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猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第三章

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特別編 リリーと猫好きの人達

前回の話の数日前です。

 鳥の囀りが聞こえ、カーテンの隙間から光が入り始め、リュカは薄く目を開けた。

『……そろそろ、時間か……』

 横を見ると、黒猫のリリーがお腹を上にし両手を上げ、気持ちよさそうに眠っている。

『一緒に連れて行くようになってから六日。妹のように可愛がっていた友を亡くし、ショックもあるだろうし、慣れない場所で疲れも出てきているだろう。だが、もう絶対置いて行かないでくれと言われているから起こさなければ……』

 すやすや眠るリリーの眉間の短い毛を、指先で擦ってみる。

『起きない。が、気持ち良さそうだ。

 目を閉じたまま、だんだん顎を上げていくリリー。

 今度はその顎の下を撫で、様子を見るリュカ。

『可愛い……なんでこんなに可愛いんだろう』

 ゆっくり上下している腹に、そっと耳を当ててみると、驚くほど早い、トクトクという心音が聞こえた。

『温かい……柔らかい……』

 全ての重みをかけないよう気をつけながらリリーのフワフワの腹毛に顔を埋め、リュカは深呼吸した。

『いい匂いだ……なんて……幸せなんだろう……』

 執事のロイドが起こしに来るまで、リュカは短く幸せな二度寝をするのだった。




『おはようございます、スピカお姉さま! チェイス!』

 朝食を貰いに厨房へ向かう途中、前方に二匹の姿を見つけ、リリーは軽やかに走り寄った。

『おはよう、今日も早いのね。またご主人様とお出かけ?』

『えー? そうなの? 最近ずっとじゃん! 一緒に遊びたかったのに!』

『ごめんねー、チェイス。スピカお姉さまとミッシェル様をよろしくね』

『うん! 任せて! 悪い奴が来たら噛みついてやるぞ-!』

 ワンワン吠えながら走って行くチェイスは放っておいて、リリーはスピカに歩調を合わせる。

『毛づくろいのお手伝いができなくてごめんなさい、お姉さま』

『いいのよ、キャシーがやってくれるから。それよりどうなの? 何か進展はあった?』

『全然です。次は何を調べたらいいか、わからなくなってきています』

『そう……。まあ、とにかく、たくさん食べて、力をつけて頑張りなさい!』

『はい、そうします!』

 笑顔で答え、テクテク歩いていると、

『今日の朝は、トリ肉だよー! 早く食べようよー!』

 元気良くチェイスが二匹を呼んだ。




「おー、今日も早いな。旦那様と一緒に出掛けるんだもんな。えらいえらい」

 厨房の入り口に一列に並んだ三匹の前に、それぞれに合った量の食事を置きながら、料理長はリリーに話しかけた。

「しかしなぁ、俺は寂しいぞ? ん? 聞いてるか? リリー」

『はい、聞いてます。ごめんね、料理長さん。いつもおいしい昼食とおやつを用意してくれてありがとう!』

「んー? うまいかー? よしよし」

 自分を見上げて鳴くリリーの頭をワシャワシャと撫でる料理長に、『早く戻ってください!』という声が厨房から聞こえてきた。

「あーもう! 一日一回の癒しだぞ!? もうちょっとくらい……」

「ダメです! 皆の食事、間に合わなくなっちゃいますよー!」

「あー、しょうがねぇ! じゃあまたな、嬢ちゃん」

 名残惜しげにリリーをもうひと撫でして、料理長は厨房へと戻って行った。




 食事を済ませたリリーは、スピカ、チェイスと共に、玄関前のホールで食後の休憩をしていた。

 そこへ、重要な役割を担っている使用人達が集まってきて列をつくる。

「リリー、おはよう。おいで~」

 ニックとキャシーを従えてやってきたミッシェルに呼ばれ、リリーはトトト、と走り寄った。

「今日もまた、父上と一緒に行くんでしょ?」

 そう言いながら抱き上げるが、まだ七歳のミッシェルの抱き方はいい時と悪い時の差が大きく、この日は、両脇を持って持ち上げる、というあまりいいものではなかった。

「リリーがいないと寂しいよ。スピカとチェイスも寂しそうにしてるよ。でも、父上のお手伝いだもんね。ネズミ退治、頑張ってね!」

『はい~、頑張ります~。ところでミッシェル様、そろそろ降ろして……クルシイ……』

 そこへ、リュカがロイドと話をしながらやってきて、使用人達は一斉に深くお辞儀をした。

『キャ! 団服姿のリュカ様、素敵! 髪も一つに結んで、キリッとしている。髪をおろして部屋着でくつろいでいるところも物憂げで素敵だけど……はー、かっこいい』

 これまで遅くまで眠っていたリリーは、毎朝こういうお見送りがされているという事すら知らなかったのだが、伯爵家当主として威厳のあるこの姿には、うっとりしてしまう。

「父上~、おはようございます!」

「おはよう、ミッシェル。……リリーが、苦しそうじゃないか?」

 両脇を持ってぶら下げられているリリーに気づき、リュカは慌ててミッシェルからリリーを受け取った。

「最近忙しくて見てやれてないが、勉強と剣の稽古と、しっかりやるんだぞ」

「はい! 父上、お気をつけて!」

 皆に見送られ、リュカとリリーは城へと向かった。




 近衛騎士団の団室に入り、リュカは『おや?』と室内を見渡した。

『今日は副団長、まだ来ていないようだな』

 リリーを連れて来るようになってから、ダイアンがやって来る時間はどんどん早くなり、今ではリュカより先に来るようになっていた。

 そのうち来るだろうと思っていたが、ダイアンは姿をみせず、

「おはよう! 皆そろっているかー? 今日ダイアンは体調が悪くて休むそうだ。リュカ、帰る前に屋敷の方へ報告に寄って欲しいって伝言あったぞ」

「わかりました」

『昨日は特に変わった様子はなかったが……大丈夫だろうか』

 そう考えていたところに、

「おー、今日はどうするんだ? 俺が一緒に行ってやろうか?」

 猫好きの先輩が話しかけてくる。

「それか、猫見ていてやるよ」

「いえ、結構です」

「遠慮するなよ。俺、実家に猫たくさんいるから慣れてるんだ。奥さんが猫苦手でうちでは飼っていないから、猫に飢えてんだよ。抱かせてくれ~」

「……すいませんが、あまりの勢いにリリーが怯えているのですが……」

 見ると、リリーはリュカの脇の間に顔を突っ込んで、固まっている。

「えっ? あちゃー、俺、嫌われたかなぁ。ここで無理すると徹底的に嫌われるからな、少し時間置くわ。あーあ、副団長がいなくてチャンスだと思ったのに」

 肩を落とし、すごすごとその場を後にするその姿があまりにも可哀想に思えて、リリーは顔を出し、『ニャーン』と鳴いた。

「おっ? 機嫌直したか? はー、可愛いなぁ。猫不足を解消させてくれ~。ああ、柔らかい~」

 リリーをなでさせてもらい、先輩は上機嫌で去って行った。

 



 その日、一日中いろいろ調べたのだが、残念ながら何も進展はなかった。 

 その事を報告する為ダイアンの屋敷へ行ってみると、彼は元気そうだった。たいして報告する事もないので、玄関先で『進展無しです』と言って帰ろうとしたのだが、

「少し寄って行け」

 リュカが抱いるリリーをじっと見つめながらそう言われ、客間に通された。

「……副団長は、猫を好きというわけではなかったんですよね……」

「ああ。別に、好きではない」

 猫の絵、猫の人形、猫の刺繍がされたテーブルクロス、クッションに囲まれながら、ダイアンははっきりとそう答えた。

 猫柄のティーセットでお茶が用意された頃、

「ベルナルド卿、ようこそいらっしゃいました」

 一人の女性が客間に入って来た。

 長い黒髪、細い身体、色白というより、青白く見える肌。あまり健康そうには見えない。

「妻のメアリだ」

 そう短く紹介をし、ダイアンは慌てたように近寄り、小声で『寝ていなければ駄目だろう』と話す。

「もう大丈夫ですわ。あなたのお客様がいらっしゃるなんて、久しぶりの事ですし。それに……わたくしも猫ちゃんが見たいですわ」

 そんな会話が聞こえ、『体調が悪かったのは、副団長ではなく奥方の方か』と思いつつも言葉にはせずリュカは頭を下げ、見やすいようにリリーを正面に向け抱き直した。

「まあ、聞いていた通り、綺麗で賢そう。リリーちゃん、こんにちは」

 メアリが指先を鼻の近くに持っていくと、リリーは匂いを嗅ぎ、顔をすり寄せた。

『奥様、手が冷たい。顔色悪いし。身体が弱いって、副団長さん言ってたもんね』

 思い出しながらリリーは手を伸ばした。

「あら……もしかして、抱かせてくれるのかしら?」

「抱いてみますか?」

「ええ是非!」

 パッと顔をほころばせ、メアリは両手を差し出したが、

「座ってからにしろ。それに、身体を冷やさないようにしろ」

 メアリをソファーに促し、テキパキと肩掛けと膝掛けをかけてやるダイアン。

 そしてようやくリリーを抱かせてもらったメアリは、そおっとリリーを撫でて微笑んだ。

「可愛いわ。ツヤツヤの毛並みね。目が宝石みたい」

「良かったな。では、少しそうしていろ。私は彼と話しがある。リュカ、そっちのテーブルで話そう」

 そうして、少し離れたところでダイアンは、やけにゆっくりと、リュカに報告をさせたのだった。




「今日の副団長さんは、いつもの副団長さんと違いましたね」

 その夜、リリーはニコニコしながらリュカに話しかけた。

「奥様の事、すごく大事にされてるんだなーって思いました。あと、あんなお屋敷で、猫好きじゃないって、説得力ないですよね」

「ああ、そうだな」

 リュカも笑いながら答える。

「あの方は、体調不良と言って突然休む事が度々あったんだが……奥方の体調が優れなかったんだろうな。そういえば、ミッシェルの誘拐事件の時も休んでいた」

「奥様は、何かご病気なんでしょうか?」

「今日聞いてみたら、元々身体が弱いと言っていたが」

「そうですか……。お世話になった孤児院の先生で、奥様みたいに、細くて青白い先生がいたんですけど、血の気が少ない体質だって言ってたんです。今度カミーユさんの所にいったら、そういうのに効くお薬がないか、聞いてみようと思って」

「そうだな……そうしてみてくれ」

 そう言いながら、リュカはリリーの腰に手を回し、自分の方へと引き寄せた。

「えーっと……」

「今日は皆、リリーを触って癒されていたから、私も癒されようと思って」

 照れるリリーに、リュカはすました顔でそう言った。




 後日。

  

「私の恋人が薬屋で働いておりまして。奥方様の様子を話したところ、この薬が合いそうだから試して頂きたいと。あと、この紙に書いてある食べ物を採るようにしてみて下さい」

 そう言って渡したカミーユ作成の薬がとても良く効き、ダイアンの引退時期は引き伸ばされたのだった。

今日は『猫の日』です!

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