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嘆きのボインダ  作者: 霧島流清
1/1

ときめきのボインダ

彼女は歩いていた。

愛する者を慕って、山道を進んでいった。


”クレイブ様――”

愛しい男の名を、その胸に呼んだ。

”クレイブ様ったら、突然ボインダが姿をお見せしたら、どんなにびっくりなさる事かしら”

乙女は愛おしさにはち切れんばかりの思いを胸に宿しながら、どこまでも続く道を歩いてゆく。


彼女の名はボインダ。


ボインダは、一月あまり後に結婚を控えていた。彼女の婚約者、クレイブがこの先の町に用があり、一週間近くも留守にしている。彼と会えない日々が続き、切なさにボインダの想いは募るばかりだった。

”クレイブ様”

ボインダは、ついに決心した。

”クレイブ様、ボインダは会いに参ります”

クレイブの居る町まで、女の足でも半日あまりで到着する。何度も行った事もある。だだし、一人で行くのは初めてだった。

如何によく知った道とは言え、女の一人歩きは危険である。しかし、恋する乙女の情熱は誰にも止められないのだ。



「ボインダ?」

クレイブの、驚いた顔をボインダは想像する。

「ボインダ、どうしてここに?」

「クレイブ様にお会いしたくて――ボインダは来てしまいました」

「なんて無茶な事をするんだ、」

「申し訳御座いません」

「そうじゃない、君は、自分のやった事がどれだけ危険なのか、判っているのかい?」

「ああ、クレイブ様――」

ボインダの妄想は続く。

「申し訳御座いません、クレイブ様に会いたいばかりに、ボインダは危険な旅路についてしまいました」

「そうじゃない、ボインダ」

「クレイブ様」

「君の事が心配で心配でたまらないんだ。愛するボインダのみに、もしも間違いでも起こったりしたら……」

「ああ、クレイブ様、そこまでボインダの事を――」

「ボインダ」

「クレイブ様」

「もう、こんな危ないことをしてはいけないよ。帰りは一緒だ。絶対、君から目を離したりしないから、覚悟するんだ」

「はい、クレイブ様」


”きっと、こんな風に――”

愛する二人の物語を脳裏に描き、ボインダは幸せに微笑むのだった。


希望と愛情にときめきながら、小さな冒険にボインダは勇躍した。


”待っていてくださいませ、クレイブ様。ボインダは、今すぐおそばに参ります”

乙女の純愛の前には、如何なる障害もその道を阻む事などできない。

ボインダは、それを信じて疑わなかった。

しかし、それはただの幻想に過ぎない。

ボインダは知らなかった。

これより己の身に降りかかる、果てしない悲劇を。軽はずみな行動が取り返しのつかない非情の運命を招くなどと言う常識的な事実ですら、恋に目の眩んだ哀れな乙女には理解できないのである。

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