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【WEB版】妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 日之影ソラ
後編

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32/45

32.天使か悪魔か

「手を貸す……? 貴国が、我々に?」

「ええ、そう言っています」

「……ふっ、笑わせないでいただきたい。貴国に何ができるというのですか? 数十年前ならともかく、力を失った今の貴国に!」


 リッツバーグ国王は声を荒げる。

 馬鹿にされたと思ったのだろうか。

 追い込まれている状況だからこそ、嘲るような発言に苛立っている。

 口調からも丁寧さが欠落した。

 しかし、レオル君は本気だ。


「セイレスト王国でドラゴンが暴れた話はご存じでしょう? その対処をしたのが、一人の魔法使いだということも」

「もちろん知っている。貴国よりも詳しく報告を受けている。それがなんだ?」

「どれだけ数を揃えてもドラゴンには敵わない。ですが、優れた魔法使いが一人いれば、退けることはできる。そういうことです」

「それがなんだ? ドラゴンを退ける力を持った魔法使いなど簡単には見つからない。まさかと思うが、その隣の女にそれだけの力があると言うつもりか?」

「ええ、そう言っています」


 レオル君がハッキリ答える。

 リッツバーグ国王は呆気にとられ、鼻で笑う。

 

「大法螺吹きもそこまで行くと清々しい! そんな戯言を私が信じるとお思いか!」

「戯言ではないことを、今から証明しましょう」

「何を――」

「アリス」

「はい」


 足元に転移の魔法陣を展開する。

 リッツバーグ国王が気づく前に、私たちは椅子やテーブルごと転移する。

 場所は――


「な、なんだこれは!」


 空の上。

 周囲には大自然が広がり、人が暮らす場所はない。

 私たちは透明な足場の上に立っている。


「どういうつもりだ!?」

「落ち着いてください。言ったでしょう? 証明すると」

「こんなものが証明になるか! 早く元の場所に戻せ!」

「いいえ、まだ何もしていません。見せるのは今からです。アリス」


 私は目の前にある大きな山に右手をかざす。

 ここは予め私が選んだ場所で、国からもかなり離れている。

 人を巻き込む心配のない場所だ。

 

「何をする気だ」

「ドラゴンの一撃は山をも砕くといいます。ですが、それくらいなら彼女でも可能なんですよ」

「馬鹿な! そんなことただの魔法使いには――」

「ハイパーノヴァ」


 私は複数の魔法陣を重ねて発動させ、白い球体を発射する。

 シクロ殿下が使った魔法と同じものだ。

 破壊力は私の方が上だと自負している。

 放たれた球体は山に衝突すると、一瞬で大山をえぐり飛ばしてしまった。


「なっ……」


 リッツバーグ国王は大口を開けて驚愕する。


「言った通りでしょう? 容易いと」

「がっ、あ、こんなことが……」

「アリス、戻ろう」

「はい」


 私は再び全員を転移させ、リッツバーグの王城へと帰還した。

 驚きながら国王は腰を下ろす。


「い、一体何者なのだ? その女は!」

「彼女はアリスティア・ミレーヌ。元セイレスト王国宮廷魔法使いです」

「あ、アリスティアだと! 王国の魔法史を悉く塗り替えた天才魔法使いが! な、なぜ貴国にいる?」


 またしても驚愕する国王。

 セイレスト以外の国ではそんな風に呼ばれていたのね……。

 初めて知って少し恥ずかしいと思った。

 でも、知られているなら好都合だと、レオル君も思ったはずだ。


「セイレストが彼女を不当に追いやった結果です」

「馬鹿な! これほど貴重な人材を手放すなど……何を考えているんだ!」

「まったくです。ですがこれで信じて頂けましたか? 今の我々には彼女がいる。彼女なら、ドラゴンを退けるどころか、手懐けることすら可能です」

「て、手懐けるだと? そんなことが……」


 目が飛び出るくらい大きく開きながら、国王は私を凝視する。

 私は小さく頷き肯定する。


「可能です。私なら」

「――! 貴国に力があることはわかった。手を貸してくれるというのもありがたい。が、わからないことがある。なぜ私たちを助けようとする? 貴国にはメリットがないではないか」


 さすがに気づくか。

 私がいる以上、ドラゴンの危険はレイニグラン王国にはない。

 最初にレオル君が口にした言葉、この国が対処できなければ困るという内容に矛盾が生じる。

 手を貸さずとも、レイニグラン王国に現れたら対処すればいい。


「何が望みだ?」

「――私たちは今、セイレスト王国に奪われたものを奪還するために動いています。その手助けをしていただきたい」

「なっ……正気なのか? あの国を敵に回すなど」

「元は我々のものです。この地にある採掘所も、本来はレイニグラン王国のものだった。もうお忘れですか?」


 レオル君は鋭い目つきでリッツバーグ国王を睨む。

 その眼光に国王は面食らう。

 隣にいる私も少しだけ身体が震えた。

 普段温厚な人ほど、怒った時の表情は怖く感じる。

 だが、相手は一国の王。

 恐怖や脅しだけでは動かない。


「……不可能だ。いかに優秀な魔法使いが加わっても、あの大国は揺るがない」

「ドラゴンが増えても?」

「それでもだ。まだ足りない。貴国に加担するということは、我々も裏切るということだ。そうなれば一たまりも……」

「ならばもう一つ、共に戦ってくれる国があったら?」

「……何を言っている?」


 レオル君から目配せを受ける。

 私は転移魔法を発動させる。

 今度は移動ではなく、こちらに呼び出す。

 もう一人の協力者を。


「――! き、貴殿は……」

「お久しぶりですね? リッツバーグ国王」

「グレスバレーの……シクロ殿下?」


 胡散臭い王子はいつものように作り笑いをする。

 これで面子は揃った。

 あと一押し、交渉は加速する。

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