脅されて仕方なくデートしておりますが、腹の爆弾がいつ破裂するか気になってそれどころではありません。
日曜の朝、いつもの癖で開けた冷蔵庫の中にシュークリームが1つ入っている。姉ちゃんのかな?
俺は無造作にラップを外し、キンキンに冷えたシュークリームを口へと運んだ。
「あーっ!先輩もしかして食べちゃいました!?」
トイレから出て来た歩美が、手を拭きながら慌てた様子で駆け寄ってきた。余所行きの滅多に着ない綺麗な服を着ているが、問題はそこではない。
「何故居る?」
「さっき家に入って…………そう言えば挨拶がまだでしたね?お邪魔します」
呼んだ覚えも家に上げた覚えも無い歩美が、我が物顔で家の中を闊歩している。実に嘆かわしい。いつの間にか我が家はフリースペースと化したのか……。
「……で?俺が食べたシュークリームが何だって?」
「それ極小の爆弾が仕込んであるから食べないで下さい!!」
…………待て
待て待て待て…………!!
「お、お、お、落ち着け!!順を追って説明しろ!!」
「まずは先輩が落ち着いて下さい……。そのシュークリームは私が作った物です。間違って先輩が食べるように冷蔵庫に仕込んだんですよ」
――――――ファッ!?
え~っと、歩美さんの言っていることが理解できないんだが……。
「良いですか先輩?その爆弾を解除する方法は1つだけです」
「解除する方法は…な、何だ……!?」
俺は腹を摩りながら、歩美の言葉を待った。
色々と怒りたいが、今は大人しく言う事を聞いておこう。流石に腹が爆発するのは嫌だ……。
「私とデートする事です!!」
……へ?
おいおい訳が分からんぞ!?遂にとち狂ったか?
「因みにこのボタンを押せばいつでも爆発します」
「あ、はい。デートさせて下さい」
謎の起爆スイッチに親指を掛ける歩美を見て、俺は即座に頭を下げた。最初から拒否権など無かった……。
<歩美タンも中々やりますなぁ~>
<茜には無い強引さだ。流石ライバル……>
――アンタらの娘はちょいと、どうかしてますがな……。
俺は妙にキリキリと痛む腹を摩りながら自室へ着替えに戻った。適当にデニムのズボンとシャツでいいや。
俺はヨレヨレの服を手に取り、さささっと支度を済ませると爆弾魔の機嫌を損ねないように笑顔で階段を降りた。
「先輩とデート♪先輩とデート♪」
歩美は嬉しそうに玄関先で1人踊っていた。
「で?服までバッチリ決めてた計画犯の歩美さんは、どこか行くところもお決まりですか?」
「先輩が決めて下さい♪あ、変なところに行ったらボタン押しますからね?」
デートしたこと無い俺に完璧なプランを求められても困る……。俺はトイレへ行くふりをして、急いでスマホで『初めてのデート』で検索した。
「…………ま、適当でいいや」
俺は財布の残機をチラリと覗く。先鋒英世、次鋒英世、終わり!
うむ、我が財布軍は実に充実しているな!
俺は血の涙を流しながら歩美の元へと向かった。
「スマン。金が無いからその辺ブラブラする位しか出来ないがいいか?」
半分以上開き直った俺に歩美は意外にも笑顔で頷いた。
「先輩とならどこでも♪」
「ほほう、言うたな?」
俺は近くの駅ビルにあるクッソオシャレ上級者御用達の服屋へと向かった―――




