二話
宗寿丸を抱きしめ頭を撫でているところに、義平義兄上がいらした。
「子猫が2匹で戯れておるのか」
「宗寿丸が賢いので、褒めていたのです」
「ならば、俺も褒めてやろう」
義兄上は膝をつかれ、私たちを一度に抱きしめられた。……また、筋肉が発達なさったようだ。
「うぅー、苦しいですー」
かなり力を加減をしてくださっているのだが、宗寿丸は厚い筋肉の中で呻いた。
「む……すまん」
義兄上は少ししょんぼりとなさり、腕を解いて立ち上がられた。
同時に、私たちを片腕ずつに抱き上げられる。
私たちは、急に視界が高くなったことに驚いた。
「ひゃあっ」
「っ」
宗寿丸が姫のような悲鳴を上げ、私は息を詰めた。ふたりで咄嗟に掴まったものは──
「目は隠すな。前が見えん」
楽しげな義兄上の声が、腕から響いてくる。
「申し訳ございませぬ」
「申し訳ございません……っ」
私はハッとし、宗寿丸は慌てて、義兄上の頭から腕を外した。
途端にぐらつく体を、太い腕にしっかりと支えられる。
「首に回せばよかろう。締めるなよ」
「そのように恐れ多いことはできかねます」
「わ、私も致しません」
「冗談だ。ほら、しっかり掴まれ」
体を内側に傾けられ、私たちは促されるまま、頑丈な首に緩く腕を巻きつけた。
✽ ✽ ✽
義兄上は、おやつの時刻だと呼びに来てくださったらしい。
私たちを子ども抱っこしたまま、のしのしと歩かれる。足音の割に安定感があるのは、鍛練の賜物だろう。
宗寿丸の私室から広間に向かう道中、私は御礼と抗議を同時に申し上げた。
「ありがたく存じますが、宗寿丸は繊細な子ゆえ、揶揄われるのはおやめください」
「お前は良いのか?」
「私は心の臓に毛が生えておりますゆえ」
「ほう。今度見せてもらおうか」
「わたしも、見てみたいです」
ニヤリとしてこちらに目を向けられた義兄上。その奥に、目を輝かせてこちらを向く宗寿丸の姿が映る。
「義兄上。宗寿丸が本気にしているではありませんか」
「珍しいものは、見たくなるのが道理だろう。なぁ、宗寿丸」
「はい……!」
こくこくと頷く宗寿丸は可愛らしいが。
「宗寿丸。今のは〝慣用句〟と言って、物の例えを現す言葉だ。私のように、心根が図太く、物事にあまり動じないことを示している」
「兄上のお心は、図太くなどありません。とても優しく、いつも私たちに心を配ってくださるではありませんか」
「例えの話だ」
「たとえでも、兄上にそのような言葉は合いません……っ」
話しぶりに熱がこもる宗寿丸。
こういうところが良い、ああいうところが良いと、褒め言葉を懸命に述べてくれるのは嬉しく思うが、面映ゆい。
「おい。話がずれているぞ」
くつくつとお笑いになっている義兄上が、しばらく後に助け舟を出してくださった。
身の置き所がなかったので、ようやく息をついたが、元凶の義兄上を見る目つきが多少鋭くなってしまったことは、仕方がないと思って頂きたい。
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