第67話 vs セィルロイド
過程で卑怯や間違いを犯してもいい。
ただどこまで逃げようと、ひとたび望んでしまったなら、誠実でしか掴めないものがある――あの女はそれをわかろうとしなかった。
「貴様を傷つけてきた、盤上王成たちをなぜ庇う?」
「敵に同情されるとは、俺もいよいよヤキが回ったかな」
「単純な興味だよ……だってあの女、マジで人の心わからないだろ」
「あの子はその温もりを、恵瑠乃にしか見なかった。見たくないだけとも云う。
いいんじゃないか、人間臭くて」
彼女が表彰を受けたあの日、俺がナンバーとなって、日も浅かった頃。
「まぁ褒められた態度ではないけど。少なくとも、俺よりはよっぽどまともだ」
「どういう?」
「――、クラフトホルダーに必要な資質は、巫女に通ずるものだという。
あの子がその何れを持っているのか、考えていたよ。
必要なのはきっと『神秘を呑む純朴さ』だ。それは信仰というものに、普通は近似値なんだけれど、彼女は頭が良過ぎるんだ」
「すると?」
「神秘さえ、道具として侍らせる気概さ。お世辞にもいい性格はしてないけれど、志を貫こう一点において、それが間違いだとわかっても一切の戸惑いがない。
かたや俺のは、迷いながら、紛い物のクラフトらに今なお惨めに縋りついている。
何者にもなれないかもしれない。パビリオンはすでに誰かしらの英雄だけれど、俺はいつまでも賢人たちの権力争いの道具……死んでも骨味をしゃぶり尽くされるだろうがよ」
彼はデジタライズトランプの束を、手元でシャッフルさせる。
「役不足を承知でも、あの子たちの未来をまだ諦めたくない。
最後は都合よくみんなが愉しい、適度に緩くていいんだ、正しくなくても――ただ誰かが誰かを優しく赦せるなら、それが碑郷でも帝国でも、あるいはそうでないほかの何かなら、そんなハッピーエンドだって構わない」
「貴様、なぜそこまで――」
「さぁな。誰かの受け売り、あるいは誰ならそうしてくれたという、ただの……名残り」
――数字はどこまでも独りじゃないか!
目覚めない平和たち、自分とともに力を見失った恵瑠乃……それでもクラフトたちは彼女を選んだ。今なお見放していない。単に彼女らを利用しているだけともいえるが。
「あの子らが本物であるなら、きっと俺より大きなものを託されてしまったんだ――それを為しうる力を、絆は、俺にはけして立ち入れない、及ばない、あぁだったら」
「!」
「デジタライズクラフト、どうにも馴れないが、頼むよ」
ふたつのデッキが彼の両手から伸びると、セィルロイドの周りをあらためて囲う。
なにをされるか察したセィルロイドは後退するも、
「……逃がすわけがないだろ!」
デジタライズトランプが、彼の装甲服の表面を削って消し飛ばす。
「そのカードは!?」
「やはりお前らの装甲服、マテリアール獣と同じで生命力を凝縮したものか。
ならばあらかた剥ぎ取って、お前もまたカードに封じてやる!」
「パビリオンたちでも、そんなに悪どい技は使わんわ!!!」
「あの子たちができないことを、俺はやる。
それで帳尻が合うんだよ、世界は――それで、キャンセルラーのやつはどこだ。
どうせ近くにいるんだろう?」
彼を片付け、残る追っ手への警戒を忘れない。
パラソリテールになってからは、元からトリッキーなバトルスタイルは相変わらず、ただし時間の経過とともに、技の精細さが喪われていくいやな自覚がある。
(焦るな。自滅するにしても、退路は必ず拓いてみせる)
「貴様らまとめて叩き潰す」
「本来の姿でもなくて、よくやる!」
セィルロイドは息巻いた。




