三話
私たちを抱えたまま、義平義兄上が御簾をくぐられる。
広間には、年少3人組以外が揃っていた。彼らは遊び疲れてお昼寝中らしい。
「若様……っ!」
目が合った瞬間、まるで意中のアイドルに会ったような歓声を上げたのは、祥寿姫だった。
幼さの残る顔のこの方は、義康殿の異母兄・新田義重殿のご息女である。
また──
「おい、祥寿。夫の俺に、先に声をかけろ」
「な、何を仰ってますのっ」
真っ赤になって、「……お、夫だなんて……」と口ごもる16歳のこの方は、18歳になられた義平義兄上の室殿でもある。
この世界では、結納の儀を新婦の家で行い、婚姻の儀を新郎の家で行う。
新婦側が結納の席でもてなすのは、「娘を頼みます」という願いが込められ。
新郎側が婚姻の席でもてなすのは、「大切に致します」という決意の表れだと教わった。
婚姻の儀から3ヶ月ほど経つが、お二方の間には、初々しい空気が漂っている。
政略婚ではあるが、お互いを大切に想っていらっしゃることは、眼差しから伝わってくる。ただ──
「いつまで、若様を抱きしめていらっしゃいますのっ?」
「義兄弟なのだから、よかろう」
「ちっとも良くありませんわ!」
「良い匂いだぞ」
「ずるいですわ! 若様の、甘く爽やかな香りをお一人で堪能なさるなんて……!」
照れが勝るのか、私を口実にして戯れられることが多い。
宗寿丸が「……わたしも、いるのに……」と呟いたが、お互いしか見えていないお二方の耳には、届かなかったようだ。
明るく素直な祥寿姫は、我が家でも温かく迎え入れられている。義平義兄上に対しては、好きすぎて素直になれぬようだが。
「祥寿もこちらに来ればよかろう」
「ですが……」
三浦の義母上に、「よろしいですか……?」と伺っている。
「行っておいでなさい」
「はい、お義母様!」
三浦の義母上からのお許しを得られた祥寿姫は、笑顔を輝かせて良い返事をなさった。
所作はご令嬢らしく、しなやかで美しい。
しずしずと歩いていらして、先に座していらした義平義兄上の隣に腰をおろされた。
本日のおやつは豆菓子だ。
高坏に置かれた平らな器に懐紙が敷かれ、その上に色とりどりの豆菓子が上品に乗せられている。
私と宗寿丸が「はい、あーん」をする横で、「祥寿もして欲しいか?」「け、結構ですわっ」と新婚さんが仲睦まじかったことを、ここに記しておく。
ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。
また、お読み頂きありがとうございます。





