ケース2 婦女連続拉致暴行致傷事件
深夜2時を少しまわった時刻、
T県N町の中央病院の緊急搬入口に、
黒塗りのワンボックスカーが横付けされた。
窓は濃いシールドが貼られていて、
車内の様子は伺い知れない、
おもむろに横のスライドドアが開いて、
ゴロリと全裸の若い女性が落とされた。
車はドアを閉めると、
何事も無かったように走り去っていった。
数十分後、見回りをしていた警備員が、
女性を発見して、病院職員に連絡をとり、
ストレッチャーで中へと運び込まれた。
K&T探偵事務所の朝は9時出勤だ、
「おはよう社長!」
「おはよう・・・田中くん・・・。」
今朝の香月社長はテンション低めのようだ、
「なんか、元気無いな、何かあったのか?」
「うん・・・新しい依頼が、あったんだけど、
田中くん、演劇部の竜崎さんて覚えている?」
「もちろん覚えてるよ、ミス北高だろ。」
「そう、今回の依頼人は彼女なんだけど、
彼女の妹が、最近ニュースや新聞で、
盛んに報道されている、
拉致暴行事件の被害にあったらしいのよ、
妹さんはショックで口もきけない状態らしいわ。」
「そうか・・・
それで、今回の依頼は犯人捜しなのか?」
「ええ、犯人を捜し出して、警察に引き渡すか、
マスコミに連絡するかして、
社会的に抹殺して欲しいとの事なのよ・・・。」
「なるほどな、家族とすれば、犯人が許せないだろうな。」
「ええ、本当は自分の手で、罰を下したいと思うわよ。」
「妹さんに何とか会えないかな?」
「口もきけない状態らしいから、難しいとおもうわよ。」
「俺、アメリカに行った時に催眠治療を覚えたから、
役に立てると思うんだけどなぁ。」
もちろん、精神魔法だが・・・
「へえ・・・
田中くん、海外で色々(いろいろ)な技術を身に付けたのね、
分かったわ、竜崎さんに聞いてみるね。」
「おお、頼む。」
社長の説得で3日後に会えるようになった。
妹の遥さんは病院を退院して、もう自宅に帰ってきていたが、
家族が話しかけても反応がなく、
一日中自分の部屋でボーッとしているとのことだ、
俺は彼女に話しかけつつ、
精神魔法で彼女の心を強くしてみた。
「遥さん、俺の声が聞こえますか?」
彼女は、わずかに身じろぎしたあと、
こちらを向いて、
「あなたは誰?」と問いかけてきた。
「ええ!?私たちが話しかけても、返事しなかったのに。」
竜崎さんはビックリしたようだ。
「俺は、君のお姉さんの友人で、田中っていうんだけど、
こういう仕事をしてるんだ。」
俺は名刺を差し出した。
「探偵さん?」
「ああ、お姉さんの依頼で、
君を酷い目に合わせた連中に罰を下そうと思ってね。
犯人のことで、何か覚えていることってあるかな?」
「いえ、覆面を着けていたので、顔も分かりません。」
彼女の手を取って、記憶を読み取ってみたが、
確かに犯人たちは覆面をしていて、
顔がわからなかった。
(ここは、他の手段を取るか・・・)
俺は、まだ見つかっていない、
彼女の荷物や洋服を探すことにした。
探索の魔法とマップを組み合わせて調べてみる、
これは本来、落し物を探すときに使う魔法だが、
今回は役に立ったようだ、
T県の山中に捨ててあるらしい。
俺たちは、車や防犯カメラなどをあたってみると、
竜崎さんたちに伝えて、竜崎家を後にした。
俺が社長に、
「妹さんが下されていた病院をあたってみるよ。」と言うと、
社長は、
「じゃあ、私は捜査に進展がないか、
警察の知り合いに聞いてみるね。」というので、
二手に別れた。