5 - 4
その日、俺と、御門くんと、社長の姫花は、
群馬県と長野県の県境に近い、
標高800メートル程の黒神山に来ていた。
京子さんの話によると、
今年の春に、大学のサークル仲間と一緒に登ったそうで、
休憩の際に、道端の石に腰掛けていたところ、
バランスを崩して、石ごと転んでしまったそうだ、
怪我もなく、サークルの仲間たちと笑っていたのだが、
石を良く見ると、うっすらと文字を掘り込んだ跡が見えて、
石碑のような物かと思い、
急いで石を元通りに起こしたとの事だった。
「それが、この黒神山ってわけだ。」
「ねえ、田中くん、
私も、来る必要があったの?」
「ああ、今回、社長には重要な役目を果たしてもらう。」
「でも、私に山歩きなんて出来るかしら?」
「その辺は、俺に任せてもらえば良いから。」
俺は、無詠唱の魔法で、社長に身体強化を付与した。
「御門くん、お願いした物を、持ってきて貰えたかな?」
「ええ、祖父に、お願いして、
捕縛符を作って貰いましたが、
何しろ、相手は祟り神ですからね、
そう長くは抑えておけないと思われます。」
「ああ、それで良いんだ、
少しの間、抑えててくれれば、俺が何とかするから。」
「分かりました。
僕も、頑張ってみます。」
俺たちは、山道を登り始めた。
それ程、急な登りではなく、
休日には家族連れで、
ハイキングに訪れる人もチラホラ居るそうだ、
今日は平日なので、他に登山客は見当たらない、
日差しは初夏の強い光だが、木々の間を抜けてくる風は涼しくて、
少し汗ばむ体をクールダウンしてくれる。
「ちょっと田中くん、登ってるのに、下ってるみたいに楽なんだけど・・・
足にも、全然負担がないし・・・」
社長がヒソヒソと話しかけてくる。
「そういう魔法だからな。」
「へ~、便利なもんね。」
小一時間ほど歩いた頃、御門くんが話掛けてきた、
「そろそろの様ですね。」
「ああ、なかなかのプレッシャーだな。」
山道の先から、目に見えない力が感じられる。
「えっ!?えっ!?」社長は、別段、何も感じないようだ。
「社長、何か扱える武器ってある?」
「祖母が薙刀の師範をしてたから、
祖母が亡くなった、中学生の頃まで習ってたけど・・・」
「そんじゃ、これなら使えるかな?」
俺は、手持ちの武器から、槍を呼び出して社長に手渡した。
「何コレ!妙に手に馴染むし、
重さを感じないんだけど!」
「今どこから出したんですか!?
それに、その槍から、強力な力を感じるんですが・・・」
「取り出したのは、俺の特技の一つで、
見えない空間に、物を保存しておける力だ、
そして、その槍は神槍だな。」
「「神槍!!」」
「さて、祟り神退治と参りますか。」




