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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
松笠菊の花に寄せて ──保元三年(1158)葉月

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四話




「それは、『二心(謀反の心)あり』と思われなかったのですか」

「確かに、意味深ではあるがな。覚性入道様ご自身も、跡目争いを避けるために周囲から断ち切られた方ゆえ……思うところがおありになったのだろう」

「……左様でございますか」


 ……仏門に入ったとはいえ、親王の位を返上するわけではない。よって、〝天子の孫〟という称号もある意味正しい。


「『お役目から逃げたのでは』などと、くちさがない連中もいた。傀儡(かいらい)になるための〝お役目〟など、馬鹿馬鹿しいことこの上ないがな」


 父上は鼻で笑われた。


「だが、千歳様が入門なさって間もなく、新たな噂が流れ始めた」


 一呼吸おかれ、またお話しになる。


「『経文を熱心にお読みになるお姿に、二心など(まみ)えぬ』『厳しい修行にも真摯に取り組まれ、まさに〝孫王〟の名に相応しい』とな」

「元来、気さくで才知に優れた方だからね。寺の者たちの心を掴むことにも、長けていらしたのだよ」

「それでは、此度の一件は……」


 千歳様にとっては、本位ではなかったのでは……?


「美福門院様が信西殿に働きかけたのだ。『亡き御上のご祈念を果たすまでは、極楽浄土へは逝くまいぞ』とな」

「千歳様のところへも、文が届いたそうだよ」



 ──親王の位を返上せぬのは、そなたにも覚悟があるゆえであろう。亡き御上(鳥羽法皇)のため、また、そなたを思うて旅立ったあの子(近衛天皇)のためにも、早う戻りゃれ──



「先帝と千歳様は、叔父と甥ながら歳の差は4つでいらした。先帝にとっては、実の兄(後白河天皇)よりも千歳様を兄弟のようにお思いになっていたらしい」

「先帝が心から信頼していらしたのは、先帝を純粋に慕っていらした千歳様のみのようだよ」


 お二方のご説明を受けて、私はしばし思案する。


「此度のことは、既に決まっていたこととは申せ、何故〝今〟なのでございますか」


 私の問いかけに、父上と義兄上はそろってため息を吐かれた。


「さすがに、苦情が過ぎたからな」

「あの方は、御即位なさってからも御殿(清涼殿)にて、朝に夕に、今様の歌い込みに精を出しておいでのようだからね」

「喉が潰れるまで大声でお歌いになられるゆえ、我ら警護の者は、密かに耳栓を用意していた」

「……得心致しました」


 ……公害レベル、か……


 まさか、


守仁親王殿下(千歳様)が、しかるべき御歳とおなりになったゆえの譲位」


 の真相が、


今上帝(後白河天皇)の歌が煩すぎて苦情の処理がしきれないから、早く譲位してもらえ」


 だったとは。

 史実もそうなのか……? いや、まさかな。


「ともかく、事情くらいは頭に入れておけ」

「承知致しました」


 私は深揖の礼(45度の礼)で承った。


ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。

また、お読み頂きありがとうございます。


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