賑やかな朝食
「おー。すげ」
ハディクとルナねぇと一緒に作り上げた朝食を、キッチンから繋がる談話室にあるテーブルに並べていると、眠たげにあくびを噛み殺すウィルが入ってきた。
「おはよう、ウィル」
「はよ。…これ、エマが作ったの?」
ウィルが席につきながら私を見上げた。
首を振りつつ、キッチンを振り返る。
「ハディクとルナねぇと一緒に。あ、でもこれとこれは私が作ってみた」
とてつもなく大きなテーブルでは、軍の全員が食事を取る。その為、途方もない数の料理が並んでいた。
毎日、3食きっちりハディクが主として作っているというのだから驚きだ。
ゲーム内でも確かにその設定は存在したけれど、実際にその量を見て呆気に取られた。
やっぱり、ゲームとリアルでは感じるものが変わってくるなぁ、と感心。
しかし、これだけ多ければ、攻略云々を抜きにしても手を貸したくなってしまうと思う。
と、さっさと戻って料理を運ぼうと振り返ったら、丁度ルナねぇがキッチンから出てきた。
その両腕に6皿もの料理をのせて。
「わぁわぁわぁ!ルナねぇ、危ないから!!」
「あら、これくらいへっちゃら……って、あらっ!?」
慌てて駆け寄った私の前で、お皿が滑り落ちそうになる。
すんでのとこで抑え、落ちるのを防いだけれど、肝が冷えてしまった。
言わんこっちゃない、と思いつつ、ルナねぇの腕からお皿を受け取る。
「大丈夫よ?」
「だめ。落としたら大変だし、それで怪我したら尚更でしょ」
ルナねぇが器用なのはゲームの情報から知っているけど、時々抜けていたりもする。し、何より気が気ではない。
そんな私たちをみて、ウィルがクスクスと笑っていた。
それからはウィルにも手伝ってもらい、全ての料理を並べ終えた頃に、クォさんたち残りの幹部たちが席についた。
どうやら朝から稽古やら仕事やらに手をつけていたらしく、その顔からは疲労が残っているように見えた。
そして、キッチンを片付け終えたハディクとルナねぇが席につくと、私だけが起立している状態に。
実をいえば、ゲームでは、料理を作ってテーブルに並べ、ウィルと会話をする、という場面までしか書かれていない。つまり、今の時間は行動見本がないのである。
どこに座ればいいのか、というか幹部たちの席についちゃダメよね、と辺りを見回していると、ハディクに手招きをされた。
大人しく彼に近寄ると、ハディクは椅子を少し横にズラして、空席から持ってきた椅子を、自分とウィルの間に置いた。
「ここ、座って」
「えっ、でも……」
流石の私でも礼儀や遠慮は知っている、と渋っていると、後ろから肩に手が置かれ、下に抑え込まれる。
抗えずストンと腰を下ろすと、手の主であるウィルが私の頭をよしよしと撫でた。
「、なに」
「別に。何遠慮してんのかな、って思った」
そういって肩を竦めたウィルは、すぅ、と息を吸うと、よく通る声で食事スタートを告げた。
その声が止んだ途端、平の兵士たちは目の前の料理に群がる。
その勢いに硬直していると、ゆるゆると幹部たちも動き出した。
「これ、エマが作ったんだってさ」
「マジか!じゃあ頂こうぜ」
従兄弟たちが楽しそうに食事を始め、双子は似たような盛りつけで小皿に料理をよそっている。
なんだか、その思い思いの行動をとっている光景に、可笑しさが湧いてくる。
堪らずにバレないように小さく吹き出して、手を合わせた。
「……いただきます」
ゲームでは知ることの出来なかった皆の姿が、これからたくさん見れるのだと思うと、とても嬉しかった。