五話
「先ほどの三つの言葉は、すべて若君を讃えたものです。若君には、『信仰』され、『敬慕』される覚えはございませんか?」
「……ございません」
定綱従兄様の問いにしばし考えたが、心当たりはない。
「……相変わらずの無自覚かよ……」
寛正殿がぼやかれる。
申し訳なく思うが、本当に覚えがないのだ。
「坊。『遷御の儀』からしばらく経って、ものすごく機嫌の良い時があっただろ」
唐突なお言葉に、思考が一時停止した。
「思い出してくれ。大事なことなんだ」
真剣なご様子に、我に返り記憶をたどってみる。
(……機嫌の良い……『遷御の儀』の後──)
「──ぁ」
「思い出したか?」
「はい……えぇと……」
すごく個人的な理由ゆえ、恥ずかしさに頬が赤くなる。
皆様を直視できず、思わず目を伏せて、袖で頬から下を隠してしまった。
「……これは、……破壊力すげぇな……」
「……彼らが〝ああ〟なるのも、無理はなさそうですね……」
「かわ、お可愛らしい……!」
お三方──いや、お二方がぼそりと呟かれ、従兄様は両手を胸の前で組まれ、目を輝かせていらっしゃる。
「若。性格変わってるぞ」
「うるさい、寛正。私は今、堪能しているんだ。……あぁ、何故ここに絵師がいないんだ。姿絵を残しておきたい……!」
「残して、どうするんだよ」
「朝に夕に眺めるに決まっている」
「得意げに何を言ってるんだ。若まで妙な扉を開けるのは止めてくれ」
寛正殿が疲れたように目をやり、従兄様に釘を刺される。
次いでこちらを向かれた。
「坊。機嫌が良かったってことは、良い話だったんだよな」
「……はい」
いまだ気恥ずかしさが勝り、袖はおろせたが、頷くのが精一杯だった。
「仕事で褒められても、そこまでじゃないしな。……あれか。好きな女人でもできたか?」
「はあ!?」
なぜか、私よりも早く従兄様が反応なさった。
「若君には、まだ早いだろう!」
「何言ってんだ、若。坊も、もうすぐ元服を迎えるんだからな。好きな女人の一人や二人、いたっておかしくはないだろう」
「いや、しかし──」
「〝女人〟で呆気にとられるってことは、〝憧れの人〟くらいか?」
食い下がろうとなさる従兄様のお言葉に被せるように、寛正殿は話を進められる。
その洞察力と、見事に言い当てられたことに、私は目を見開いた。
「当たりか」
寛正殿は一呼吸置かれ、「なるほど」と呟かれた。
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