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第90話 クインセル

「五つのクラフトを同時に扱うとは。

 ……貴様、独りでパビリオンを演じる気か?」


 ナンバーは首を横に振る。


「それは向こうで、もうあんたがやってることだろう」


 向こう――複製体ナイトメアドレスたちが、少女たちとぶつかる様――事情をわかったものからすれば、滑稽極まりないマッチポンプ。

 皇帝は少年の『粋』に、豪快に笑った。


「お前もな?

 自らの力で欺瞞した以上、都合のいい幕引きなど俺が認めぬ。あの子らと貴様は、民衆を欺いているのだ、危険に晒してまで――とりわけ王成という娘は、自らが嫌った為政者のなまなりにも至れぬ。

 責任を負わず、成果のみに至ろうとした、故に誤った」

「過去はそうだったかもしれない。

 けど――俺はチャトランを信じてる。

 あの子らは、碑郷の守人もりとへ返り咲く……目の前にどのような壁が立ちはだかろうと、生まれ変わったパビリオンは、もうあんたの知ってる小娘たちじゃない。

 おのが身をもって、それを証明するさ、だから」

「ほぅ」


 ゴルフクラフトの力が編む蟻地獄――吸われかかって、皇帝は後退して逃れる。


「いつまでも高みの見物とはいかせねぇよ、皇帝陛下?」


*


 皇帝への――潜在的な恐怖、ないし戦慄は、パビリオンたち五人の身にも沁みついていた。

 帝国の中へ入り、ナイトメアドレスを纏った彼女らが独自の裁量で動くために、王成は彼女なり、皇帝の直下へ取り入ろうとした……その結果は徒労だったが、まったくの無意味ではない。


「やはりモノリスによる、マテリアール獣やその力に、あの男ははなから依存などしていない!

 あれほど絶大な力を手中へ納めておきながら――」


 今時点のパビリオンでは、あの男を倒すだけの決定打がない。それは新しい姿を得たナンバーとて同じはずなのに、

(男同士――あの男、ナンバーとの戦いを愉しんでいる……遊んでいるわけでさえない、徒手空拳のたび、衝撃波がこちらまで伝わって――)

 碑郷という地の利があるはずなのに、地表と付随する施設の多くが見る間に破壊され、人々の悲鳴さえ掻き消えた。


「アレの巻き添えだけで、何人?」


 奴の破壊で、人が死ぬ。これまでの帝国の連中たちは、人材の拉致に固執していたが、皇帝にはその意識が希薄どころかむしろ、この場にいる凡愚など皆殺しでも構わない、そのような冷徹さえ、挙動のひとつひとつから滲み出ている。


「――『ルービックリスタルラミネート』!」


 目に見えたところから、ルービックが技による防御エフェクトを発動し保護するのだったが、直後、冷たい声が聞こえる。


「――『オーバーラップ』」

「私の技を、模倣で超そうなんてッ!!?

 ナンバーじゃないんだから!」


 市民を防御する六面体のうえに、さらなる六面が折り重なり――圧縮しようとした、複製体の仕業だ。

 すでに発動した技そのものに上書きすることで、向こうは消耗も少なく、その主導権だけもらって、中の市井を人質にとれてしまう。


「主導権が……人質のつもり!?」


 ルービックが叫ぶ。

 中の親子連れが、不安定に揺れるエフェクトの中で、状況もわからずあっけにとられていた。

 やがて、向こうの管制を力技で押しのけたルービック。

 エフェクトは消え去るも、彼女は消耗している。

 複製体は人質などすでに関心がなく、ルービック本体へ急速に間合いを詰め――彼女は、防いだアンビバレントステッキを、膝で蹴折られ吹き飛んでしまった。

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