第59話・3人娘冒険者
カナデとは別行動のアリシア視点です。
王都に来て2日目、早々にカナデさんと別行動することになってしまった。私としてはもう少しカナデさんと王都巡りをしたかったのだが、こうなってしまった原因は私にあるのだから仕方がない。
今更ながら安直に騎士講習なるものに行くように進めるべきではなかったと後悔している。
しかし、あまり後悔ばかりしてもいられない。今の私はリムちゃんとルセアを任された身、2人を守りカナデさんに褒められるように頑張らなければならない。
「それじゃあ、俺は騎士講習に行くから冒険者ギルドの方は任せたぞ」
「はい。任せてください」
「おにいちゃん、頑張ってね~」
「ああ、リムも気をつけろよ」
宿を4人揃って出てからカナデさんと別れ、カナデさんは訓練場私たちは冒険者ギルドへと向かう。
道案内は数回王都に来たことのあるルセアに任せ、私はできるだけリムちゃんから目を離さないようにする。リムちゃんは王都に来てからずっと色々なものに目を奪われており、今にも迷子になりそうな勢いだ。
リムちゃんはカナデさんと添い寝出来るきっかけを作ってくれた恩人であり、カナデさんを巡って争うライバルだ。カナデさんも溺愛しているようだし、何としてでも守らなければいけない。
リムちゃんの護衛を果たすことを決心していると、正面に2本の剣を交差させた看板を掲げる建物が見えてきた。
「アリシアさん、リムちゃん見えてきましたよ。あれが冒険者ギルドです」
冒険者ギルドは周囲の建物よりも一回りほど大きく、造りも頑丈に見える。入口から武装した者たちが出入りしており、冒険者ギルドだと知らなくてもそれだと分かりそうだ。
冒険者ギルドへと真っ直ぐ進み、若干古ぼけた両開きの扉を押す。長年の劣化が原因かギィと音を立てて扉が開く。
建物内は入って右側に受付が5つほど設置されており、受付嬢らしき女性たちが慣れた様子で冒険者たちの対応をしている。
私自身は魔物なため人間の美醜の判断の自信はないが、恐らく美人の部類に入る者たちだろう。5人全員がそうであるため偶然ではなく、意図的に外観の良い者を採用しているようだ。
受付のある右側に対して左側は、いくつかの円形の机とそれを囲むように椅子が配置されている。左端には酒を並べているカウンターがあり、休憩場所兼酒場となっているようだ。実際に数人の冒険者たちが疾うに日も昇っているというのに、酒のにおいを漂わせている。
私たちが中へと入ると冒険者たちだけでなく、幾人かの受付嬢までも好奇の視線を向けてくる。私はそれを気にすることなく受付へと向かい面倒な手続きを済ませようとするが、椅子に掛けていた一人の男が進行を妨げるように立ちふさがる。
「おいおい、女子供が何しに来たんだ?」
長身で体格の良い男からは酒の匂いが漂い、既に相当飲んでいるようだ。男は紅潮した顔を私に近づけ、ニタリと気色の悪い笑顔を浮かべる。
「へへ、娼婦だってんなら買ってやってもいいがな。良い喘ぎ声を聞かせてくれや」
男は私の顔に手を添えようとするが、私はその手を手加減をして払いのける。
「残念ですが、私は娼婦ではありません。これから冒険者登録をするつもりなので貴方にかまっている時間はないんですよ。発情しているのなら娼館にでも行ってください」
私が冷静に発言して男の横を通り過ぎようとすると、男は私の腕を掴んで引き留める。
「待てよ。女に冒険者が務まるわけねぇんだよ。分かるか、お前みたいなやつは俺の上で腰振ってりゃいいんだよ」
「…離しなさい」
「あ?」
「離せ」
「だからなにっ…」
男が突然顔を引きつらせ言葉を詰まらせる。なんてことはない。私が少し本気で男の腕を掴んだからだ。
私がさらに力を込めていくとミシミシを言う音と共に男の顔は引きつっていく。やがて手が青く変色しかけるくらいで離してやり、次こそ男の横を通り過ぎる。
男は私の手形が付いた腕を抑えながら、恨みのこもった眼でこちらを睨みつけてくる。たかが性別だけで判断するなどなんと愚かなことか。
魔物の中では雌の方が大型で力が強いものは多い。また小型でも雄に劣らぬ実力を持つものがほとんどだ。人間とて例外ではないはず。実際に油断していたとはいえ、ベルゼブブの魔法を砕き傷を負わせたのはあの4人の中ではルセアだけなのだから。
男は私の後ろ姿をずっと睨みつけていたが、その視界切れ端にリムちゃんの姿が映る。
すると男は私とリムちゃんを交互に見ると、何を思ったのか再びニタリと笑う。そして、拳を握り締めると、男の横を通り過ぎようとしていたリムちゃんへと拳を振り下ろした。
リムちゃんへと拳があたり、その小さな体が大きく吹き飛ぶ。床へと体が叩きつけられ、僅かに血しぶきが舞う。横たわるリムちゃんの顔は苦痛に満ち、良心の呵責がある者は気の毒に目を背ける。
そのような光景を誰もが幻視したが、現実はそうはならない。拳が当たるのではなく首を絞められ、床ではなく壁に叩きつけられ、苦痛に満ちた表情をしているのはリムちゃんではなく男の方だった。
私は片手で男の首を絞め、そのまま壁に押し付ける。そして先ほどよりも本気で力を込めていく。男は何とか私の腕から逃れようと暴れるが、そんなものは何の妨げにもならない。
男の顔には血がたまっていき、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。息を吸おうと必死にもがくその姿は陸で溺れているようにも見える。
「人間が…調子に乗るな」
やがて男が泡を吹き始めると、私は手を離し男を開放する。男は壁をつたいながらしりもちをつき大きくせき込む。
「おい、今の見えたか」
「…全く」
「かなり美人だがおっかねえな」
「とんでもねぇ有望株だな」
その場にいた他の冒険者たちが何やら話している。何を話しているかは知らないが、その後の冒険者手続きは思いのほか円滑に進んだ。
☆ ☆ ☆ ☆
「グギャアッッ」
緑色の体色で醜い相貌の魔物ゴブリンが濁った血潮を吹きながら倒れる。
「これで7体目ですね」
血の滴る短刀を手にしたルセアが討伐の証である耳をはぎ取る。私たちは無事冒険者登録を終え、私たち王都近くの平原でゴブリン討伐依頼を行っていた。
平原の近くには森があり、何でもそこから魔物が湧いて来るらしい。王都近くということもあり間引きの依頼は絶えることはない。
はっきり言って私がいればゴブリンどころかオーガでも瞬殺できるのだが、初心者のFランク冒険者である私たちでは初歩的な物しか受けられない。
とは言えリムちゃんを危険な目に合わせる訳にはいかないので、これが妥当だといえる。当の本人も薬草取りなんかをしてずいぶんと楽しそうだ。
「あと3体ですね」
ルセアはリムちゃんに見られないように蠅を飛ばし、ゴブリンの居所を探す。すると、何かを発見したらしくルセアが眉を顰める。
「あの…アリシアさん。森で助けが必要そうな人がいたんですけど、どうしましょう?」
「う~ん。人助けをしに来たわけではないですが…とりあえずその現場に行ってみましょう。人助けがリムちゃんがやりたいことの中に含まれているかもしれませんし」
「何々?誰かお助けするの?いこいこ」
リムちゃんが話を聞いていたようで行くように勧めてくる。
「では行きましょうか。ルセア案内してください」
私たちはルセアの案内に従い森の深くへと進んでいった。
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