第86話 薄情者
六分儀インテリジェンスは碑郷でも最大手のIT企業であり、魅那たちの扱うスマートフォンやクラフトの解析事業にも手を出している節があった。
「やっちまったぁ……天都戸と、きちんと話さなきゃなのに」
(ナンバープレイスは、メルキオ=ゴルドとうちから出たものだって――天都戸やみんなが知ったら、どうなるんだろうな。軽蔑されるか)
彼はナンバープレイスとデジタライズクラフト、擬似クラフトたちを人の血肉を啜った呪物だと言っていた。
「うん、ムカつくけどあいつは悪くない。
覚悟決めなきゃ、私は――部外秘の情報、持ち出すわけにもいかないけど、親父には……責任を取らせないと」
企業の一部門といえ、それを代表が認知しようとしなかろうと、大問題であることに変わりはない。私はこれまで通りの生活なんてできなくなるかもしれないけど、それは口で言うよりとても怖いことなんだろう――けれど。
(そのために罪もない子どもたちが犠牲になったなんて、許されるわけがない)
「ほか4人はとかく、私は帝国へ行くべきじゃなかったかもな。
碑郷の罪は、足元にあったんだから」
*
王成は魅那への殺意をかろうじて抑えながら、話をうかがう。
「クラフトの暴走――言うほど問題かね?
みんな、振りまわされる前に侍らせればいいんだから」
「……それをチャトランガクラフトにやってるお前が言うと、妙な説得力があるよな。
一理あると想うけど」
「やらかしちゃったことはそうだけど、クラフトは私たちのパートナーだよ?
不完全なのは人間の私たちもお互い様なんだから、互いに支え合わなきゃ」
「そうやって恵瑠乃は身を削って――そんなやつに、操までくれてやったわけ?」
「盤上さん、もうよそう。
クラフトがろくでもないことは美継さん自身が、そのこと一番わかって」
「あんたは黙ってて!」
魅那も以降はばつの悪い顔で頭を掻くにとどめる。
(ずっとこいつは、恵瑠乃だけ好きだったよな。
俺よりよほど、その想いが一貫してる……)
きっと刺し違えても、お前さんはあの子に『愛してる』って、そう叫ぶんだろうな。
お前が本気で恵瑠乃を愛してるのくらい、わかってる――同じひとを好きになってしまったなら。
「恵瑠乃自身より、戦力としてのクラフトを優先するのがあんたでしょ、そんなやつが恵瑠乃を語るな、薄情者」
「――」
こいつの罵倒にもだいぶ慣れたが、今回のはやけに刺さる……この子が正しい。
「王成、やめて」「でも」「やめて」
恵瑠乃は譲らず、王成は肩を落とす。
「だったら私たちが、これまで彼にしてきたことはなんなの?
王成に話したのは、ふたりが協力してくれれば、もっといいやり方を見つけられると考えたからだよ。
チャトラン――あなたはナンバーに、捕まって尋問を受けてるという体裁で、私たちの正体が賢人にバレるか否かの生命線だって、王成だもの。あなたが何者かわかったなら、芋づる式だと私たちや、最悪の場合、関係のない同級生たちも、碑郷の連中はきっとしょっぴく。
その口実を、擬似クラフトなんて造ってるような連中に、くれてやりたくない。
私はクラフトたちと協力して、戦わなきゃダメだと想う。
この膠着が通じるのは、ほんの一時に過ぎない……まだ魅那くんに、私たちは危ない橋を渡らせてるんだよ」




