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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
親愛の形は様々 ──保元二年(1157)霜月

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六話




「坊。その〝憧れの人〟の関係で喜ばしいことがあった後、困ってるヤツを助けなかったか?」


 ……えぇと……


「書簡を地面に落としてしまった方が、いらっしゃいました」

「たぶん、それだ」

「あちらこちらに散らばっていたので、近くにいらした数名の方と、拾って差し上げました」

「数名……そうか」


 寛正殿は腕を組まれて視線をさげ、「発生源は、そいつらか……」と呟かれる。

 ひとつ息を吐かれ、改めてこちらを向かれた。


「……あのな、坊。お前さん、その時にだいぶ柔らかな表情をしていたらしい」

「……そうやもしれませぬ」


 自分でも、顔の緩みを抑えられなかった自覚はある。


「美麗な顔立ちの坊に、優しく労りの言葉を掛けられて、有頂天になったんだな。『睡蓮の君』だの、『春黄金花の精』だの、水面下で騒ぎ始めたんだ」

「何か問題でも、あるのでしょうか」

「まぁ……今のところはないな。大方、『菩薩童子』は掃部寮(かもんりょう)の潮平たちが言い出したんだろうが」

「寛正殿からご報告があった、鬼武者殿が拝まれた件ですね」

「そうなのか!?」


 広房殿が合いの手を入れられると、従兄様が食いつかれた。


「広房殿。そういう話は、こちらまで通して頂かねば困るぞ」

「申し訳ございません」

「若の愚痴は、後でな」

「寛正! 元はと言えば、お前が──」

「だから、後だっつってんだろうが」


 従兄様のお言葉を一刀両断なさった寛正殿。


「坊は、普段は怜悧(れいり)な顔で冷静なことが多いだろ。だから、印象の差が大きかったんだな」

「状況も作用したのでは?」

「広房殿の言うことも一利あるだろうな。連中、『胸の高鳴りが……』とか言ってたからな。……中には『あの澄んだ切れ長な目に蔑まれたい……』とか言ってる(変態)もいたが」

「誰だ、そいつは」

「若。その目はヤバい」

「私の若君に、不埒な考えを抱くとは許せぬ」

「いつから若のになったんだよ」

「若君がお生まれになった時分からだ!」

「キメ顔で、変態発言をするな!」


 再び言い合いを始めたお二人を、仲が良いな……と親のような心持ちで見守る。


「……すみません、五月蝿くて」

「いえ。気心の知れた仲なのだなと、思っていただけにございます」


 小声で謝罪してくださる広房殿に、思うままを返答する。


 そういえば──と、ふと思い立つ。


「広房殿に、お伺いしたいことがございます」

「何でしょう」

「『菩薩』と『童子』は、ひとつの言葉として用いて良いものでしょうか」

「えっ……」


 広房殿が言葉に詰まるところなど、初めて見た。

 貴重なものを拝見して、感動を覚えていると。


 従兄様と言葉の応酬をなさっていたはずの寛正殿が、勢いよくこちらを向かれ。


「そこかよ!?」


 執務室に、寛正殿の突っ込みが盛大に響き渡った。


ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。

また、お読み頂きありがとうございます。


皆様のおかげで、歴史(文芸)にて、日間60位にランクインすることができました。心より、御礼申し上げます。


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