第9話
7月になった。
先月までの雨はどこかへ行き、太陽は当然のように照り付けている。
「それで今日はなんで呼ばれたんだ?」
日曜日のお昼時。
僕は蓮とファミレスにいる。
グラスの中で氷がカランと音を立てた。
「とある人から返信が来なくなって。初めてのことだから分からなくて……」
「もしかしてこの前話してたことと繋がってたり?」
「うん……」
蓮はオレンジジュースを一口飲む。
「その人と仲がいい子から、『思わせぶりなことをしないで欲しい』って言われて。自覚はないんだけど、近づきすぎたのかなって」
「待って、相手は女の子……?」
「うん」
「柚葉が女の子とね……。あの時のことで女の子ダメだと思ってたわ」
あの時とは、中学2年生の時のことだ。
「僕が告白された時のね」
「そうそう。それで柚葉さ、好きかわからないからって断ったんだよな」
相手は後輩の女の子だった。すごくいい子だとは思ったし、蓮からも付き合ってみたら?とも言われた。
でもその子が好きかは分からなかった。
「その後大変だったよな。振られた子が『なんで思わせぶりなことしてたんですか』って泣いちゃって」
「その場にいた同級生たちが必死に落ち着かせてたけど、ああいうのはもう見たくないなって思った」
「だよなー。俺もあれは見たくないわ」
お互い飲み物に口をつける。
一息ついて、グラスの中のコーヒーを見る。
最近、コーヒーを苦いと感じることが減った気がする。
「話がそれたけど、返信が来なくなったってことだったよな」
「うん。本当はまたどこか行こうって話をしてたんだけど……このまま仲良くしてていいのかなって」
「柚葉は何て返したんだ?」
「しばらく忙しいから行けないと思う、って返した」
蓮を見ると目を大きく開いていた。しかもピクリとも動かない。
「柚葉……お前……その返事は、そうなるわ」
グラスを握る蓮の手が、少しだけ震えている。
「相手はまた行こうねって誘ってるんだぞ。そこにしばらく行けない、は拒否反応だろ」
「いや……望月さんとは仲良くしたいんだけど……一旦距離を置いてもいいのかもしれないって思って」
「だとしてもその返しは距離空けすぎてると思うぞ」
グラスをそっと握る。冷たさが手のひらにじわりと広がり、表面の水滴が指先を湿らせていく。
「柚葉って不器用だよな」
「え?」
「いや、悪い意味じゃないよ。柚葉はすごく優しい。これは俺が保証する」
「その返事だって、柚葉なりに相手を傷つけたくなくて送ったんだろ?」
いつもヘラヘラしてる蓮の顔が真剣になる。
「ただ何も知らないと、結果的に相手を傷つけてるかもしれない。柚葉の優しさって、たまに変な方向に行くんだよな」
蓮はオレンジジュースをストローでかき混ぜる。
僕はコーヒーを見る。赤みのある明るい茶色。家で飲んだコーヒーは黒かった。コーヒー1つでもいろんな色があるらしい。
「望月さんとはちゃんと話したのか?」
「いや……話してない」
「じゃあ答えはわかっただろ。柚葉はそこまで馬鹿じゃない」
ポケットからスマホを取り出す。何も言わなくても、蓮なら返事はわかってくれると思った。
『しばらく忙しいから行けないと思う』
トーク画面の一番新しいメッセージ。
既読のマークはあるが、返事はまだない。
「蓮ってさ、この人、人として好きだなっていつ思う?」
「なんとなくじゃね?いつの間にか好きになってる」
スマホに指を滑らせる。たまに止めながら、少しずつ滑らせる。
一度読み直す。今度はちゃんと届くように、送信ボタンをタップする。
「柚葉はどうなんだよ」
「どうなんだろう。人として好きってのも、よくわかってないからさ」
「でも、ちょっとだけ踏み込んでみようと思う。どうなるかわかんないけどね」
「お前、変わったな」
「そうかな」
お互い顔を見合わせて少しだけ笑う。
『この前はごめん。今度あの喫茶店に行かない?ちゃんと話したくて』
家に帰ってスマホを見ると返事が来ていた。
『いいよ。土曜日の10時はどうかな?』
そのメッセージを見てほっと息が漏れ出る。
肩の力が少しだけ抜けた気がした。
窓を開けて風を入れる。
7月の空気は暖かく、吹き込む風は涼しかった。
時間空いちゃったんですけど、書けました!
反応やコメントもらえると嬉しいです!




