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第24章:沈黙の拷問(サイレント・トーチャー)と宣戦布告

 かたむき始め、薔薇ばらの野に伸びる影が長くなるにつれ、カエル将軍の希望は反比例はんぴれいするように短くなっていた。


 彼は木椅子に座り、指先で机を不規則なリズムで叩く。こめかみからは冷や汗が伝っていた。


「……二時間前には到着しているはずだ」

 カエルがつぶやく。彼自身の腹も鳴り始め、今日の騎士たちの昼食が通常の半分であったことを嫌でも思い出させた。


 彼は苛立ちまぎれに立ち上がり、地平線を確認しようと天幕テントの出口に手をかけた。だがその瞬間、一人の兵士が死装束しにしょうぞくのように青ざめた顔で駆け込んできた。


「将軍……補給部隊が……我らの物資が襲撃しゅうげきされました!」

 カエルは硬直こうちょくした。心臓が一時停止したかのような衝撃。「……何と言った?」


 地をうような低い声。聞き間違いであってほしいという、すがるような威圧いあつがそこにはあった。


「はっ! 到着があまりに遅いため偵察ていさつに向かったところ、西の谷の『鼠の小道』が血に染まっておりました。輸送隊の十名は全滅……。小麦も、干し肉も、再建用の木材も……すべて跡形あとかたもなく消え去っております!」


 ――バァァァン!


 カエルが机を叩きつけ、地図がちゅうに舞った。「消えただと!? 閣僚級かくりょうきゅうしか知らぬはずの秘匿ルートで、なぜ奪われる! 貴様らの中に裏切り者がいるということだ! 全員集めろ!」


 間もなく、残存する全兵力が招集された。百名いたはずの精鋭エリートは、今や九十七名に減っている。


「……クソッ、やはりこの中に寝返ねがえったネズミがいやがるのか」

 空腹と不信感にさいなまれる兵士たちの間で、どよめきが広がる。

「将軍、その裏切り者を探し出し、処刑しょけいすべきです!」


「ロジスティクスを奪ったぞくも追わねば!」

 えた兵たちの騒がしい声がカエルの鼓膜こまくを焼く。「静まれ! 内紛ないふんきょうじている時ではない!」カエルは断言した。


とりでの中に『二日後の決戦』を求める最後通牒さいごつうちょうを送れ。もし拒むようなら、周辺の村々を蹂躙じゅうりんし、略奪りゃくだつを尽くすとおどせ!」


 カエルの命令を受けた伝令が、即座にルークソウの城門前へと駆け寄った。城壁の弓兵たちが一斉に狙いを定める中、伝令は右手にかかげた書状レターを地面に置き、叫んだ。


「我らは使いだ! この書状を貴殿きでんらのあるじへ!」

 伝令はそのまま背を向けて去っていった。しばらくして、城内から一人の兵士が現れ、それを拾い上げて奥へと消えた。


【ルークソウ城 ―― マーベリー卿の執務室】


 届けられたばかりの書状を、マーベリー卿が震える手で奪い取った。そこにはカエルの爆発ばくはつせんばかりの怒りが、力強い筆致ひっちきざまれている。読み進めるうちに、卿の顔から血の気が失せていった。


「二日後の平地決戦……拒めば外縁がいえんの村々を略奪りゃくだつするだと!?」


 マーベリーはかすれた声で叫び、私を振り返った。その瞳には純然じゅんぜんたるパニックが宿っている。「サラ様、これは破滅カタストロフィだ! ハンスの部隊がいるとはいえ、領民が犠牲になる! 村が焼かれれば、我々はすべてを失う!」


 私は優雅に足を組み、冷静に座っていた。その書状を手に取り、一瞥いちべつして机に戻す。冷めかけた茶をすすり、心地よい苦味にがみを味わった。

「落ち着きなさい、マーベリー卿。深呼吸をして」


 私の静かな声は、部屋の混乱をしずめる絶対的なオーソリティを帯びていた。「間もなく、奴らが受け取るはずだった物資が裏門に届くわ。トーマスが、王国の小麦を我々のうたげのために運んできているのよ」



「だが、略奪のおどしはどうするのです!? すぐに返事を出して止めさせねば!」

 私は口のはしを吊り上げた。捕食者プレデターの笑みだ。「……返事など出す必要はないわ。奴らを『不確実性ふかくじつせい』の中に放置しなさい。沈黙サイレンスこそ、パニックにおちいった者への最も残酷な拷問よ。


 カエル将軍には、村を襲って主導権イニシアチブを握ったと錯覚さっかくさせておけばいい」

 私は立ち上がり、正体を隠すターバンと黒のドレスを整えた。



「それこそが私の待っていた好機チャンスなのよ、マーベリー卿。奴らに外縁の村へ侵攻させなさい。我々が用意した『からの民家』を略奪させ、勝利の美酒びしゅわせるの。


 奴らがよろいを脱ぎ、安堵あんどして眠りについたその時……」

 私は地図の東部セクターを鋭く指差した。

「……そこが、奴らの屠殺場とさつじょうになるわ。


 泥のように眠る騎士たちを、一人残らず『仕留しとめる)』の。備えのある騎士と戦う必要はない。私たちがほふるのは、勝利を夢見ていびきをかいている無防備な肉塊にくかいよ」


 マーベリー卿は、戦慄せんりつした表情で私を見つめた。この「サラ」という女の皮を被った怪物の内側には、慈悲じひなど微塵みじんもない軍事マネージャーの頭脳が詰まっていることを、彼は痛感つうかんした。


「カエルは『名誉』を求めているのかしら? 結構ね」

 私は遠方の敵陣をにらえ、低くささやいた。


「略奪品で腹を満たし、勝利の夢を見ながら死なせてあげるわ。……その心臓を、私の剣がつらぬく瞬間にね」

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