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第十二話 隣国の影

ジーク 主人公 アルムンド騎士爵の三男

シンシア 主人公の幼馴染でベントリー男爵の次女

ナボレス伯爵 近隣一帯の寄親

カイン ショーウェルズ大司教の息子

ナディア 聖騎士隊の隊長

ヨルム 山岳民族の勇者

山岳民族の居住地は彼らが侵入して来た森とした。この森とその周辺を開拓し、彼らの新しい村を作る。隣国に対する防波堤の様で危険性が高かったのでジークは反対したが、彼らが故郷に近い場所を強く望んだため、最終的にはジークが折れた。


当面の食事は配給制として彼らが周辺を開拓し食料自給できるまで支援を続ける。同時に小規模の医療院をこの場所に設置して医師を常駐させ、医療院が設置されるまでの間は負傷者や衰弱した者を街の医療院へと連れていく。これらを早々に取り決め、直ぐに取り掛かるよう指示を出した。ジークから山岳民族に対しては、自立後の納税、街の鍛冶屋への就職または指導、緩衝地帯である山脈地帯の偵察、いざという時の戦力の提供を要求し、山岳民族側もそれに同意した。


ーーーーーーーーーー


山岳民族の来襲から数日後、状況をナボレス伯爵へ説明すべく、ジークはナボレスへ向かった。山岳民族はどの国にも属していないため、国家間あるいは領地間の移住とは異なり、面倒な手続きや金銭の支払いなどはなく、ジークの判断で決めても構わないのだが、三千人もの移住であった事と、その背景である隣国ジョルジアの侵攻の件があったので、寄親である伯爵へ報告しておく必要があると判断した。


「あちらさんは我が国に戦争を仕掛けるつもりらしい。ベントリーの防衛は君に任せるよ。」


ジークからの報告を聞いたナボレス伯爵は言った。あちら、とは隣国ジョルジアのこと。隣国の主力はアルムヘイグ東部を守っているナボレス領の占領を目指すと予想されており、同時に別働隊がベントリー領へ攻撃する可能性があるらしい。かつてシンシアの叔父シーガスが塩を取引していた相手が隣国だったと最近になって分かったそうで、つまり別働隊の目的は、重要資源である塩の確保、それとおそらくナボレス軍への側面からの牽制でもあるのだろう。敵国の侵攻は半年後を想定していた。


「ジョルジアが戦争を仕掛けてくる理由は何でしょうか?」


「継承争いさ。」


ナボレス伯爵によれば、敵国の動きの裏には我が国の王室での継承権争いがある。国王は病床についており、王弟と皇太子が国王崩御後の継承権をめぐって争っている。ナボレス伯爵は皇太子派であるが、王弟派はナボレス伯を排除して皇太子派の力を削ごうという魂胆らしい。王弟の妃は隣国の元王女であり、この妃を通じて王弟派と敵国が繋がっているのは明らかだった。


「臨時で雇っていた情報部隊の奴等を紹介するよ。ベントリーを抜かれるとキツイ戦いになるから何としてもジョルジア軍を止めてくれ。準備を抜かるなよ。」


ナボレス防衛の要は我が国の国軍になるが、王弟の邪魔が入るとどうなるか分からない。そのためナボレス伯は騎士団や傭兵を主体とした自前の軍も編成しているが、ベントリーへの援軍は期待しないでくれ、と伯爵から言われてしまった。援軍の替わりが情報部隊なのだろうが、情報部隊が何をしてくれるのか?、まずは会ってみるしかない。


・・・シーガスの件でも情報部隊が動いていたそうだし、その時に収集された情報の精度は悪くなかった。役には立つのだろうが、果たして戦ではどうだろうか。敵の情報をいち早く得る事が出来れば助かるが...・・・


その日の深夜、ナボレス領都に宿泊したジークの部屋の窓に1人の男が現れた。男の背格好は子供かと思えるほど小柄で、覆面で顔を隠している。ジークは剣を取って男に対峙したが、男はそれに構わず部屋の中に入り、ジークの前で跪いた。


「夜分に失礼します。私はホドムと申します。ナボレス伯爵の元で情報収集を担っていた者です。今回の作戦ではジーク殿に協力せよと指示されましたので、急ぎ参上致しました。」


「随分と変わった登場の仕方だな。」


「我等はなるべく人目を避けて行動しています。その為に人と出会う可能性のある正面の扉ではなく窓から入って来ました。顔を覆っているのも敵に正体を知られぬ様にする為です。不快に思われるかも知れませんが、慣れて頂くしかありません。」


「まあ良いだろう。では早速、仕事の話をしよう。ベントリー領へ侵攻してくるジョルジア軍の位置と規模の把握、それとナボレス伯爵の軍と連携する為の情報伝達をお願いしたい。山岳地帯は広く、またナボレス領とは距離があるが、可能だろうか。」


「お任せ下さい。広範囲での探索と情報伝達は我等の得意とする所です。殆ど遅延なく最新の情報をお伝え出来ます。」


「結構な仕事量だと思うが、報酬に何を望む?」


「定住できる土地を希望します。我等一族は流浪の民で、主に諜報活動で日々の糧を得ていますが、それだけでは生きていけません。諜報活動に参加できない者も多い。一族全員が静かに暮らせる場所が欲しいと願っていました。」


「ナボレス伯爵なら提供してくれるんじゃないか?」


「覆面姿で街中を歩く事はできませんし、かと言って顔を晒す事もできません。なるべく人の少ない土地が望ましいのです。」


「なるほど。辺境のベントリーなら希望に合う場所が提供出来そうだ。」


その日は遅くまでホドムと会話し、翌早朝にはベントリーへの帰路につき、夕方にはベントリー領に入った。西に傾いた太陽が山々や森を赤く染める。燃える様なその色がこれから起きるであろう危機を予見させた。

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