第68話 追想7 盤上王成
「帝国へ行く?それってどうして」
「私たちの戦い、理由も分からないまま始まって、ずっと続いてる。
ビットマテリアール獣やモノリスの秘密は、碑郷の外にしかない。
恵瑠乃もこのままはイヤだって言ってたでしょ」
当時王成の言っていることは正論だったし、パビリオンの皆も碑郷の外、正体不明の敵たちの情報を欲していた。
ただ、懸念はほかにもある。
「あのナンバーっていうクラフト使いの子、すっかり賢人様たちの御用達みたくなってるよね。
まだ彼の正体もわからないんだよ、できることなら、彼にも協力してもらいたいし」
「ナンバー、いまあの紛い物に頼るのは危険だよ。
最悪アーミーに敵対されて、私たちは動けなくなる。
彼は私たちの味方じゃない、あってはならないクラフトホルダー、彼は私たちとは違う」
「……どうしてそんなこと言うの、王成。
まるでクラフトのことなんて、全部わかってるみたいに」
「――」
「細かいことは聞かない、王成が私たちのこと一生懸命考えてくれてるのはわかってる、だけど私は、ナンバーくんを信じたい」
恵瑠乃からあの少年への興味を失わせたかった。
*
『友達が今度新しいお店やるんだ、魅那くんも一度来てみてよ!』
……と恵瑠乃に誘われた経緯もあって、ローゼンテラスを訪れた彼。
(やめとけって言ってるのに、俺のこと『魅那くん』呼びなんだよな。ほかの男子にもそうだから、自信なくしそうだけど)
「どう見てもファンシー系だし、わかってたけど野郎ひとりで入れる店じゃないだろここ――出直すか」
服装自体はそういう店だとわかってラフなものだったが、彼は普通に気後れした。
女性客が多い、喫茶店だ。
「あの」「はいすぐどきます、ごめんなさい!?」
「天都戸くんだよね」「えっと、兎宮さん、だよな?」
ふたりの初顔合わせだった。
「いらっしゃいませー」
「盤上さん、ここで働いてるのか。ひょっとして美継さんも?」
スタッフのエプロン制服に身を包み、忙しく立ち回っている。
「ストーカーにシフト教えてあげるわけないでしょ」
「ところで客に対する態度じゃねぇよそれ?
あーいーよ、もののついででしかないし、悪い虫お断りってんだろう。
それで、そろそろ何頼むかな――メニュー表は?」
「ご注文お決まりになりましたらお声がけください」
「声が固いぞ、接客業っ」「うるさいわね」
「ねぇオーナー、あの子俺にばっかりやたらあたりが強い気がすんですけど」
「そうだね。王成、お客様にはちゃんと対応して、周りの人たちにも失礼だから」
「うぅ、わかりましたよ……」
態度の悪い店員だが、智絵は彼女の背中をにこやかに見ていた。




