表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/24

第20章:仮面の合議(ボード・ミーティング)と開戦の狼煙

【オク・ボナシ王宮 ―― 地下の隠し部屋】


 華やかな貴族街の喧騒けんそうの裏側、どの図面にも記されていない暗い一室。五人の影が円卓えんたくを囲んでいた。


彼らの顔は冷たい陶器とうき白仮面しろかめんに隠され、高級煙草タバコの煙と焦燥感しょうそうかんよどんだ空気を満たしている。


「……どういうことだ?」牛の仮面タウルスを被った男が、沈黙を破った。「アイシャという厄介払やっかいばらいをしたはずが、なぜそれ以上に質の悪い事態を招いている?」

「今の主役ヒロインがあまりにおろかすぎるからだ」向かいの猿の仮面モンキーが、しわがれた声で吐き捨てた。


「王子も王も、あの女を甘やかしすぎて正気を失っている」

薔薇ばらのためにルークソウへ侵攻するなど、あまりに突発的で巨額きょがくの資金を浪費する。


兵站ロジスティクスはガタガタだぞ」狼の仮面ウルフが口を挟む。「また増税でもするか? 王宮騎士団ですら配給が足りていないというのに。腹を空かせた連中が、富をめ込んでいる我ら貴族に牙をかぬか心配だ」


 リーダー格である獅子の仮面レオが、重いリズムで黒檀こくたんの机を叩いた。彼は滅多に見せない仕草で深く溜息をついた。


「……はぁ。正直、アイシャを追放したことを少し後悔しているよ」

「だが、あのまま彼女を置いておいても、我々の取り分がなくなるだけで面倒だっただろう?」牛の仮面が言い返す。



「それもそうだ。……あぁ、アイシャがいた頃の置屋おきやが恋しいよ」猿の仮面が下卑げびた冗談を飛ばす。

「置屋といえば、粘液地区スライム・ディストリクト不穏ふおんな動きがある。それとエララだ。


あの女が反抗的になり始めたというが……今回のルークソウ侵攻も、彼女の教唆きょうさによるものではないのか?」獅子の仮面が問う。


「あのビッチめ、教育が必要だな」牛の仮面が怒気をあらわにする。「おい、烏の仮面レイヴン。貴様、あの女の担当だろう? 一体何が起きている!」


 先日、馬車の中でエララを脅した烏の仮面が、外套がいとうの下で拳を握りしめた。


「……断定はできんが、アイシャのゲームだと見ている」冷徹な声が響く。

「アイシャだと?」猿の仮面が鼻で笑った。「あのアマは、今頃あそこで娼婦しょうふにでも成り下がっているんだろう?」



「アイシャはそれほど愚かではない」烏の仮面が鋭く返す。「彼女は何かをたくらんでいる。情報筋インフォーマントによれば、彼女は今、ルークソウにいるらしい」



「マーベリー卿を助けているというのか? では、今回の包囲戦ほういせんの裏には奴がいると……?」獅子の仮面が身を乗り出した。



「ああ。今回の包囲には、明らかに内部から糸を引く『頭脳』の気配がある。エララのハナへの教唆も、アイシャの関与インボルブメントによるものだろう。


……だが、エララとアイシャを処刑台へ送るための決定的な物的証拠がまだ足りん」烏の仮面は、疲れを隠せぬように手を挙げた。


「では、我々はどう動く? 傍観(中立)か、抹殺(殺戮)か、それとも加担(援助)か?」狼の仮面が苛立ちを見せる。


殺戮さつりくを選べば我々も損をする。騎士が飢えれば、次に首をねられるのは我らだ。中立を保てば王の信頼を失うリスクがある。


だが援助? アイシャの計画が成功するかどうかも分からん」猿の仮面が、そのリスクを並べ立てる。


 再び沈黙が部屋を支配した。五人の貴族は、アイシャへの恐怖と、自らの強欲ごうよくの間で板挟いたばさみになり、頭を抱えていた。


「……だが、火が回る前に、我々も火遊び(賭け)をせねばならんだろうな」牛の仮面が呟く。

「ああ。まずはアイシャに結果を出させよう。勝算が見えた時に、我々が介入する」獅子の仮面が断言した。


「それが最善だ。……レイヴン、貴様の工作員をより密に動かせ」

「当然だ。私もこの安泰あんたいな暮らしを終わらせたくはない」烏の仮面が応える。


「ならば、解散だ」猿の仮面がうながした。

 一人、また一人と仮面の男たちは暗い隠し通路へと消え、裏切りの残りだけが空中に漂っていた。


【ルークソウ境界 ―― 最前線】


 貴族たちが密談を交わしている間、南の大地には残酷な現実が迫っていた。王宮騎兵団おうきゅうきへいだん蹄音ていおんが、雷鳴らいめいのように近づいてくる。


カエル将軍が手綱たづなを引き、ルークソウ城を射程にとらえた位置で停止した。

 銀色ぎんいろの鎧を輝かせた百騎の精鋭騎士たちが展開し、包囲計画通りに三つの正門を封鎖ロックしていく。



 屋敷のバルコニーに座り、私は望遠鏡テレスコープ越しに彼らを観察していた。傲慢ごうまんにたなびく王国の軍旗ぐんきが目に入る。


舞台セットは整いました、サラ様」サミュエルが隣で低くささやいた。

「ええ」私は薄く微笑んだ。


「今夜は、精々(せいぜい)勝利の気分にひたらせてあげなさい。……明日の朝、この薔薇ばらたちが、奴らの破滅の沈黙の目撃者になるのだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ