32.天使か悪魔か
「手を貸す……? 貴国が、我々に?」
「ええ、そう言っています」
「……ふっ、笑わせないでいただきたい。貴国に何ができるというのですか? 数十年前ならともかく、力を失った今の貴国に!」
リッツバーグ国王は声を荒げる。
馬鹿にされたと思ったのだろうか。
追い込まれている状況だからこそ、嘲るような発言に苛立っている。
口調からも丁寧さが欠落した。
しかし、レオル君は本気だ。
「セイレスト王国でドラゴンが暴れた話はご存じでしょう? その対処をしたのが、一人の魔法使いだということも」
「もちろん知っている。貴国よりも詳しく報告を受けている。それがなんだ?」
「どれだけ数を揃えてもドラゴンには敵わない。ですが、優れた魔法使いが一人いれば、退けることはできる。そういうことです」
「それがなんだ? ドラゴンを退ける力を持った魔法使いなど簡単には見つからない。まさかと思うが、その隣の女にそれだけの力があると言うつもりか?」
「ええ、そう言っています」
レオル君がハッキリ答える。
リッツバーグ国王は呆気にとられ、鼻で笑う。
「大法螺吹きもそこまで行くと清々しい! そんな戯言を私が信じるとお思いか!」
「戯言ではないことを、今から証明しましょう」
「何を――」
「アリス」
「はい」
足元に転移の魔法陣を展開する。
リッツバーグ国王が気づく前に、私たちは椅子やテーブルごと転移する。
場所は――
「な、なんだこれは!」
空の上。
周囲には大自然が広がり、人が暮らす場所はない。
私たちは透明な足場の上に立っている。
「どういうつもりだ!?」
「落ち着いてください。言ったでしょう? 証明すると」
「こんなものが証明になるか! 早く元の場所に戻せ!」
「いいえ、まだ何もしていません。見せるのは今からです。アリス」
私は目の前にある大きな山に右手をかざす。
ここは予め私が選んだ場所で、国からもかなり離れている。
人を巻き込む心配のない場所だ。
「何をする気だ」
「ドラゴンの一撃は山をも砕くといいます。ですが、それくらいなら彼女でも可能なんですよ」
「馬鹿な! そんなことただの魔法使いには――」
「ハイパーノヴァ」
私は複数の魔法陣を重ねて発動させ、白い球体を発射する。
シクロ殿下が使った魔法と同じものだ。
破壊力は私の方が上だと自負している。
放たれた球体は山に衝突すると、一瞬で大山をえぐり飛ばしてしまった。
「なっ……」
リッツバーグ国王は大口を開けて驚愕する。
「言った通りでしょう? 容易いと」
「がっ、あ、こんなことが……」
「アリス、戻ろう」
「はい」
私は再び全員を転移させ、リッツバーグの王城へと帰還した。
驚きながら国王は腰を下ろす。
「い、一体何者なのだ? その女は!」
「彼女はアリスティア・ミレーヌ。元セイレスト王国宮廷魔法使いです」
「あ、アリスティアだと! 王国の魔法史を悉く塗り替えた天才魔法使いが! な、なぜ貴国にいる?」
またしても驚愕する国王。
セイレスト以外の国ではそんな風に呼ばれていたのね……。
初めて知って少し恥ずかしいと思った。
でも、知られているなら好都合だと、レオル君も思ったはずだ。
「セイレストが彼女を不当に追いやった結果です」
「馬鹿な! これほど貴重な人材を手放すなど……何を考えているんだ!」
「まったくです。ですがこれで信じて頂けましたか? 今の我々には彼女がいる。彼女なら、ドラゴンを退けるどころか、手懐けることすら可能です」
「て、手懐けるだと? そんなことが……」
目が飛び出るくらい大きく開きながら、国王は私を凝視する。
私は小さく頷き肯定する。
「可能です。私なら」
「――! 貴国に力があることはわかった。手を貸してくれるというのもありがたい。が、わからないことがある。なぜ私たちを助けようとする? 貴国にはメリットがないではないか」
さすがに気づくか。
私がいる以上、ドラゴンの危険はレイニグラン王国にはない。
最初にレオル君が口にした言葉、この国が対処できなければ困るという内容に矛盾が生じる。
手を貸さずとも、レイニグラン王国に現れたら対処すればいい。
「何が望みだ?」
「――私たちは今、セイレスト王国に奪われたものを奪還するために動いています。その手助けをしていただきたい」
「なっ……正気なのか? あの国を敵に回すなど」
「元は我々のものです。この地にある採掘所も、本来はレイニグラン王国のものだった。もうお忘れですか?」
レオル君は鋭い目つきでリッツバーグ国王を睨む。
その眼光に国王は面食らう。
隣にいる私も少しだけ身体が震えた。
普段温厚な人ほど、怒った時の表情は怖く感じる。
だが、相手は一国の王。
恐怖や脅しだけでは動かない。
「……不可能だ。いかに優秀な魔法使いが加わっても、あの大国は揺るがない」
「ドラゴンが増えても?」
「それでもだ。まだ足りない。貴国に加担するということは、我々も裏切るということだ。そうなれば一たまりも……」
「ならばもう一つ、共に戦ってくれる国があったら?」
「……何を言っている?」
レオル君から目配せを受ける。
私は転移魔法を発動させる。
今度は移動ではなく、こちらに呼び出す。
もう一人の協力者を。
「――! き、貴殿は……」
「お久しぶりですね? リッツバーグ国王」
「グレスバレーの……シクロ殿下?」
胡散臭い王子はいつものように作り笑いをする。
これで面子は揃った。
あと一押し、交渉は加速する。






