第84話 なかよし
するとテーブルの中央に正座させられた知恵乃輪を囲んでの、さながら家族会議の様相を呈している。
「……ねぇクラフトくんさぁ。どうしてこんなこと、しちゃった?」
「そのネットリした言い回しをやめろダム!!!」
「俺だってせずに済むならしたかねぇよ」
智絵もこのような事態は想定していなかったようで、流石に表情筋が引き攣っている。珍しいものを見たが、おかげで彼女は口を開く気にならないようで、代わりに魅那が話を切り出す。
朝食は平和がどっから持ってきたか、下着にエプロンというなかなか際どい格好で目玉焼きとベーコンを調理している。そっちは任せるとして――、智絵の隣にかけた恵瑠野は、すっかり俯いていた。こういうとき、なにを考えてるかわからんくて困る。
「ごめんなさい」「は?」
「昨日は自分であんな風に言っておきながら、軽蔑するよね」
「美継さんが責任感じることじゃねーでしょ」
「いや……それが……うちのクラフトも……その」
魅那はもう、正直この場から逃げ出したい。
「関わりがあると、こうなった件に。
クラフトくんたちは揃いも揃って、俺を社会的にも物理的にも抹殺したいらしいな?」
「あ、いや、だから」
『俺は恵瑠野の力を引き出しただけキュキュ――本意じゃないキュキュ』
いよいよルービッククラフトの精とご対面であるが、帝国での経緯もあって魅那は身構えることとなる。
「あ、説明してくれるんだ。それで……どういう?
お前、ずっと俺を殺そうとしてた――ろ」
一瞬言い淀んだのは、恵瑠野の肩が彼の言葉に震えるのが見えたからだ。
「なるほど、社会的な抹殺という手があったんキュキュか、この連続婦女〇〇犯」
「隠れてない隠れてない、隠すつもりもないだろお前っ……」
「というのは冗談キュキュよ、今回のは完全に恵瑠野たってのお願いキュキュ」
「あ?ふざけんな、自分のホルダーに責任を擦り付けるなよ」
「だから、恵瑠野自身の意思キュキュよ」
「……いい加減なこと言うと、本物だろうがすり潰すぞ?」
「やれんのか三下の分際でぇ」
「もはや語尾《個性》さえ捨てたな」
ところで妖精体の腰から下はぴくぴく震えている。
ホルダーがいなければ大した力は持たないので、へっぴり腰なのかもしれないが、虚勢を張るならもうちょっとそれらしい演出をしろよ。ヘタレてると本当に縊り殺したくなるだろうが。
「待って魅那くん、私から話しますから。
クラフトは私の願いを曲解しただけなの!」
「曲解されたものが、どうしたらきみのせいになるんだ」
「恵瑠野が願ったのは『みんなと仲良くなりたい』だキュキュ、『魅那くんと』もキュキュよ」
「すると、なに?」
「人間てこういうとき『《《なかよし》》』するんキュキュよねぇ、なんだ、簡単なことだったじゃないキュキュか――」
「お前、そろそろ黙れ。黙れよ」
「二度言ったキュキュ!!?」
「あぁ、でもおかげで腑に落ちたな」
急に智絵が口を開いた。魅那は怪訝にする。
「なにが?」
「ルービッククラフトは、現存する最高位のクラフトだよ。すると他の正規のパズルクラフトを一時的に自分の管制支配下に置く、そういう力を有しているの。
そうすることで、パビリオン全体の基礎能力を底上げする役割を有しているから」
「クラフトの言うこと、真に受けてやるのか?」
「恵瑠野の願いに触発されて、そいつが独自のアプローチで暴走したのは間違いない。
うちのクラフトちゃんも呼応して、影響されたと――私も止められなくて、ごめん」
「二人のせいじゃない。下手人はウィズダム、主犯はルービック……のクラフトたちだ」
もはやダイニングは、キッチン側から聞こえる脂の焼ける音ぐらいしか癒しの残っていない。……いや、ここから真面目にどうしろと?




