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第27章:総清算(リクイデーション) ―― 血塗られた薔薇の村

――キィィィィィアアアアッ!


 猛禽もうきんの鋭い鳴き声が夜空を切り裂き、直後に「ギギギィ……ドォォン!」という重々しい音を立てて、ルークソウの城門が開放フルオープンされた。


闇の奥から、マーベリー卿の軍勢とトーマスの傭兵団が、音もなく、しかし確実な足取りで進軍を開始した。それは海岸線を飲み込もうとする漆黒しっこく波濤はとうのようだった。


 穀物倉庫こくもつそうこの屋上で、ハンスは上空を過ぎ去るハヤブサの足に結ばれた「紅い印」を確認した。彼は深く息を吸い込み、首にかけた銀の笛を吹き鳴らした。


 ――ピィィィィィィィッ!


 それは、この「監査バトル」が最終段階である


全資産流動化フル・リクイデーション


に達した合図だった。

「食うのを止めろ、この能無し共が!」カエル将軍が叫ぶ。その声は、かつて経験したことのない恐怖で裏返っていた。


「これはわなだ! 周りを見ろ!」

 言葉が終わるが早いか、それまで固く閉ざされていた民家の扉が一斉に跳ね飛ばされた。


 ――バァァン! バァァン! バァァン!


 だが、中から現れたのは非力な村人ではなかった。二階の窓から、屋根の隙間から、そして地下室の入り口から、無数のクロスボウの銃口が突き出されたのだ。


「放てっ!」ハンスの冷徹な号令が響く。

 ――シュッ! シュッ! シュシュシュッ!

 至近距離ポイント・ブランクから矢の雨が降り注ぐ。


 ――ドスッ! グサッ! ギャアァァッ!


 よろいを脱ぎ捨てていた騎士たちはなすすべもなく崩れ落ち、口に含んでいたパンは一瞬にして鉄の味――血の味へと変わった。


略奪品ぶっしあふれていた食卓は、今や生臭なまぐさ鮮血せんけつの海と化した。


「退却だ! 本陣キャンプへ戻れ!」カエルが剣を引き抜き、心臓を狙った矢を叩き落としながら叫ぶ。


 しかし、彼らが村の出口へと引き返した瞬間、その希望は粉砕ふんさいされた。正面からは、完全武装を整えたルークソウの重装騎士団じゅうそうきしだんが突撃を開始し、唯一の退路を完全に封鎖ロックしていたのだ。


「貴様らぁ……ッ!」カエルは歯噛はがみした。精鋭エリートたちが家畜かちくのようにほふられていく光景に、瞳が怒りで血走る。「全騎兵、構えろ! 突破するぞ!」


 ――ドウッ、ドウッ、ドウッ、ドウッ!


 王宮騎兵団が最後の手向けと言わんばかりに馬を走らせる。二つの巨大な武力が衝突(激突)し、鼓膜こまくを揺さぶる金属音がとどろいた。


鋼が鋼を削り、骨が砕ける鈍い音が響き渡る。

 その混乱の最中さなか、トーマスがおどり出た。


彼の巨剣バスターソードが空を切り裂き、王宮騎士の盾と鎧を、まるで紙屑かみくずのように一刀両断いっとうりょうだんにする。


反対側からは傭兵たちが闇の中から執拗しつように火矢を放ち、敵の動揺パニックを誘う。

「一騎たりとも馬に乗せるな!」トーマスの怒号が、武器のぶつかり合う音をあっする。


 家々に潜んでいたハンスの部隊も通りへと這い出し、生き残ったカエル軍を背後から刺し貫く。数刻前まで傲慢ごうまん不遜ふそんな笑みを浮かべていた九十七名の精鋭騎士たちは、今やハンスの短剣とトーマスの鉄槌てっついの間に挟まれた、ただの「不良在庫ごみ」に過ぎなかった。



 カエルは馬上で肩で息をしながら、泥の中に踏みにじられた王国の軍旗ぐんきを見つめた。彼は今、残酷な現実を突きつけられていた。今夜、ルークソウの薔薇ばらが摘まれることはない。


代わりにその根には、国王が誇る最強騎士たちの鮮血が、肥糧ひりょうとしてそそがれるのだ。

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