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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
親愛の形は様々 ──保元二年(1157)霜月

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三話




 私たちを抱えたまま、義平義兄上が御簾をくぐられる。

 広間には、年少3人組以外が揃っていた。彼らは遊び疲れてお昼寝中らしい。


「若様……っ!」


 目が合った瞬間、まるで意中のアイドルに会ったような歓声を上げたのは、祥寿(しょうじゅ)姫だった。

 幼さの残る(かんばせ)のこの方は、義康殿(父上の相聟)の異母兄・新田義重殿のご息女である。

 また──


「おい、祥寿。夫の俺に、先に声をかけろ」

「な、何を仰ってますのっ」


 真っ赤になって、「……お、夫だなんて……」と口ごもる16歳のこの方は、18歳になられた義平義兄上の室殿(お嫁さん)でもある。



 この世界では、結納の儀を新婦の家で行い、婚姻の儀を新郎の家で行う。


 新婦側が結納の席でもてなすのは、「娘を頼みます」という願いが込められ。

 新郎側が婚姻の席でもてなすのは、「大切に致します」という決意の表れだと教わった。


 婚姻の儀から3ヶ月ほど経つが、お二方の間には、初々しい空気が漂っている。

 政略婚ではあるが、お互いを大切に想っていらっしゃることは、眼差しから伝わってくる。ただ──


「いつまで、若様を抱きしめていらっしゃいますのっ?」

義兄弟(きょうだい)なのだから、よかろう」

「ちっとも良くありませんわ!」

「良い匂いだぞ」

「ずるいですわ! 若様の、甘く爽やかな香りをお一人で堪能なさるなんて……!」


 照れが勝るのか、私を口実にして戯れられることが多い。

 宗寿丸が「……わたしも、いるのに……」と呟いたが、お互いしか見えていないお二方の耳には、届かなかったようだ。



 明るく素直な祥寿姫は、我が家でも温かく迎え入れられている。義平義兄上に対しては、好きすぎて素直になれぬようだが。


「祥寿もこちらに来ればよかろう」

「ですが……」


 三浦の義母上(義平義兄上の実母)に、「よろしいですか……?」と伺っている。


「行っておいでなさい」

「はい、お義母様!」


 三浦の義母上からのお許しを得られた祥寿姫は、笑顔を輝かせて良い返事をなさった。


 所作はご令嬢らしく、しなやかで美しい。

 しずしずと歩いていらして、先に座していらした義平義兄上の隣に腰をおろされた。


 

 本日のおやつは豆菓子だ。

 高坏(たかつき)に置かれた平らな器に懐紙が敷かれ、その上に色とりどりの豆菓子が上品に乗せられている。

 

 私と宗寿丸が「はい、あーん」をする横で、「祥寿もして欲しいか?」「け、結構ですわっ」と新婚さんが仲睦まじかったことを、ここに記しておく。


ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。

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