第46話・暗躍する者たち
場所は暗い小部屋。暗さ故辛うじて足元は見えるが、部屋の輪郭はつかめない。その部屋には窓すらなく、魔道具の放つ小さな明かりだけが部屋を照らしていた。
部屋の中心には円形の机が設置されており、それを囲むようにして7つの座席が用意されていた。その座席に座る3つの人影が明かりに照らされて不気味に揺らいでいた。
彼らは八岐、いくつもの国に勢力を伸ばす巨大な裏組織だ。その活動は盗み、暗殺、薬物、人身売買だけにとどまらず、表向きな商売にもわたる。
国の重鎮にも顔が利き、犯罪集団ながらもその影響力故に見過ごされている組織だ。
「セクスタ、クアルタ。緊急招集したにもかかわらず、集まったのはお前たちだけか」
八岐の幹部の一人であり、今回の招集をかけた男セグンダが不平を漏らす。彼は幹部の古参の一人で八岐の活動で中心となる人物だ。
「緊急だから仕方ないことじゃないかしら?」
セグンダの不満に対して、同じく幹部のセクスタが答える。セクスタは8人いる八岐の幹部で2人しかいない女性で、比較的新参だ。
「俺が緊急に集める程の事なのだから、他のことを放っておいてでも来るべきだろう」
「そんなこと言っても仕方ないじゃん。セグンダ、さっさと要件は何か言ってよ」
少年のような甲高い声で幹部のクアルタが急かす様に発言する。彼は見た目や言動は子供のようではあるが、実際には幹部の古参でもある人物だ。
「…ああ、そうだな。とりあえずは最低限お前たちさえいれば何とかなる。では、これから緊急事態の内容を伝える。まだ公になっていない情報だが、レプテンがダンジョン隠蔽の罪で王都へと連行された。証拠がいくつも発見されているため極刑は免れないだろう」
「何かと思ったらそんなこと?あんな小物の心配なんて必要かしら」
セクスタは呆れたような態度を示し、暗くてその姿を視認できない中でも分かるほどの色気のあるため息をつく。
セクスタの言う通り、八岐はレプテンに手を貸してはいたがそれはあくまでも保管場所を守るためであり、レプテンという人物を重要視していたわけではなかった。
「でも、レプテンから僕たちのことが露呈する可能性もあるわけでしょ。もしかして助けるの?」
「いや、あれは俺が始末する。裏から手を回して無罪にすることも出来はするが、助けたところであれはもはや貴族としてはやっていけない。そんなゴミを助ける価値はない。あれはもう用済みだ」
八岐は貴族や国によっては王族に対しても発言権を持つ。そのため、たかが罪状の1つや2つは容易にもみ消すことができる。
「だったら古龍の卵と銀のエルフをどこに移すか考えた方が良いんじゃないかしら」
「今回の問題はそこだ。それは俺の手元にはない」
その言葉にセクスタは大げさに驚くような仕草を見せる。
「あら、セグンダ貴方のことだからてっきり国王に見つかる前に回収していると思っていたけれど…。なら、だれが所持しているのかしら」
セクスタはセグンダから視線をクアルタへと移す。すると、クアルタは首を横に振って潔白を主張する。
「僕は知らないよ。ここに来ていない連中じゃないのかな」
「それはあり得ないだろう。お前もわかっているはずだ。他の4人はあれに関しては一切興味を示していない。あれの存在すら知らない者もいるくらいだ」
ならば一体誰が?という空気があたりに満ちる。すると、セグンダはため息をついて頭を抱える。
「はぁ、あわよくばと思っていたんだがな。やはり、俺たちの手元にはないということか」
「どういうことなの?まさか王に取られたってことなのかしら」
「それならば良かったんだがな…。生憎とあれが奪われたのはレプテンが連行される20日ほど前だ」
「どういうこと?レプテンがやらかす前に奪われたってこと?」
「ああ、そういうことだ。正確に言えば奪われたからこそレプテンが大きく動きすぎたわけだ。密偵として潜ませていた文官までこき使うものだから情報が伝わるのも遅れた」
レプテンはエルフなどの保管場所であったが、レプテンがそれを強奪することも考えられた。そのため、文官の中に密偵を潜ませて逐一報告をさせていた。
しかし、レプテンはエルフを取り返すために全勢力を費やした。その勢力の中にはもちろん文官に扮した密偵も含まれる。結果的には密偵がセグンダに情報を伝えられたのはレプテンが拘束される3日ほど前だった。
「それで、犯人の手がかりとかはあるのかしら?」
「いや、決定的なものはない。しかし、少なくともかなりのやり手なのは間違いない。警備をかいくぐり、古龍の卵とエルフを盗み出したわけだからな。クアルタ、お前が貸し与えていたケルベロスも殺されている」
その言葉を聞いた瞬間にクアルタは机を両手を叩く。
「そんな〜、あれ手懐けるのめんどくさかったんだよ。セグンダが辺境の場所だから飾りみたいなものだっていうから貸してあげたのに。あの犬89号…いや88号だったっけ?…とにかく弁償代ちょうだい」
クアルタの態度は一見、ペットの死を憂う飼い主のように見えたが、その様子は話すたびに変わり最終的には商品を壊された商人のようなものへと変わっていた。
「その話は後だ。とにかく、犯人は相当な技術を持っている。分析によれば魔物の仕業である可能性が高いらしい」
「魔物を使って盗みね、どこかの闇ギルドにでもかぎつけられたんじゃないの」
「情報の漏洩にはかなり気を使っていたんだがな。だからわざわざ警備も少数にして辺境に置いたというのに、意味なかったな」
セグンダは何度目になるか分からないため息をつき、頬杖を突く。その姿はさながら部下の不始末を処理する上司のようだ。
「それにしても、子供とは言え人1人とあのデカい卵を3つも運んだわけでしょ。それにケルべロスを殺すほどの強さ…。Cランクじゃ無理、Bランクでも難しいんじゃないかな」
「ならばAランクの魔物がやったというのか」
「たぶんね。そうだねぇ…暗殺者の代名詞でもあるアラクネとかなら楽勝なんじゃないかな」
セグンダはケアルタの発言を鼻で笑い、声色を強くする。
「そんな化け物を飼いならせるものがいてたまるか。もう少し真面目にやれ」
「ごめん、ごめん。でもさ、それくらいを想定して動いた方が良いでしょ」
「まぁ、そうだな。アラクネは言い過ぎにしろ、過小評価するのはまずいか。しかし…ああ!情報が足りん!」
セグンダは頭を掻きむしり、拳を机へとたたきつける。バンという音と共に机には大きな亀裂が入る。
「とにかく、なんとしてでも取り返す。そのためには情報を集めなければならん。今後の八岐のためにもな。各自、ここに来ていない馬鹿共にも協力を仰ぐように伝達をしておけ。では解散だ」
その言葉と共に魔道具の明かりが消える。そして、3人の姿は闇へと消えた。
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