31.自作自演
王都をドラゴンが襲った数日後、再びドラゴンの目撃情報が入る。
場所は初めて実質的な被害を受けたリッツバーグ王国。
魔法使いによって撃退された報は遠方の地にも届いている。
リッツバーグ王国はセイレスト王国に支援を願い出た。
が、これをセイレスト王国は拒否する。
「なぜだ! なぜ支援してくれない! 同盟国だろう!」
リッツバーグの国王は激怒した。
ドラゴン撃退のための戦力を貸してほしいという申し入れを、セイレスト王国は早急に拒絶したからである。
ドラゴンに対抗しうる戦力は限られている。
人員を各国に割いた直後の襲撃により、セイレスト王国の首脳陣は他国に兵を回すより、自国を守ることを優先した。
結果、徐々に派遣していた兵たちを呼び戻していく。
兵の呼び戻しは、セイレスト王国から離れた国から順に始まっていた。
「くそっ……自分たちだけ助かればそれでいいというのか!」
八か国の中で最も遠方に位置するリッツバーグ王国。
資源採掘所の大きさから、相当数の騎士たちが派遣されていたものの、現在は半数以下まで減少してしまっている。
この程度の人員ではドラゴンには対抗できないと考えたリッツバーグ王国は、他の七か国にも支援を願い出た。
しかし、どの国も自国を守ることで精いっぱい。
次にドラゴンが襲うのは自分たちの国かもしれない。
そんな恐怖が膨れ上がる中、ドラゴンはついにリッツバーグ王国の王都上空を飛ぶようになる。
「陛下! またしても上空にドラゴンの姿が! 民衆が混乱しております」
「そんなことわかっている! だがどうしろというのだ? 我々の戦力だけであれに対抗できるか? 刺激しないことが最優先だ!」
彼らは手を出すことすらできない。
下手に刺激すれば大惨事になることはわかりきっている。
ドラゴンは何度も現れるが、特に何もしてこない。
しかし、数回の発見された後で採掘場が襲撃されたように、いずれも王都も攻撃される可能性が浮上する。
なんとかしなければならない。
城を、国を、国民を守らなければならない。
大国の助けは得られない。
他の七か国も自分たちのことで精一杯。
もはや頼れる相手などいなかった。
そこに、来客が現れる。
予期せぬ相手が。
「陛下。陛下にお会いしたいという方々がお見えになられております」
「セイレスト王国からか?」
「いえ、それが……レイニグラン王国から」
「――! なんだと? なぜ今になって……」
疑問を抱きながらも国王は会うことを決断する。
こんな状況だからこそ無視できない。
たとえ敵対国家だとしても。
◇◇◇
レイニグラン王国の東。
八か国の中で最も大きな資源採掘場を管理する国家、リッツバーグ王国。
敵国の中心地である王都、その王城に、私とレオル君はやってきた。
「覚悟はいいか?」
「もちろんよ。レオル君こそ、いざとなったら私が守るから」
「お互いにな」
ここは敵地、何が起こるかわからない。
私たちは気を引き締め、国王への謁見を求める。
意外にもすぐに許可は下りた。
おそらく切迫した状況だからこそ、問題となりそうな事柄を早めに対処したかったのだろう。
それとも一縷の期待でもあったのだろうか。
ともかく、私たちは目的通りリッツバーグ王国の国王と話す機会を得た。
場所は応接室。
私とレオル君、リッツバーグの国王が向かい合って座る。
「ようこそいらっしゃいました」
「こうしてお会いするのは初めてですね。リッツバーグ国王」
「ええ、そうですね」
この二人は間接的に面識があるようだ。
それも当然か。
現国王がまだ元気だったころは、敵国ではなく隣国として接していたのだから。
今となっては、国の衰退の要因を作ったにっくき相手だが。
リッツバーグ国王の視線が私に向く。
「そちらの女性は? 殿下のお相手でしょうか?」
「いえ、彼女は私の下で働く宮廷魔法使いです」
「ほう。貴国にも魔法使いが残っておられたのですね」
皮肉を言う。
すでに衰退した国に魔法使いを雇う余裕があるのかと。
かつての大国も、今は八か国以下の国力、見下されて当然だが……不愉快ではある。
レオル君はよく表情に見せない。
内心では苛立っているはずなのに、さすが王子様だ。
「此度はどのようなご用件でしょう? 私どもも忙しいので、できれば手短にお願いしたいのですが」
「私たちも長く滞在するつもりはありません。ですがそちらのお返事によっては、もう少しいることになるかもしれませんね」
「どういう意味ですか?」
「――ドラゴンのことです」
その単語を口にした途端、国王の目の色が変わる。
明らかに動揺を示す。
「貴国に何度も現れていると聞きます」
「なぜそれを?」
「隣国のことですから多少は知っています。お忙しくされているのはその件ですね?」
「……」
リッツバーグ国王は無言で返す。
手をこまねいている、とはさすがに口にしない。
しかしその無言こそ、彼らが困っていることの証拠でもある。
「貴国は私たちの国にも近い。早急に対応して頂きたいのですが、どうされるおつもりですか?」
「……それを、あなた方に伝える理由がありますか?」
「ありません。我々は同盟を結んでいるわけではない。ですが、貴国が襲撃されると……次にこちらに被害が及ぶかもしれない。それは非常に困ります」
「……何をおっしゃりたいのです?」
レオル君は不敵に笑う。
これは天からの祝福か、それとも悪魔のささやきか。
「手をお貸ししましょうか?」
果たしてリッツバーグ国王には、レオル君の言葉がどう聞こえているだろうか。
 






