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魔法の宝石を手に入れたら聴覚障害になった  作者: はにょ
第三章 カナタの闘病生活
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━━━━━━━━━━■

<回想 盗賊団結成前 当時シロ15歳>


 シロはキッチンに立っていた。


「…ぅ…ぁぁ、く、」

「……?」

 カナタの声……だろうか? 不自然な声がしたきがして、カナタに声を掛けた。

「カナタ?」

「……っ………ぁ………ぁ……」

 やはり声がする。現在、このリビングにはカナタとシロの2名しかいない。ということは……。苦しそうなうめき声だと思ったので声をかけつつ、不審に思いソファーに近づく。


「カナタ!!」

 ソファーを覗くとカナタの体は硬直しており、ピンと張っていて頬や筋がぴくぴくと痙攣していた。


(発作か?!)

 このような場面に初めて出くわしたためにシロは、一瞬硬直状態になった。

(どどどうすれば……)

 こういう時はどうすればいいのか分からない。


 そうだ、呼吸はあるのか? と口の前に手を当ててみる……が、よくわからないながらも呼吸音がしない。息が止まっていると思い焦った。


「カナタ?! どうしたんだ?」

 発作なんてものに遭遇したのは初めてだし、カナタから発作の”ほ”の字も何も聞いておらず、驚きカナタの身体を揺さぶった。顔色はわからないが真っ青なんじゃないかと思った。


 揺さぶっても何の反応も示さない……。

 誰か助けを……いや、その間にカナタが死んでしまうかもしれない。却下だ。

 しばらくあわあわしていると、呼吸は止まったり動いたり、まちまちだがずっと停止しているわけではないので窒息はしなさそうだった。


「カナタ? きこえるか?」

 シロはビクビクしている頬のあたりをさすったり、なにか返事ができるか声をかけ続けた。どうすればいいか分からないながらも痙攣している箇所を擦った。


 一連の発作の持続は5分ほどで、緩やかにカナタの発作が落ち着いていったが声をかけ続けてもずっと反応がなく、しばらく朦朧とした状態が続いた。


「カナタ、水、飲めるか?」

 発作が落ち着いてきたので、水分が必要だろうと何か飲ませなければとシロは水を持ってきた。


 持ってきた水を、カナタの口元に当て、無意識かわからないが半開きな口に少量の水を垂らすが少々嫌がるように億劫な動作で口が閉じられた。

 その後口は開いてくれず、一向にのもうとしないので戸惑った。

 無理に口を開かせるべきか迷ったが、まだ飲めないのかと思って、無理にのませることはやめた。




 水を飲ませることを止めたら、カナタは言葉を紡ごうとしてくれたのか、小さく口が開いたが、まだしばらく言葉は出てこない様子だった。



 口が開いた状態が続き、唾液が溜まって唇の隅から溢れている。タオルを持ってきて拭きとった。



 睫毛が痙攣し、半開きな目から見えるうつろな視線はシロを見上げているようで、その背後の何かを見ているような朦朧としたものだった。濁ったままの瞳孔では何を見ているのかわからなかった。

 一点をぼーっと見るようにしており、言葉を発するしぐさも意識を持っているのかないのか判断が付かない。


 瞼の痙攣が徐々に納まり目が伏せられびっしりと生え揃っている睫毛がよく見えた。



「ふぅ……ふぅ……」

 しばらく互いの呼吸音だけが聞えてくる。寝ているわけではない。カナタ落ち着いてきた様子に、シロ自身がかなり動揺していたことに気づかされた。


 カナタの鼓動を聞きながら、この後どうすればいいだろうと思考していたら不意にカナタが言葉を発した。



「……ほっさ……は、……ぉさま…から……ほっ、といて」

『発作は治まったからしばらく放っておいてくれ』

 話せるようになったらしいカナタはぐったりしながら呂律の回らない口でシロに言った。


 シロは鈍器で殴られたような気がした。第一声が突き放され、ショックを受けた。辛いのはカナタで、俺じゃないのに……言葉の刃が心に刺さった。




 シロは席を外し、カナタの居るダイニングと別室である寝室に入り、戸を閉める。

 部屋数は少なく、ダイニングと寝室くらいしかくつろぐ場所はない。シロは寝室のドアの前から動けなかった。

『放っておいてくれ』というカナタの言葉がリフレインする。先の事件が映像として消えない。

 休むならカナタがこっちの部屋に来るべきだと思いついたが、ダイニングに戻ってカナタに話しかけることはためらわれた。


「くそ……俺には……」

 俺には医療の知識がなく、発作時に居合わせても狼狽えるだけで、何かできないかと行動したら何もできないどころか余計なことをして逆に不快な思いをさせてしまった。ただただ悔やんだ。



 控え目にノック、数秒後にガチャとドアが開く音がして、その音に反応してそちらを見るとカナタが立っている。


 どれくらい時間が経ったのだろうか……。しばらく、自分が放心状態になっていたことにシロは気づいた。


「ぁ……」

 声をかけたい。もう立てるのか、体調は大丈夫なのか……。とにかくめちゃくちゃ心配だったが、また余計なことをしてしまわないかと声すらかけていいのかわからず、カナタの方を見るなり固まってしまった。


「……シロ、さっきは悪かった。発作の事、話してなかったおれが悪かった。せっかく看病してくれたのに……。強く当たった」

 部屋から出てきたカナタが皆目一番に口にしたのは、謝罪だった。


「い、いや……その……だ、大丈夫なのか?」

 シロがどもりながらおろおろと尋ねる。

 一件普通に見えた。痙攣も収まっているようだし、声も口調も普段通り……とはいかないが、問題ない。


「ああ」

 本当に心配いらないという口調に聞こえた。の顔色はシロにはわからない。まだ休んでいた方がいいんじゃないか、そう喉まででかかってきた言葉がまた余計な事をいうな、するなという教訓のために何も言い返せない。


「…………」



■■

「…………」

 うつむき加減に口をつむぐシロ。明らかに口数が少ない。それは、さっきおれが突き放したからだと理解していた。


 発作中、おぼろげながらも意識があった。シロの声はずっと聞えていた。

 しかし舌や顔がしびれ、動かせずに声を掛けられても返事ができなかった。

 そして、おれにとって残念ながらシロの心配からの行為はすべて心地良いものではなかった。

 発作を抑えようとしているのに大きく揺さぶられ、けいれんを起こしている筋をさすられ、しゃべれないのに返事を求められ、大変つらかった。


 また心配して飲ませようとしてくれた水も、発作直後は味覚が変わってしまっているため非常に不味く感じてしまい、かえってストレスになるため飲める状態でも飲まなかった。



「……わかった」そう言って手を離したシロの表情は一生忘れない。くしゃりと顔が歪んだので泣き出すかと思ったが、シロの目から涙は出てこなかった。ただ事実を言っただけだった。

 だが、おれの一言がシロを傷つけたとわかった。

 だからだ。シロが自ら、何も言わないようにしている。


「シロ……あのな、最近、よく発熱を繰り返えすんだ。発熱時にこういった発作が起きる」

「……ねつ?」

 シロに説明しなければ……そう思うのに上手く説明できない。自分の事、病気の事、人に伝えることにはなかなか慣れてくれない。だが、同じ屋根の下で暮らすなら話しておかなければならない。そう今日で知ることになった。


 だから、勇気を振り絞って伝えた。

 発作のあとは寝てしまうことが多いが、ときにボーっとしたり、おかしな動きをすることがあること。激しい疲労感に襲われるため気分がすぐれない、情緒不安定になる、あくびを繰り返すこと。


 完治したと思っていた珀鉛病の副作用だろうか、原因不明の発熱とその後に痙攣が起きることがあったこと。発熱時(通常発熱後24時間以内)に突然意識がなくなり、体がつっぱる、ガタガタ震える、白目をむく、全身の力がぬけるなどの症状が起こること。


「今日は迷惑をかけた。また同じような発作が起きると思う。発作中よだれが出たり、嘔吐がある場合は顔や体を横に向けてほしい。歯をくいしばることもあるが、歯の間にものをはさまないでくれ」

 カナタがシロに発作の対処法を教える。


「わかった。発作中は傍にいていいのか?」

 シロが不安そうに聞く。


「ああ。朦朧状態になると突然立ち上がろうとする、ふらふらと歩く、周りのものを触る、つかむ、突っ張ると言った行動を始めることがある。問いかけには部分的に反応するが怪我をしないように誘導するように安全を確保してくれ」

 顔色が真っ青になることをチアノーゼということもわからず、対処法を知らないと悪化させると知ったシロは、勉強に励んだ。

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