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第1話 暁の克服者 前編

 麗美と蘭子は吸血鬼の姉妹である。

 生活の保障と引き換えに国家への協力を要求された2人は、社会に紛れて人を喰らう無法の吸血鬼たちと長年戦ってきた。

 その結果、吸血鬼による犯罪は激減し、姉妹の仕事はもっぱら自宅警備と宅配受取になった。


 この物語は、そんな哀れな吸血鬼姉妹の口数の多い姉、麗美と、

 基本的に自室から出ない妹、蘭子と、

 姉妹をサポートする対吸血鬼班の刑事であるジローの壮絶な戦いを記した事件録である。


 丑三つ時も過ぎた、午前3時。ほとんどの人々が眠りについているこの時間に、吸血鬼姉妹の部屋に立ち入る者がいた。

 早足で玄関から居間へと進むのは、警視庁の対吸血鬼班に所属する刑事であり、姉妹のサポート役でもあるジロー。彼はロールプレイングゲームで遊んでいる麗美に向かって、こう言った。

「仕事だ」

 麗美は「え~」と不満げな声を出す。

「血を吸われた死体が出た。早急に解決しないとならん」

「ちょっとセーブするまで待ってね」

「お前は小学生時代の俺かっ!」

「私が行っても、犯人と対決しないなら役に立たないわよ」

「死体は死後数時間だ。犯人が吸血鬼なら、殺害現場に『匂い』が残っているかも知れない」

「私と蘭子なら、そこから吸血鬼の居場所が分かるかも知れないわね」

「そういうことだ。蘭子も連れて急ぐぞ」

「分かったわ。セーブするまで待ってて」

「待てるかっ! こっちは寝てる所を起こされて現場行けって言われてメッチャムカついてるんでい!」

 

 その後、ヘッドホンを付けてボーイズラヴってた蘭子も引っ張り出し、3人はジローの車で現場に向かった。

「被害者は白人男性だ」

 助手席に座る麗美と後部座席で早くも眠りかけている蘭子に向けて、ジローは状況の説明を始める。

「外国の人?」

「ああ。ご丁寧に首筋に噛み傷があって、直接の死因は頭部への銃撃だ」

「吸血鬼になっちゃうのを防いでるわけね」

「さらに心臓付近にも数発、銃弾が打ち込まれている。出血多量で、万が一吸血鬼になれたとしても身動きは取れなかっただろうな」

「念入りなのね。その割には死体がすぐ見つかったみたいだけど」

「死体だけじゃない。被害者を殺した銃もそこに落ちていた。弾切れだったが、それでも物証を現場に残すというのは……」

「……犯人は、おバカさんってこと?」

「……多分な」

 事態の異様さに対し、2人はそう結論づけた。犯人が何らかの意図を持って、それらを行なっているとは考えもせずに。

 つまり、彼らはバカなのである。


 被害者が発見された現場に着いた3名。1人は後部座席で完全に寝ていた。

 海から少し離れた倉庫街。夜風に潮の香りが混じり、遠くには車が行き来する大橋が見える。

「ここで死んでいたわけだが……どうした?」

 ジローの横で、キョロキョロと付近を見回す麗美。それは明らかに不自然な動きだった。

「ジロー……ちょっと蘭子起こしてきて」

「何かあるのか?」

「ええ……というより、ちょっとヤバいかも……」

 それを聞いたジローは駆け足で車に戻り、蘭子を揺さぶって起こそうとする。声をかけても起きなかったので、彼は蘭子を道路に放り投げて叩き起こした。

「いたた……で、お姉ちゃん何なの?」

「わからない?」

「…………あれ? これってちょっとピンチ?」

 神妙な顔で付近を気にし出す2人。事情の分からないジローも、姉妹に倣って周囲を見回す。

「で、何があるんだ?」

「犯人が近くにいる……かもしれないし、もっと危ない気もするわ」

 麗美の言葉に、ジローは首を傾げる。

「どういうことだ?」

「『匂い』が強いし、独特すぎる」

 匂い。吸血鬼が放ち、吸血鬼だけが感知できる気配。血が濃く、強力な吸血鬼であればあるほどその気配は強く、長時間残る。便宜上『匂い』と呼んでいるが、それは決して臭気とは関係無く、だから体臭がきついわけではないのでご了承下さい。

「匂いの強さからして、すぐ近くにいるはずなんだけど……」

「近くにいるのか」

「……でも、いないわ」

「……どっちだよ」

 麗美と蘭子は顔を見合わせ、「いる?」「いない……」と小声でやり取りをした。

「蘭子も近くにいないって言ってるし、多分もうこの辺りにはいない」

「えらく曖昧だな」

「普通の吸血鬼だったら、間違い無くすぐ近くにいるくらいの匂いなのよ。でも、いない」

「つまり、どういうことだってばよ?」

 理解がおぼつかない故か、変な語尾になっているジロー。

「あまり考えたくないのだけれど……これだけ強い匂いが残せるってことは、犯人の吸血鬼は相当強いわね」

「お前らよりも?」

「2人がかりでどうにかなるかどうか……かしら」

「……やばくね?」

「正直、帰りたいわ」

「……帰るか」

 職務怠慢であった。

「マトモに戦ったら死んじゃうかも知れないし、朝が来てからどうにかするのが正解ね」

「んじゃ決定だな。一時帰宅ってことで、連絡をしておく」

 ジローは携帯電話を取り出し、麗美はあくびをする。そして、蘭子は「あ」と声を出す。

「どうかしたの、蘭子?」

「なんか来る」

「え?」

 麗美が再び周囲を見渡し始め、「やばいわね……」と呟いた。

「どうした?」

「犯人がこっち来てる」

「マジで!? なんで現場戻って来てるんだよっ!?」

「知らないわよ、そんなの」

「たぶん……私たちの匂いに気付いた……」

 蘭子の言葉に、麗美は「あ~……」と頷く。

「ありえるわね」

「……連れてこなきゃ良かった」

「逃げる? 間に合わないけど」

「腹括るぞ」

 姉妹が付近に注意を払う中、ジローは上着を脱いで戦闘態勢を整える。構えるは、対吸血鬼用純銀弾が装填された拳銃。

 静寂の中、彼らには風の音が心無しか大きく聞こえていた。それに紛れるようにして、足音が、1つ。

「来たわ……」

 麗美が倉庫と倉庫の間の一点を見つめる。残る2人も、そちらに視線を動かす。

 そこから現れたのは――


「金髪ショタ!?」 

「金髪ショタ!?」 

「金髪ショタ!?」 

 馬鹿3人が同時に叫んだ。

 街灯と倉庫の照明に照らされながら、ブロンドの髪を持った美しい白人少年が微笑みを浮かべていた。 

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