五話
「さて」
義兄上が重々しい空気を変えるかのように、改まったお声を出された。
「これを」
手渡されたのは、未草。
小さな白い花だった。
「花言葉は知っているかな?」
「確か……『純真』でしょうか」
「そうだね。『清純な心』という意味もあるのだよ」
「覚えておきます」
「素直で良いね。これには、千歳様からお言葉も賜ったのだよ」
「……私に、ですか」
「そなた宛てゆえ、そうなるね」
義兄上は目を優しく弓なりにして、こう仰った。
「『陽は昇りて、未草を見んとす』」
──私が天皇となった暁には、未草のように清純な心を持つそなたに会おう──
「…………」
義兄上を介した千歳様のお言葉に、とっさに返答ができなかった。
「少々、驚かせすぎたかな?」
「…………少々どころではごさいませぬ。心の臓が止まるかと……」
気遣わしげながら、いたずらっ子のような表情をなさる義兄上に悪態をつくことで、ようやく思考が戻ってきた。
「ふふ。それは、すまないことをしたね」
「笑いごとではありませぬ。何故私が、千歳様のお言葉を賜ることとなったのですか」
「私が事あるごとに、そなたの話をしていたから、かな」
爽やかに仰る義兄上のお顔を拝見すれば、兄バカ全開の自慢話をなさったのだろうということは、想像に難くない。
「……義兄上」
「そんな冷めた目をせずに、笑っておくれ」
「できませぬ」
立身出世を望む者ならば、大いなる誉れとなるだろう。だがあいにく、私は義兄上たちの補佐をしたいだけだ。
職務のために、ある程度の地位の方に目をかけて頂くことは、今後必要になるかもしれない。だが、それは最高位の方でなくても良いと思う。
先人たちを見ればわかるではないか。「分不相応な望みは身を滅ぼす」とな。
「難しく考えずともよい」
父上が優しく仰った。
「千歳様の今のお立場で、直にそなたに接触すれば深読みする輩もおるゆえな。第一、政治的なことが絡んでくれば、朝長も花の橋渡しなど致すまい」
……確かに、父上の仰るとおりだ。
「私が浅慮でございました」
「いや。多方向から考えを巡らせるのは、大事なことぞ」
此度は朝長の日頃の行いが、そなたに杞憂を与えたのだとお笑いになる父上。
義兄上は「ひどい仰りようですね」と嘆くふりをなさる。
私の心をほぐそうと、お二方はお心遣いくださった。
しばらくして、父上から「返答はいかがする?」と問われ、私は思案した。
「……松笠菊は、手に入りますか」
私の言葉に、松笠菊の花言葉「正しい選択」「立派な」を思い浮かべられたらしい義兄上が、「何とかしよう」と頷いてくださった。
次いで、添え文はと問われた。
諸々の事情を勘案して、義兄上が代筆してくださるそうだ。
私は義兄上を真っ直ぐ見つめ、こう申し上げた。
「『御心のままに』……と」
──賢明なご判断をなさった千歳様に、心より敬意を表します。そのご立派な御心に、添いたく存じます──
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飽きずにお読みくださる皆様に、感謝申し上げます。
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改稿が多いため、更新話としてお知らせが入ってしまうと申し訳なく存じます。
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