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猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第三章

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リリーをめぐる、それぞれの思い

 夜。

 広い屋敷の廊下を、夜着姿でトコトコ歩く少年。

 この伯爵家の嫡子、ミッシェル・ベルナルド、七歳だ。

 護衛の兵が、困ったように後ろを追っている。

「父上の所に行くだけだから、ついて来なくていいよ?」

「そうはいきませんよ、ミッシェル様。もう今日は遅いですから、明日にされてはいかがですか?」

「今日お話ししたいの!」

「いやー、今日は止めておきましょう?」

 先ほどから、若い護衛兵はどうにか引き止めようと頑張っているが、うまくいかない。

 子守りメイドに助けを求めに行った仲間が早く戻って来てくれないかと祈っていると、

「ミッシェル様! どうして起き出して来ちゃったんですか!?」

 最近、同僚のニックと婚約をしたキャシーが、護衛兵と一緒に慌ててやって来た。

「さあ、一緒にお部屋に戻りましょう」

「イヤ! 僕、父上のお部屋に行くの!」

「今日は駄目ですよ」

「どうして? まだ眠ってないでしょ? 父上はいつも、遅くまで起きてるよ」

「そりゃあ、起きてはいるでしょうが……」

『今日は特別な日なんだって!!』

 有無を言わせず、今すぐミッシェルを小脇に抱えて部屋に戻りたいのをキャシーはぐっとこらえる。

『今日は月に数回しかない、リリーのお泊りの日なのに!!』

 リリーはこの伯爵家の当主、リュカの恋人だ。

 いつも冷静であまり感情を出さないリュカが、『最愛のひと』と呼び、愛情を注いでいる女性。

 彼女に初めて会ったのは、半年以上前。キャシーが子守りをしているミッシェルが誘拐された時、救い出してくれた恩人だ。

『あの時、下着をあげたら喜んでくれて、その後クリームや髪のオイルとか沢山くれた。あの時はメイド仲間に、クリームやオイルについて質問攻めにあって大変だったな。一度使ったら髪はツヤツヤになるし、肌はツルツルになるし、めちゃくちゃ良い匂いがするからね。あの後、リリーが手伝っているお店の品だという事で、みんなから注文をとって、お屋敷に来るときに持ってきてくれるようになって良かった。ちょっと高いから、あれもこれもというわけにはいかないけど、みんな、結構買ってるよね』

 ここ数カ月で、伯爵家のメイド達の髪や肌はかなり美しくなった。

『今では月に三、四回来てるけど……少ないわよねぇ。旦那様も、もう少し一緒にいたいだろうな。結婚しないのかなぁ。わたしとしては、リリーにこの屋敷の女主人になってもらいたい。綺麗だし、威張ったりしないし、とても素敵な人だと思うもの。旦那様に言えば、いくらでもドレスや宝石を買ってもらえるだろうに、普通のワンピースを着て、宝石一つ身に着けず、旦那様の恋人ということを自慢する事もない。今日はわたしに、婚約祝いのプレゼントまでくれた』

 あまり人と会わせたくないらしいリュカに、リリーが来たときの世話を頼まれるようになり、何度か会ううちにすっかり打ち解け、今では友達のように接している。

『婚約おめでとう。これ、たいした物じゃないんだけどお祝いに。新商品のマッサージオイル。ポカポカして血行が良くなるし、リラックス効果のある香りなんだって。もちろんキャシーが使ってもいいんだけど、ニックさんにマッサージしてあげたら喜ぶんじゃない?』

 ニヤニヤしながらそう言うので、『リリーも旦那様にやってあげるの?』と聞いたら、途端に真っ赤になってあたふたし始め、

『そ、そうなんだけど、そうなんだけど……なんて言えばいいと思う? いきなりマッサージしてあげます、って言うのはちょっと……キャシーならどうするの?』

 そう必死の形相で言っていたリリーを思い出し、思わず笑ってしまいそうになる。

『リリーは、旦那様が大好きなんだなぁ。だからこそ、せめて一緒の時は二人きりにしてあげたいんだけど……』  

 そう思いながら見ると、ミッシェルは『絶対行く!』という顔で自分を見上げている。

『うん! ここはわたしが頑張らなくては! 子守りメイドとして! リリーの友人として!!』

「ミッシェル様、今日は旦那様の所にお客様がお見えなんですよ」

 キャシーはその場にしゃがみ、ミッシェルの目を見つめて説得にかかったが、

「うん! 知ってる! だから今日がいいの!」

「あ……そうですか……はい……」

 即答され、次はどう説得しようと悩んでいると、

「どうしたんです? おや、ミッシェル様」

 執事のロイドが通りかかった。

「皆を引き連れて、どこかへお出かけですか?」

「うん。父上の所に行くの」

「旦那様の所へですか?」

 大人達を見回すと、『そうなんです』というようにコクリと頷く。一様に、困った顔をしている。

「……明日にされては?」

「ダメ! 今日お話ししたいの!」

「そうですか……今日でなければ駄目だと……」

 普段あまり我が儘を言わないミッシェルだが、こうと決めたら絶対に譲らないところがある。

『なんてことだ、今日はリリーさんが来ているのに……。』

 ロイドは目を瞑り、天を仰いだ。

『旦那様とリリーさんとの貴重な逢瀬の時。そっとしておいてさしあげたいのだが……』

 どうやら、そうはいかない状況のようだ。

『仕事一筋の旦那様が心を動かされた女性。もっと一緒にいたいだろうに、旦那様は庶民だから結婚はできないと仰る。方法はある。貴族の養女にしてもらえばいい。旦那様がそれに気づかない訳がない。つてもあるのにそうはしない。つまりは結婚したくないという事だ。恐らく、リリーさんに窮屈だったり嫌な思いをさせたくないのだろう』

 リリーは、ごく普通……というより、どちらかというと苦労をしてきた人のようだ、とロイドは感じていた。なぜなら、贅沢な物は欲しがらず、むしろ、もて余してしまうようだったから。

『豪華なドレスは着るのが大変だし、そういうのを着る時はきちんと髪結を頼んで髪を上げたり化粧をしなくちゃいけないですよね……わたし、仕事の関係で、そういうところが開いている時間に行けないので……』

 ドレスを仕立てる事になかなか同意しない主人に痺れを切らし、世話係を頼まれた妻のエリナから、さりげなく本人にドレスを作る事を話してもらった時、リリーはそう答えたという。

『リュカ様は大丈夫だって言って下さるんですけど、やっぱりこういうワンピースで伯爵家に出入はまずいですよねぇ……。というか、わたしはお屋敷に来ない方がいいですよね』

 そう言って不安げな顔をしたリリーに、

『そのままで大丈夫だからおいでなさいって抱きしめちゃったわ。あの子はいい子よ~』

 とエリナは言っていた。

 結局ドレスは作らず、既製のワンピースをいくつか用意し、代わりに豪華なローブを作った。それを上から羽織ってフードも被ってしまえばいいというわけだ。

『エリナの言う通り、確かに彼女は良い娘さんだ。が、伯爵の恋人としては質素すぎる。結婚して伯爵家に入ったとしても、伯爵夫人らしく振舞うのは難しいだろう。事実、メイド達の中には、彼女の事を旦那様に相応しくないんじゃないかと噂する者もいたようだ。どこからかその事を知った旦那様が、そういう事を言う者はすぐに解雇するようにと仰ったので、それ以来誰も何も言わなくなったが。旦那様は、彼女を傷つける者は全て排除されたいのだろう。おっと、今はそんな事より』

「ミッシェル様、どんな御用なのか、私にお聞かせ下さいませんか?」

「んー、えーっと……」

 少し考えた後、ミッシェルはちょいちょいと手招きし、ロイドがしゃがむと耳元で小さな声で言った。

「アンジェの事で、相談したい事があるの」

「アンジェレッタ様の事ですか。」

 ロイドは再度、目を閉じて天を仰いだ。

『ディガル侯爵家のお嬢様で、王家の血も引いていらっしゃる。ミッシェル様の事をお好きで、婚約の話も出ているとか。侯爵家との繋がりは、わが伯爵家としても有り難い話だ。是非、実現していただきたい。が、旦那様に相談? 無理だ! 失礼ながら、旦那様は女心をわかっていない。幼いとはいえ女性の事で相談されても、助言など無理だろう』 

「ミッシェル様。申し上げにくいのですが……お父上様は、剣の事や勉強の事なら何でもおわかりになるでしょうが、アンジェレッタ様の事はちょっと……」

「あのね、僕ね、リリーに教えてもらいたいなって思ってね」

「……さようでございましたか……では」

 これはもう阻止できないと、ロイドは考えを切り替える。

『お茶を運んでからどれくらい経っただろう。行くなら急がなければ』

「ミッシェル様、お声をかけてみて、お返事がないようでしたら諦めて頂けますね?」

「えー、大丈夫だよ、きっと」

「お返事がなければ、の話です。諦めて、頂けますね?」

「……うん、わかった」

 重ねて言われ、ミッシェルは渋々頷いた。




 一行はそろってリュカの部屋へ行き、ロイドが代表して扉をノックする。

「…………お返事が、無いようですね」

「えー? もう一回ノックしてみて?」

「ミッシェル様、先ほど約束致しましたよね?」

「……はい、しました」 

 ミッシェルはガッカリしていたが、大人たちはホッとして、来た道を戻りかけた時、

「何だ?」

 部屋の中からリュカの声が聞こえ、パッとミッシェルが笑顔になる。

「ほら! やっぱり起きてた!」

「……さようでございますね……」

『無視してくれたら良かったのに!』

 ミッシェル以外は『うわー』と思う中、ロイドが声を掛ける。

「申し訳ございません、旦那様。実はミッシェル様が、ご相談されたい事があるそうでして」

「ミッシェルが? ……ちょっと待て」

 少しの間があり扉が開かれた。夜着にガウン姿のリュカは、扉の前の予想外の人数に少し面食らったようだったが、

「どうした、ミッシェル」

 すぐに膝を折り、ミッシェルと目線を合わせる。

「こんな遅くにどうしたんだ?」

「すみません、父上。明日、アンジェと会う事考えたら、なんだか眠れなくなっちゃって。相談したいのですが……リリーに」

 最後に付け加えられた小さな囁きに、リュカは『そうか』と頷く。

「本来なら、部屋に戻って寝るよう言うところだがいいだろう、入りなさい。皆は戻ってくれ。話が終わったら私が部屋まで連れて行くから……っと!」

 指示を出しているうちに、部屋の中に走って行きかけたミッシェルをすくい上げるように抱き上げ、リュカは扉を閉めた。

「ミッシェル、覚えておきなさい。女性のいる部屋にいきなり飛び込んではいけない。女性には、準備の時間が必要なんだよ」

「そっかー。わかりました、父上」

 そんな事を話していると、

「もう大丈夫です~」

 という声が聞こえ、リュカはミッシェルを抱いたまま奥に進んだ。

「ミッシェル様、どうしたんですか? こんなに遅く」

 大きなベッドの上に座っているリリーが、ニッコリしながら尋ねた。

 リュカが降ろすと、たまにこっそりやってきて人の姿のリリーと会っているミッシェルは、一目散にベッドによじ登り、リリーに抱き付いた。

「リリー、久しぶり! あれ? なんか、ほっぺが赤いよ? お熱あるの?」

「いえいえ! 全然! 気のせいですよ。ところでミッシェル様、どうしたんですか?」 

「あのね、僕、アンジェの事でリリーに相談がしたかったの。明日アンジェに会うんだけど、前に会ったときにね、あーっ!」

「……ミッシェル、これも覚えておきなさい。女性には、軽々しく抱き付いてはならない」

「あ~……はい、すみません」

 リリーからはがされ、隣りに座らされたミッシェルはショボンとしたが、すぐに復活する。

「それでね、前に会った時なんだけど、アンジェの事怒らせちゃったみたいなの。だからまたそうなったら嫌だなーって思ったら、眠れなくなっちゃって」

「あら、そうなんですか? 何があったんですか?」

「う~ん、僕、なんかしたのかなぁ……。父上はわかりますか?」

「特に思いあたる事はないが……」

 自分の直属の上司であるデューイ・ディガル侯爵の愛娘、アンジェレッタ、七歳。

 誘拐事件をきっかけに、ミッシェルの事を気に入って『お嫁さんになりたい』と言っている。

『とはいえ、まだ幼い子供の言う事だ。しばらくは様子を見た方がいいだろうと思っていたが……早速、気が変わったのだろうか』

「えーと、前回会ったのは、アンジェ様のお誕生日ですよね?」

 行ってはいないが、話だけは聞いていたリリーが思い出しながら尋ねる。

「ヌイグルミをプレゼントすると言っていましたよね。喜んでもらえましたか?」

「うん。アンジェが飼っているのと同じ、真っ白のウサギのヌイグルミ、すごくよろこんでたよ」

「良かったですね。では、そのお誕生会には、他にアンジェ様のお友達とかいらしてたんでしょうか?」

「うん、いたよ」

「そうですか。アンジェ様のお友達だと、女の子が多かったのでは?」

「うん。男の子もいたけど、女の子の方が多かった」

「その女の子達とは、仲良くしましたか?」

「うん! 楽しかったよ!」

「そうですかー。んー……もしかしてアンジェ様は、それが嫌だったのでは?」

 少し考えてからリリーはそう言い、ミッシェルはもちろん、リュカも『何を言っているのかわからない』という顔をする。

「仲良くしちゃダメなの?」

「駄目ではないですよ、いい事です。でも、自分の好きな人が他の女の子と仲良くしすぎたり、自分じゃない子をほめたりしてると、あまりいい気分ではなくなるものです。やきもちをやいちゃうんですよね」

「やきもち?」

「そうです。アンジェ様はミッシェル様の事が好きだから、ミッシェル様にも一番好きでいて欲しいんですよ」

「えー? でも僕、アンジェの事、一番大好きだよ。それ、アンジェには伝わってないのかなぁ」 

「……ミッシェルは、アンジェレッタ嬢の事が一番好きなのか?」

 ミッシェルの言葉に、リュカは少し驚きながら尋ねた。

「特別に?」

「うん! だって、かわいいし。最初はちょっと怖かったけど、今は優しいしね。話していて楽しいよ。赤い髪もキレイで好き」

「……これはもう、婚約させた方がいいのだろうか?」

「そうですね。だってお互いに、これからどんどん結婚相手候補が出てきちゃうだろうから、他から狙われる前に婚約しちゃった方がいいような……」

「そうだな……明日、団長と話しあってみようか」

 そんな事を小声で話していると、

「ねえ、リリーも明日、一緒に行こうよ」

 ミッシェルが、リリーの腕にしがみつきながら言う。

「前回は人がたくさん招待されていて、子供もたくさん来て危ないからダメだって言われたけど、今回はいいんじゃない? ねえ! 父上どうでしょうか!?」

「急には無理だ。そういう事は、事前に相手方に許可を得ておかないといけない」

「そっかー、残念~。一緒に行きたかったな」

 そう言いながらミッシェルはリリーにギュッと抱き付いた。

「次は一緒に行こうね。きっとアンジェも喜ぶよ」

「えー? でも……」

 そう言いながら、リリーも嬉しそうにミッシェルをギュッとする。

「アンジェ様はウサギを飼っているから、猫が行くと、心配するんじゃないですかね」

「大丈夫だよ~、リリーが賢いってことは、アンジェも知ってるから。……えへへ、リリー、いい匂い。僕今日、ここで一緒に寝よっかなー」

「駄目だ。さあ、そろそろ部屋に戻りなさい」 

 バリッと音がしそうな勢いでリリーからミッシェルを剥ぎ取り、リュカはくっつきそうなほど顔を近づけ、低い声で言う。

「……ミッシェル、さっき言ったばかりだろう? 女性に軽々しく抱き付いてはいけないと」

「あー、はい、そうでした。ごめんなさい。じゃあね、リリー、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。明日はアンジェ様と仲良く遊んでくださいね。アンジェ様の赤い髪が綺麗だって思っている事とか、ちゃんと伝えたら喜ぶと思いますよ」

「うん! わかった!」 

 リュカに抱かれてミッシェルは、手を振りながら部屋を出て行った。




「……ミッシェル君、明日うまくいくといいな。それにしても、わたしはミッシェル君のお出かけに、できるだけついて行った方がいいのよね? んー、リュカ様に相談してみようかな」 

 リリーがそんな事を呟いている頃、リュカは『大人気なかっただろうか』と、密かに反省していた。

『ミッシェルはまだ七歳で自分の息子だというのに、リリーに抱きついた事にイライラしてしまうなんて。……いや、これは嫉妬ではない。大切な躾だ。これからベルナルド家の跡取りとして、沢山の貴族と接していくのだから、今のうちにきちんと教育をしておかないと。そうだ、これは嫉妬ではない。ベルナルド家当主として、ミッシェルの父親として、伯爵家と息子の将来を案じての事だ』

 あれこれ考えをめぐらせ、自分の感情を正当化し、リュカはミッシェルに語りかけた。

「いいか、ミッシェル。お前はまだ子供だからあまり気にしていないだろうし、相手も咎めたりしないだろうが、気安く女性に抱き付いてはいけない。それこそアンジェレッタ嬢と婚約となったら、婚約者以外の女性とあまり親しくするのは紳士として好ましい事ではない」

「はい、気をつけます。でも……」

「でも?」

「僕、リリーの事、母上のように思ってしまうんです。それでつい、甘えたくなっちゃいます。父上の奥さんは、僕の母上ってことでしょう?」

「まあ、そういうことになるが……」

 歯切れ悪く答えるリュカ。

「しかし、私とリリーは結婚していないだろう?」

「ですが、いつかは結婚するのでしょう? そしたら僕の母上です!」

「……結婚は、できない。ミッシェルはわかるだろう? なぜ、結婚できないのか」

「あ……そっか……あー、はい、そうでした……」

 シュン、と項垂れるミッシェル。

「……僕、あの秘密は、絶対誰にも話しません。だから……これからも時々は、リリーに会いに父上のお部屋に行ってもいいでしょうか?」

「ああ、いいとも。さあ着いた。明日は出かけるのだから、早く眠るように」

「はい。おやすみなさい」

 ミッシェルと別れ、部屋に戻りながら、リュカはミッシェルが言った事を思い起こす。

『母親に、か……ミッシェルがそんな事を望んでいるとはな。ロイドやエリナ、キャシーあたりも結婚を望んでいるようだが……残念ながら、そうはいかない。そもそも、貴族の世界は窮屈だ。リリーには合わないだろう。私の恋人というだけで、着ている物がどうとか言われるのだからな』

 リリーの体調や様子を見てもらう為にカミーユの元を訪ねる事になったので、その後、リリーは人間の姿で伯爵家に戻るようになった。するとすぐ、問題は起こった。

『どうしましょう、リュカ様。今日メイドさん達が、あんな恰好で伯爵の恋人だなんて、って言っていたんです。やっぱり人の姿でここに来るのは止めた方がいいと思います。これからはわたし、カミーユさんの所に泊めてもらう事にします。お手数をおかけしますが、翌日迎えに来てもらえれば……』

 昼間、猫の姿で屋敷を歩きまわっているリリーは、自分への批判の声を聞きつけ、そう言ってきた。

 リュカはすぐさま、『リリーの事をどうこう言う者は辞めさせよ』『リリーが屋敷に来るときは、私が許可した者以外は自室から出ないように』と指示を出した。

『リリーがメイド達をかばったので、結局誰が言っていたかわからなかった。できれば、辞めさせたかったが』

 少し神経質になりすぎている気もするが、リリーの事となると、どうも冷静でいられない。

『……カミーユ殿に言われたな。心配しすぎだと』

 今日尋ねたとき、リリーが席を外したところでカミーユが苦笑しながら言った。

『心配するのはわかるが、人が沢山いる所にミッシェル坊ちゃんが出かける時こそリリーを連れていかないと。リリーは賢いし、体調もいいし、安定している。安心しなさい。それに、最近は休み前には必ず来ているようだけど、これほどしょっちゅう来なくてもいいんだよ? 勿論来てくれるのはいいんだけどね。ルウもわたしも、リリーに会えるのは嬉しいし』 

 言われた事を思い出し、思わず溜息をついてしまう。

『確かに心配し過ぎかもしれない。侯爵家に連れて行けば誘拐事件の事を思い出すのではないかとか、人が多い所では、可愛い可愛いともみくちゃにされるのではないかとか、つい考えてしまい、何かと理由を付けて留守番させている。……難しいものだな、人を好きになるということは』

 そんな事を考えながら、リュカはリリーが待つ自室へ、急ぎ足で戻って行った。



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