第47話 ねじれ
虫の息のナンバーは概念数字で造った虚ろな腕に、気絶したウィズダムを抱えている。
ルービックのチャフとは異なる妙な煙に包まれた後、やがて周りが見えてくると、さっきまでいた皇都の広場とは別の場所だと気づいた。
「ここは――」
「間一髪のようね」
「お前、メビウスか……ずっとどこへ行ってたかと想えば」
「そもそも私は、黄金碑郷の戦士じゃないってのよ。ミスター宮仕えくんにはわからないでしょうけど」
「――あぁ、碑郷と帝国の争いには興味がないんだっけ、そういえば前にそんなこと」
やってきた少女が頷き、二人を見下ろす。
「メビウス、ウィズが」
「つくづく概念文字――の劣化コピーとは想えないわね、患部へ補填された情報が死の寸前、すんでのところで彼女の命の灯を保っている。相変わらず器用だわ、ナンバープレイス」
「……彼女を、助けたい。
力を、貸してくれないか。俺にできることならなんだってしてやる」
メビウスはかがんでウィズの患部を確かめたなら、やがて嘆息した。
「あなたはナンバークラフトで、ウィズダムクラフトを修復。
そこからは追って指示する」
「あ、あぁ」
ウィズダムクラフトは、彼女の胸の上に浮いていた。
今にも消え入りそうな光と火花を散らしながら――、
「きみがウィズ――、智絵を、最後まで庇ってくれたんだな。
ありがとう……ごめん、俺には、なにも、できなくて」
「後悔するのは、すべて終わってからになさい」
「――」
メビウス、彼女の言うとおりだった。
(幻のクラフト使い、けどあまりにもタイミングが良すぎる)
彼の心を読んだかのように、彼女は発言する。
「私はこういう時にしか、現世へ干渉できない」
「それって、どういう」
「今あなたらが落ちたのは、向き付け不可能の特殊な異空間、とだけ言っておこうかしら。ここではデータライズ世界を含む、この世の原理が『ねじれている』」
「つまり――きみが普通のデータライズ三次元世界へ干渉するには、制限がある」
「そういうこと」
「きみが干渉するのに必要な条件って、なに?」
「さっさと核心へ迫り過ぎでしょう!
そういうネタはもっとゆっくり寝かせてだねぇ」
「この空間にどのくらい猶予があるかしらないけど、本当に智絵は大丈夫なんだろうな」
「宮仕えくんはほんと融通きかないわね、真面目なんだから」
「――、大事なことなんだ」
「そりゃ自分が抱いた女の子が惜しいのはわかるけど」
「……なんだっていい」
なんと茶化されようと今の彼には、たとえルービックが過失としても、ウィズダム――仲間を刺したという事実が問題だった。
(誰より仲間を愛してたあの子は、もういないのかもしれない)




