四話
「それは、『二心あり』と思われなかったのですか」
「確かに、意味深ではあるがな。覚性入道様ご自身も、跡目争いを避けるために周囲から断ち切られた方ゆえ……思うところがおありになったのだろう」
「……左様でございますか」
……仏門に入ったとはいえ、親王の位を返上するわけではない。よって、〝天子の孫〟という称号もある意味正しい。
「『お役目から逃げたのでは』などと、くちさがない連中もいた。傀儡になるための〝お役目〟など、馬鹿馬鹿しいことこの上ないがな」
父上は鼻で笑われた。
「だが、千歳様が入門なさって間もなく、新たな噂が流れ始めた」
一呼吸おかれ、またお話しになる。
「『経文を熱心にお読みになるお姿に、二心など見えぬ』『厳しい修行にも真摯に取り組まれ、まさに〝孫王〟の名に相応しい』とな」
「元来、気さくで才知に優れた方だからね。寺の者たちの心を掴むことにも、長けていらしたのだよ」
「それでは、此度の一件は……」
千歳様にとっては、本位ではなかったのでは……?
「美福門院様が信西殿に働きかけたのだ。『亡き御上のご祈念を果たすまでは、極楽浄土へは逝くまいぞ』とな」
「千歳様のところへも、文が届いたそうだよ」
──親王の位を返上せぬのは、そなたにも覚悟があるゆえであろう。亡き御上のため、また、そなたを思うて旅立ったあの子のためにも、早う戻りゃれ──
「先帝と千歳様は、叔父と甥ながら歳の差は4つでいらした。先帝にとっては、実の兄よりも千歳様を兄弟のようにお思いになっていたらしい」
「先帝が心から信頼していらしたのは、先帝を純粋に慕っていらした千歳様のみのようだよ」
お二方のご説明を受けて、私はしばし思案する。
「此度のことは、既に決まっていたこととは申せ、何故〝今〟なのでございますか」
私の問いかけに、父上と義兄上はそろってため息を吐かれた。
「さすがに、苦情が過ぎたからな」
「あの方は、御即位なさってからも御殿にて、朝に夕に、今様の歌い込みに精を出しておいでのようだからね」
「喉が潰れるまで大声でお歌いになられるゆえ、我ら警護の者は、密かに耳栓を用意していた」
「……得心致しました」
……公害レベル、か……
まさか、
「守仁親王殿下が、しかるべき御歳とおなりになったゆえの譲位」
の真相が、
「今上帝の歌が煩すぎて苦情の処理がしきれないから、早く譲位してもらえ」
だったとは。
史実もそうなのか……? いや、まさかな。
「ともかく、事情くらいは頭に入れておけ」
「承知致しました」
私は深揖の礼で承った。
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