2-14
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「わかった。無音魔法を解除してくれ」
カナタがシロに手話で言う。
「な! まず体力を回復させてください。その後です」
シロが手話を交えて言う。
カナタは言うことが極端すぎる。何も感情も見せなかったあの時より100倍マシだが、困ることには変わりない。
「敵の魔法の効力とっくに切れてる、お前も気づいているだろう? 後は俺の問題だ。無音魔法を解除しろ」
「…………」
動かぬシロに譲歩したのか、カナタは手を動かした。
クロが翻訳する。
「見当はついてる。幻聴は精神的な理由が原因だろう。体力を回復させたからといって聴覚異常が治るとは思わない。このまま何も対処しなければ腐って死ぬだけだ。」
「……でも」
シロは無音魔法を解除せず、しかしいい提案もできず渋る。
「シロ、魔法を解除しろ」
カナタから再度命令が下った、声に音を乗せて。
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「っ」
シロはびくっと体を震わせた。
“シロ“
ああ、カナタからそう呼ばれるのはいつぶりだろうか、それは不意打ちだ、こんな時に呼ばないでくれ。
舌足らずなカナタの声が愛おしい。
「命令だ」
カナタがきつく、声の音量を上げてシロに言った。
カナタは意見を曲げない、今日逃げてもずっと繰り返し言い続けるだろう、俺が1日2日伸ばしても所詮悪あがきだ。
「……分かりました」
は全然納得できていないが、代案もないため嫌々手話を加え言った。
薄々気づいていた。なぜこの魔法の宝石がホームの中にあったのか。俺も同じ魔法師の攻撃を受けたのに効果が極端に違うこと、不可解な点はいくつもあった。
これは敵の魔法による症状を逸脱している。
「……解除します」
そう手話を交え言う。カナタがコクリ頷いたことを確認してからぱちんと指を鳴らし、シロの『無音魔法』が解除された。
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「……くっ」
カナタの耳に幻聴がよみがえってきたようだ。響き始める幻聴にぐっと唇をかみしめひたすらに耐える。目をぎゅっとつぶり、辛そうなカナタにすぐに楽にしてあげたいと思いながら、シロも無音魔法を掛け直したい気持ちを堪え我慢し続けた。
「ぐああ゛あ゛あ゛あ゛ああ!!」
びくりと体が大きく跳ねる。目を大きく見開き大きな波が来たのか、耐えられなくなったのか、カナタが悲鳴を上げた。時間にして数秒だった。シロはすかさず無音魔法を掛け、無音空間を作った。
はぁはぁはぁとカナタの息切れの声が部屋に響く。
「……カナタ?」
シロがカナタの腕をそっと触れながら声を掛ける。
「はぁ……ハァ……」
カナタは息を切らし、床を見ている、しばらくそうしていた。
「また……明日も……頼む」
カナタが重たそうに顔を上げ手話で言った。
「……っ」
カナタの手話を読んだ瞬間、サーっと血の気が引いた。なめていたと思った。
これを、これを……続けるのか。今のであきらめないのか。治る兆しはあるのか? 否定的な感情がシロを襲う。
無音魔法を解除して辛いのはカナタなのに……。
無音魔法の檻に閉じ込めたいという欲望がシロを支配する。
その日は何も成果を得られなかった。




