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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
親愛の形は様々 ──保元二年(1157)霜月

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五話




「先ほどの三つの言葉は、すべて若君を讃えたものです。若君には、『信仰』され、『敬慕』される覚えはございませんか?」

「……ございません」


 定綱従兄様の問いにしばし考えたが、心当たりはない。


「……相変わらずの無自覚かよ……」


 寛正殿がぼやかれる。

 申し訳なく思うが、本当に覚えがないのだ。


「坊。『遷御の儀』からしばらく経って、ものすごく機嫌の良い時があっただろ」


 唐突なお言葉に、思考が一時停止した。


「思い出してくれ。大事なことなんだ」


 真剣なご様子に、我に返り記憶をたどってみる。


(……機嫌の良い……『遷御の儀』の後──)


「──ぁ」

「思い出したか?」

「はい……えぇと……」


 すごく個人的な理由ゆえ、恥ずかしさに頬が赤くなる。

 皆様を直視できず、思わず目を伏せて、袖で頬から下を隠してしまった。


「……これは、……破壊力すげぇな……」

「……彼らが〝ああ〟なるのも、無理はなさそうですね……」

「かわ、お可愛らしい……!」


 お三方──いや、お二方がぼそりと呟かれ、従兄様は両手を胸の前で組まれ、目を輝かせていらっしゃる。


「若。性格変わってるぞ」

「うるさい、寛正。私は今、堪能しているんだ。……あぁ、何故ここに絵師がいないんだ。姿絵を残しておきたい……!」

「残して、どうするんだよ」

「朝に夕に眺めるに決まっている」

「得意げに何を言ってるんだ。若まで妙な扉を開けるのは止めてくれ」


 寛正殿が疲れたように目をやり、従兄様に釘を刺される。

 次いでこちらを向かれた。


「坊。機嫌が良かったってことは、良い話だったんだよな」

「……はい」


 いまだ気恥ずかしさが勝り、袖はおろせたが、頷くのが精一杯だった。


「仕事で褒められても、そこまでじゃないしな。……あれか。好きな女人(にょにん)でもできたか?」

「はあ!?」


 なぜか、私よりも早く従兄様が反応なさった。


「若君には、まだ早いだろう!」

「何言ってんだ、若。坊も、もうすぐ元服を迎えるんだからな。好きな女人の一人や二人、いたっておかしくはないだろう」

「いや、しかし──」

「〝女人〟で呆気にとられるってことは、〝憧れの人〟くらいか?」


 食い下がろうとなさる従兄様のお言葉に被せるように、寛正殿は話を進められる。

 その洞察力と、見事に言い当てられたことに、私は目を見開いた。


「当たりか」


 寛正殿は一呼吸置かれ、「なるほど」と呟かれた。


ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。

また、お読み頂きありがとうございます。


皆様のおかげで、歴史(文芸)にて、日間39位にランクインすることができました。心より、御礼申し上げます。


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