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第93話 複製体:ルービック

「ぬるいのよ、その程度の意思で」

「!?」

「いったいなにを護れる気でいるの」


 間合いに迫った複製体が、彼女の顔と声でそう言った。

 拳が下腹に入り、瓦礫ごと抉られる。


「いい加減、はっきりしたらどう?

 あなたはクラフトに翻弄され、自らをもっとも慕った人たちを傷つけた」

「――」

「そんなものがパビリオンに択ばれたのは、所詮クラフトがあなたを利用しやすかったそれだけに過ぎない、いい加減目を覚ましなさい、愚かな子」


 自分の声で、それは確かに自分を代弁し洞察できた言葉だが、同時に恣意的な味がする。それを操る、皇帝の視点が混ざるのだろう。

 それをわかったところで、なんだと。

 変身は解除されていない……あれで致命傷でないと?


「存外大したもんじゃないよな、『私』も」

「は? そりゃそうでしょう」


 向こうは私を測りかねている。手に取るようにわかる、そういう顔をされるよりはいい。


「みんな違うの」「――」

「ウィズも、チャトランも、ジグソーも、アナグラムも。

 チャトランは私に、全員の上に立って束ねろって、それが私にはできるって……でも私にできたのは、はなから融かすだけだった。好き放題なあの人たちが、自分らしくいる手助けがしたい、みんなを、護りたい」

「それは『自分がない』ってことよ」

「そうでも、ないよ」


 吹き飛ばされてのち、身を起こす。


「私は私の我儘で、あの子たちを引っ張りまわしてきた」

「――」


 複製体はなにも言わず、ふたたび間合いを詰める。

 彼女はその拳を真っ向から掴んで止めた。


「力に選ばれただけじゃない、みんな前を向いて。

 ウィズは星と希望に、チャトランは自らの満足に、ジグソーは歌に、アナグラムは言の葉に、最初からやりたいことが決まっていて……てんでバラバラだけど、みんなほかの同級生たちなんかより、よっぽど情熱パッションがあって――なら私の夢は」

「誰かと比較してしか得られない夢なんて、夢と言えない」

「もう叶っていたの」

「は?」

「……やっぱりあなたは『私』であって『今の私じゃない』んだね。置いてきてしまった私だ。

 パビリオンのみんなと、出逢う前の私」

「――」


 ただ私がそう在った、皇帝の目から見た成長のない私だったろう、それだけのこと。

 ゆえに自己へ対する批判であり、皇帝という強者から私らに宛てた、遠回しな批難でもある。踏破するだけの価値はあろう……ほかのビットリンたちや召喚されたマテリアール獣らが、街を徘徊しなければ、それなりに吟味し、咀嚼すべき条項だ。

 皇帝は碑郷に有害である。


「私は私のまま、もう一度進むよ」


 過去、誰かと共有した時間、戻らない記憶の空白、いずれも今は重要じゃない。

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