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第十三話 ベントリー防衛戦

ジーク 主人公 アルムンド騎士爵の三男

シンシア 主人公の幼馴染でベントリー男爵の次女

ナボレス伯爵 近隣一帯の寄親

カイン ショーウェルズ大司教の息子

ナディア 聖騎士隊の隊長

ヨルム 山岳民族の勇者

ホドム ナボレス情報部隊の隊長

山岳民族の居住地とした森の山側にジークは急拵えの砦を築いたが、実はこの砦はハリボテで、この砦に拠って戦うつもりはない。ここまで攻め込まれるとベントリー領民となった山岳民族の生活が脅かされてしまう。砦は物資の集積場所として、また簡易医療所などの後方支援の拠点として使うつもりだった。それでも外見は砦なので、敵国兵は警戒し、それを考慮した侵攻ルートを選ぶ。それが目的だった。


実際の防衛拠点は敵国軍の侵攻ルートからやや離れた山中に置いた。山岳民族達の知恵を借りて発見され難くい場所を選び、ヨルムを中心とした山岳兵を潜ませている。彼等がベントリー領へ避難せざるを得なかった理由は一般民が多く住む村を急襲されたからで、山岳兵だけなら容易に身を隠す事が出来た。そうして山岳兵は密かに防衛準備を進めた。


ホドムから報される情報は驚くほど正確で、手に取るように敵国軍の動きを把握する事ができた。この情報を元にジークとカインは作戦を立案し、ヨルムが率いる山岳兵へ的確な指示を出していった。


そうして凡その準備が整った頃に、開戦の知らせがナボレスから伝えられた。


ベントリー領に接する山脈にいた1000人の隣国の別働隊も動き出した。予想した、正確に言えばジーク達がそう仕向けた侵攻ルートを進んでいるが、その動きは逐一ホドムから報告されている。もうじき敵国軍は狭い隘路に入り、長く細い隊列で進む筈だった。ジークは守備隊と聖騎士隊からなる50名を従えて狭い隘路の出口付近に陣取った。この場所であれば、敵国兵は隘路を抜けた先頭だけがジーク達と対峙する事になり、後方の軍を戦闘に参加させる事が出来ない。


「ジョルジア軍が現れました。」


「よし。では作戦通り戦闘を開始しろ。必ず複数で敵兵に当たれ。」


ジークは簡単に指示を出すと先頭に立ってジョルジア兵に斬り掛かった。元教官とナディアもジークの横で剣を振るった。それ以外は主に長槍でジョルジア兵に対峙していた。負傷した者、疲労した者は退がり、直ぐに替わりの兵が穴を埋めた。何人かは崖の上に登って矢を放っている。そうやって隘路を出て来たジョルジア兵を次々と討ち倒していった。


ベントリー領への侵攻を任されていた指揮官は何が起こっているか理解できずにいた。山岳民族を討ち払った後、十分な時間をかけて地形調査した上で侵攻ルートを決めた筈なのに、いざ侵攻を始めると、事前情報とは違う地形で、所々で落石事故もあって予定進路を逸れ、そうして高い崖に挟まれた長い隘路を歩かせられたうえに、隘路の出口付近を敵に塞がれてしまった。軍の多くが隘路の中で足止めを喰らっていた。悪夢だった。元々はベントリー領を早期に占領し、略奪によって物資を補給したうえで、ナボレス軍を側面から突く予定だった。その目論見は潰えそうにある。将軍が撤退を考え始めた時、隘路の出口とは反対側、入口にあたる付近で騒ぎが起こった。


敵国兵の混乱の理由はヨルムによる事前の工作だった。岩を積み、あるいは道を塞ぎ、そうやって隣国兵が侵攻できるルートを狭め、最終的には隘路に閉じ込める事に成功した。全ての敵国兵が隘路に入った直後、侵攻軍の後方にいる輜重隊に向けてカインが賢者の力を用いて火球を放ち、同時にヨルム達が石や木材を崖の上から降らせて入口側の道を塞いだ。隣国兵の何人かは崖を登ろうとしたが、ヨルム達が崖の上から落とす石に呆気なく潰された。出口側は依然としてジーク達が塞いでいる。カインも火球を敵国兵に向けて放ち続けている。そうして丸一日の戦闘の後、敵国兵は白旗を掲げた。


ーーーーーーーーーー


ジークは隣国兵の武装解除と砦への収容を守備隊に任せ、聖騎士隊には周囲を警戒させた。ヨルムは山岳民族のかつての村々の奪還へと向かった。ジーク自身は戦闘に長けた者達だけを率いてアルムンドへと向かい、ベントリー領内の陣頭指揮は次兄とナディアに任せた。カインと元教官はジークに同行した。


「兄さん、お待たせしました。山脈を超えて来たジョルジアの別働隊は予定通り武装解除して砦に収容しています。」


長兄はアルムヘイグ全土から20名ほどの傭兵や冒険者を掻き集めてジークを待っていた。父が冒険者をやっていた頃に知り合った仲間達で、ジークも子供の頃にアルムンドを訪ねて来た彼等を見た事がある。いずれも歴戦の戦士といった風貌だった。


「こっちも予定通りだ。ジョルジアから潜り込んでいた奴もいたが、全て拘束している。父さんも出ると騒いでいたけど、アルムンドを空ける訳にはいかないから、どうにか納得してもらったよ。」


「ではナボレスへ急ぎましょう。」


ジークは開戦前に長兄やカイン達と作戦を練り、ナボレス戦で決着を付けるつもりで準備をしていた。ベントリーを防衛出来たとしてもナボレスで敗退するとアルムンドやベントリーが孤立してしまう為だった。


ナボレス領の東側、隣国との緩衝地帯である平原で両軍は対峙していた。どちらも5000ほどいるだろうか。十分に武装していない農民兵が多く含まれている。開戦して何度か戦闘があった筈だが、両軍とも整然と並んでいた。まだ夜明けを少し過ぎた頃、そろそろ両軍とも前進指示の笛が鳴ろうというタイミングで、隣国の右翼の側面にジーク達の傭兵部隊が突然現れた。敵軍は側面の100名程をジーク達に向けた。僅か数十名の集団にはそれで十分だとジョルジアの指揮官は判断したのだろう。


「行くぞ。」


姿を現したジーク達は直ぐに敵軍へ突撃を開始した。ジークを先頭に楔形の陣形をとったアルムンド部隊は敵の右翼を割っていく。後方からはカインによる火球が敵軍へと飛ぶ。ジークは立ち塞がる敵兵を次々と斬り捨てていった。


「なんて奴等だ。全く歯が立たない。」


ジークは自分に向けられる剣撃を全て躱し、敵兵を斬り倒していく。持っていた剣が使えなくなると倒れた敵から奪って戦闘を継続した。ジークに従っていた者達はやや後方でジークが討ち漏らした敵兵を片付けている。ジョルジア軍の右翼を任されていた部隊長は戦慄した。右翼にいた兵が逃げ始め、混乱し、それはジョルジア軍全体へと伝播していった。ナボレス伯はその隙を見逃さず、全軍に突撃を指示した。


それから僅か数刻で隣国兵は壊走した。平原に一陣の風が吹く抜け、周囲の流血による嫌な匂いを彼方へと押しやる。その風の中でジークは一人佇んでいた。彼の左胸には、纏った鎧に隠されてはいたが、明るく輝く紋章があった。

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