な仕草をすると、
足元に金属のカタマリがコロッと転がった。
スタ~ン・・・
遠距離からの射撃音は、弾丸の後から聞こえて来た。
「狙撃音!?
おい、お嬢様をお守りしろ!」
「はい!」
護衛らしき男の一人は、
一郎の様にお嬢様の盾となるべき位置に立ち塞がり、
もう一人は、お嬢様の肩を掴んで低い体勢を取らせた。
「これって・・・」
護衛に肩を掴まれて、しゃがみ込まされたお嬢様の視線に留まったのは、
まだ熱を持った弾丸だった。
(手で叩き落とした?まさかね・・・)
「俺は狙撃主を捕まえて来ます。」
突然現れた謎の青年は、
そう言い残すと、もの凄いスピードで走り去ってしまった。
「お、おい、待て!」
「狙撃主を捕まえるって、今の狙撃だけで居場所が特定できたのか?」
護衛の二人が声を発した時には、
青年の姿は、既に見えなくなっていた。
「あら、この紙は何かしら?」
お嬢様が、地面に落ちていた紙を拾い上げて見ると、
それは、ペット探しの依頼を探偵事務所にする際に記入して貰う為に、
探偵社が作成したと見られる用紙であった。
「今の人が落としたのかしら?」
お嬢様は、そう呟くと、
護衛の2人に見つからない様に、折り畳んでポケットに仕舞い込んだ。




