第20章:仮面の合議(ボード・ミーティング)と開戦の狼煙
【オク・ボナシ王宮 ―― 地下の隠し部屋】
華やかな貴族街の喧騒の裏側、どの図面にも記されていない暗い一室。五人の影が円卓を囲んでいた。
彼らの顔は冷たい陶器の白仮面に隠され、高級煙草の煙と焦燥感が澱んだ空気を満たしている。
「……どういうことだ?」牛の仮面を被った男が、沈黙を破った。「アイシャという厄介払いをしたはずが、なぜそれ以上に質の悪い事態を招いている?」
「今の主役があまりに愚かすぎるからだ」向かいの猿の仮面が、しわがれた声で吐き捨てた。
「王子も王も、あの女を甘やかしすぎて正気を失っている」
「薔薇のためにルークソウへ侵攻するなど、あまりに突発的で巨額の資金を浪費する。
兵站はガタガタだぞ」狼の仮面が口を挟む。「また増税でもするか? 王宮騎士団ですら配給が足りていないというのに。腹を空かせた連中が、富を溜め込んでいる我ら貴族に牙を剥かぬか心配だ」
リーダー格である獅子の仮面が、重いリズムで黒檀の机を叩いた。彼は滅多に見せない仕草で深く溜息をついた。
「……はぁ。正直、アイシャを追放したことを少し後悔しているよ」
「だが、あのまま彼女を置いておいても、我々の取り分がなくなるだけで面倒だっただろう?」牛の仮面が言い返す。
「それもそうだ。……あぁ、アイシャがいた頃の置屋が恋しいよ」猿の仮面が下卑た冗談を飛ばす。
「置屋といえば、粘液地区で不穏な動きがある。それとエララだ。
あの女が反抗的になり始めたというが……今回のルークソウ侵攻も、彼女の教唆によるものではないのか?」獅子の仮面が問う。
「あのビッチめ、教育が必要だな」牛の仮面が怒気を露にする。「おい、烏の仮面。貴様、あの女の担当だろう? 一体何が起きている!」
先日、馬車の中でエララを脅した烏の仮面が、外套の下で拳を握りしめた。
「……断定はできんが、アイシャのゲームだと見ている」冷徹な声が響く。
「アイシャだと?」猿の仮面が鼻で笑った。「あのアマは、今頃あそこで娼婦にでも成り下がっているんだろう?」
「アイシャはそれほど愚かではない」烏の仮面が鋭く返す。「彼女は何かを企んでいる。情報筋によれば、彼女は今、ルークソウにいるらしい」
「マーベリー卿を助けているというのか? では、今回の包囲戦の裏には奴がいると……?」獅子の仮面が身を乗り出した。
「ああ。今回の包囲には、明らかに内部から糸を引く『頭脳』の気配がある。エララのハナへの教唆も、アイシャの関与によるものだろう。
……だが、エララとアイシャを処刑台へ送るための決定的な物的証拠がまだ足りん」烏の仮面は、疲れを隠せぬように手を挙げた。
「では、我々はどう動く? 傍観(中立)か、抹殺(殺戮)か、それとも加担(援助)か?」狼の仮面が苛立ちを見せる。
「殺戮を選べば我々も損をする。騎士が飢えれば、次に首を撥ねられるのは我らだ。中立を保てば王の信頼を失うリスクがある。
だが援助? アイシャの計画が成功するかどうかも分からん」猿の仮面が、そのリスクを並べ立てる。
再び沈黙が部屋を支配した。五人の貴族は、アイシャへの恐怖と、自らの強欲の間で板挟みになり、頭を抱えていた。
「……だが、火が回る前に、我々も火遊び(賭け)をせねばならんだろうな」牛の仮面が呟く。
「ああ。まずはアイシャに結果を出させよう。勝算が見えた時に、我々が介入する」獅子の仮面が断言した。
「それが最善だ。……レイヴン、貴様の工作員をより密に動かせ」
「当然だ。私もこの安泰な暮らしを終わらせたくはない」烏の仮面が応える。
「ならば、解散だ」猿の仮面が促した。
一人、また一人と仮面の男たちは暗い隠し通路へと消え、裏切りの残り香だけが空中に漂っていた。
【ルークソウ境界 ―― 最前線】
貴族たちが密談を交わしている間、南の大地には残酷な現実が迫っていた。王宮騎兵団の蹄音が、雷鳴のように近づいてくる。
カエル将軍が手綱を引き、ルークソウ城を射程に捉えた位置で停止した。
銀色の鎧を輝かせた百騎の精鋭騎士たちが展開し、包囲計画通りに三つの正門を封鎖していく。
屋敷のバルコニーに座り、私は望遠鏡越しに彼らを観察していた。傲慢にたなびく王国の軍旗が目に入る。
「舞台は整いました、サラ様」サミュエルが隣で低く囁いた。
「ええ」私は薄く微笑んだ。
「今夜は、精々(せいぜい)勝利の気分に浸らせてあげなさい。……明日の朝、この薔薇たちが、奴らの破滅の沈黙の目撃者になるのだから」




