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資料館へ着いた一郎たちは、
まずは資料館の周囲を結界で囲う事から始めた。
「御門くん、この建物の周りに結界が張れるかな?」
「ええ、結界石は、いつも持ち歩いているので、
結界を張る事は出来ますが、
この前の犬神の時の様に、
神が相手では、長くは持ちませんよ。」
「ああ、今、『白蛇様』を抑え込んでいる結界を解いた時に、
外に逃げなければ良いだけだから、
少しの間だけでも持てば良いぜ。」
響矢は、資料館の周囲に結界を張り巡らせて行った。
「これ程の結界を張るとは、
お主も普通の学生では無いな?」
「僕は、実家の家業が代々陰陽道ってだけで、
それ程、大した力を持っている訳では、ありませんよ。」
「いやいや、その若さで、これだけ出来れば大したもんじゃよ。」
「恐れ入ります。」
「よし!建物に結界も張れたみたいだし、
そろそろ、建物の中の結界を解くから心の準備をしてくれるか。」
一郎もアイテムボックスから、
神剣と『神の鎧』を取り出して装備した。
「はい、分かりました。」
「うむ、いつでも良いぞ。」
「じゃあ行くぜ、
『この地を縛るものよ、その役目を終えて解き放て!解呪!』どうだ?」
一郎が唱えると、建物を薄く光が包み込んで、
シャリーンと、薄い玻璃が割れる様な音が響いた。
「来るぞ!」
ズズズズ!と地震とは違って、
空間そのものが振動している様な地鳴りが響いて、
その音が徐々に大きくなってくる、
ひと際音が大きくなったかと思うと、
ドゴ~ン!と音を発てて資料館の屋根が弾け飛んだ。
「うお~っ!さすがにデケぇな~!」
壊れた屋根から姿を現したのは、
巨大な白い大蛇で、
その太い胴体からは、九つの首が生えていた。
「あの姿はまるで・・・」
その異様な姿形を見て、響矢も絶句している。
「ああ、神話でお馴染みのヤマタのオロチみたいだな。」
「まだ、目覚めたばかりで動きが鈍い様だから、
早い内に手を打った方が良いぞ。」
「そうですね、俺が引き付けるから、
御門くん、一瞬で良いからヤツの動きを停められるか?」
「近づいて護符を張らなきゃならないから、
僕じゃ、ちょっと難しいですね。」
「どれ、その護符をワシに貸してみよ、
近付いて貼り付けるぐらいならば、出来ると思うぞ。」
「分かりました。
これを、お願いします。
なるべく、胴体の中央付近に張り付けて下さい。」
響矢は、村長に護符を手渡しながら言った。
「うむ、任せろ。」
「じゃあ、引き付けるぞ、
『エアカッター!』
さあ来い!デカぶつ野郎!」
一郎が放った空気の刃は、
大蛇へ向かって一直線に飛んで行きザクッ!と胴体に小さな傷を付けた。
『ギュルァァァァン!』
大蛇が怒りの声を上げて、一郎の方へと飛んで来た。
「来たぞ!」
「よし!ワシに任せるんじゃ!
どりゃ~っ!!」
何と、村長は大蛇に跳び蹴りを加えると、
その胴体に護符を張り付けた。
「今だ!御門くん。」
「はい!『その動きを封ずる!縛!』
いいですよ、田中さん!」
護符から光の網が広がると、
大蛇の首や体に絡みついて、その動きを封じた。
「よし!任せろ!
『殺神剣!』
でや~~~っ!」
一郎は神剣を構えると大蛇に向かって飛び掛って行ったのだが、
神剣が大蛇の首に当たると、
ゴイ~ン!という音を発てて、剣が跳ね返されてしまった。
「うおっ!痛って~、手がビンビンに痺れちまったぜ、
さすがは、悪神とはいえ神だけの事はあるな。」
「無理そうですか?田中さん。」
「いや、今のは、どのくらいの堅さなのか確かめてみただけだから、
今度は魔力を纏って切るから大丈夫だぜ。
そいや~~~っ!」
再び、一郎が切り掛かると、
今度はスパスパと大蛇の首が切り落とされて行った。
「おおっ!見事だぞ!」
「田中さん、もう捕縛符が持ちそうに無いんで、
急いで下さい!」
「おう!もう少しだから何とか持ってくれよ!」
『ギュラァァァァァン!』
大蛇が断末魔の悲鳴を上げる。
一郎が最後の首を切り落とすのと、
光の網が消え去るのは、ほぼ同時であった。
「「「やったか!?」」」
大蛇の体を縛っていた光が消え去ると、
大蛇の体はズズ~ン!と地面に崩れ去った。
しばらく、一郎たちが様子を見ていると、
大蛇の体がサラサラと崩れ始める。
「どうやら、本当に倒せた様じゃの。」
「いつもながら、田中さんの力には驚かされますね。」
「伊達に、地球最強を名乗っている訳じゃねぇからな。
うん?」
一郎が声を上げたので、響矢と村長が視線の先を追って見ると・・・
「剣・・・いや、骨ですか?」
大蛇の体が消え去った後に、
剣の様な形をした骨が残されていたのだった。
「まるで、神話に出て来る剣みたいですね。」
「ああ、骨とはいえ、かなりの力を秘めている様だぜ。」
一郎が、骨を拾い上げながら言った。
「そうなんですか?」
「ああ、へたな悪霊ぐらいならイチコロだな。」
「その骨は、そなた達が持って行ってくれぬか。」
「いいんですか?
村のご神体くらいには、成ると思いますよ。」
「その神は、この村に取っては厄病神だからのう、
それに、受けた恩を返す当ても無いからの。」
「そういう事でしたら、
これは、お礼の品として受け取って置きます。
どうだ、御門くんが使わないか?」
「良いんですか?田中さん、
悪神を倒したのは、あなた何ですよ。」
「俺には、この神剣があるからな、
良かったら御門くんが使ってくれよ。」
「そう言う事でしたら、ありがたく頂いて置きます。」
「じゃあ、向こうに帰るまで、
俺が預かって置いてやるよ。」
一郎は、神剣や『神の鎧』と一緒に骨をアイテムボックスに収めた。
「ありがとうございます。
お願いします。」
「お~い!あの、大学生たちが目を覚ましたぞ~!」
村の人が、大声で村長に連絡しに来た様だ。
「どうやら、友達たちも大丈夫だった様だな。」
「ええ、良かったです。
これも、全部、田中さんのお蔭ですよ。」
「俺が、そっち関係で困った事があったら、
何か、お願いする事があるかも知れないから、
その辺は、お互い様さ。」
「ええ、その際は、是非お手伝いさせて頂きますよ。」
(これが、今回の事件のあらましだが、
仕事としてでは無かったので、
報酬は御門くんにあげた骨だけとなったが、
まあ、色々と面白かったから良しとしよう。
では、また会う機会まで、ごきげんよう・・・)




