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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
松笠菊の花に寄せて ──保元三年(1158)葉月

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三話




「千歳様は、ご自身のお立場をご理解なさっていらしたよ。お傍にいても何もできない私が、心苦しく思うほどに」

ご生母(懿子)様のご実家の方々は……」

「その辺りは、父上のほうがお詳しいよ」


 義兄上は、父上のほうを向かれた。


「急に話を振るな」

「会話にご参加なさりたいご様子でしたので」

「否定はせぬが」


 父上は苦笑なさると、すぐに表情を引き締められた。


「……千歳様がお生まれになった当時、あの方(後白河天皇)は16の御年でいらした。親王の位を賜りながら、注視されてはいらっしゃらなかったがな」

「10の御年には今様に夢中でいらしたそうだよ」

「然り。芸事に感心を持つのは構わぬ。我らの教養にも必要なことだ。だが、あの方の没頭ぶりは少々度が過ぎた」

跡目争い(皇位継承)には縁のないものと、周囲の者どもが事あるごとに囁いていたようだからね」


 父上のご説明に、義兄上が補足をなさる。

 ……暗示をかけられていたようなものか。


御父君(鳥羽法皇)の関心も、末の皇子(近衛天皇)に向けられていたゆえ……」


 父上は言葉を濁された。

 後白河天皇陛下が、かつては〝万が一の補填要員〟だったとは、いくら我が家の敷地内とて言えまい。


「……その上、懿子様は(皇族の妻)ではあったが、いまだ后位(こうい)は贈られておらぬ。さらに、自らの身が惜しい、名ばかりの縁者は遠のいていった。……母方の後見が得られぬ千歳様をいかがすべきか、という問題はあったのだ」

「美福門院様が千歳様を養育なさったのは、先々帝(鳥羽法皇)の命だそうだよ」

先帝(近衛天皇)は、ご幼少の頃からお体が丈夫ではおられなかったゆえ……皇族の血を引きながらも、煩わしい縁者のおらぬ千歳様は、先々帝にとって次の傀儡とするにうってつけの方だったのだ」

「あとは推して知るべし、だね」


 義兄上も言及は避けられたようだ。

 親しくしている方が、父親ともども補填要員だったなどと、口にしたくはないだろう。


「──先々帝の唯一の誤算は、千歳様は、ただ流れに身を任せるような方ではなかった、ということだ」


 父上が〝してやったり〟という顔をなさる。


「先帝がご即位なさって10年ほど経過したが、さしたる問題はなかったことを逆手にお取りになった」

「『この国の安泰を願うため、修行に参ります』と、元服の一月前に仁和寺へお入りになったのだよ」

「それは……」


 鳥羽法皇陛下にとっては、逆心とも思し召しただろう。


覚性入道(かくしょうにゅうどう)様が、千歳様の御心に深く感じ入られたようでな。先々帝の使者が止めるより早く、『孫王』の名を授けられたそうだ」

孫王(天子の孫)……」


 私は目を見開いた。


后位:三后(さんごう)または三宮(さんぐう)とも。太皇太后・皇太后・皇后の地位の総称。

覚性入道:覚性入道親王とも。後白河天皇の弟宮。仁和寺第5世門跡。

門跡(もんせき):多々意味はありますが、ここでは皇族・公家が住職であることを指しています。


※敬称略



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