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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
光に内包する闇 ──保元二年(1157)如月~神無月

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七話




 右方の出手(ずるて)の楽が奏され、白塗りの化粧を施した私たちは舞台に上がった。


 私たちの舞う『おかしく舞うもの』も、『めでたく舞うもの』と同じ立ち位置から始まる。


 前奏の間に構えの姿勢をとり、右手は扇の()を右の腿に。左手は指先を揃えて左の腿にあてるまでの動作をする。

 ここに至るまでも、四人が寸分違わぬ動きになるよう猛特訓した。


 観客たちは呆気にとられているが、まだまだ序ノ口だ。


「〽おかしく舞う(回る)ものは」


 ひとつ開いた右手の扇を、顔の斜め前に翳し、扇を見る。

 扇を腿に戻して、今度は左手を顔の斜め前へ。翳すと同時に手の甲を見る。


「〽巫 小楢葉 車の筒とかや」


 ここは、左方と同じ動きをする。

 楽と装束の色が違うので、異なる趣となっているはず。



 ──おもしろおかしく舞う(回る)ものは 巫女の神楽舞 落葉する小楢の葉 車輪の軸受などや──



 敷舞台の後ろの縁に、等間隔で並んだ私たち。

 ……ここからが見せ場だ。


 中の二人が腕を広げながら、前に進み出た。


「〽平等院なる水車(みずぐるま)


 まずは右側の童が腕を広げたまま半回転。

 続いて二人で半回転。 

 装束の裏表が左右交互に変わっていく様は──


「まさに水車よ……!」


 観客は狙いどおりに驚嘆してくれた。


 ゆるり、ゆるりと回転する水車の次は、私ともう一人の番。

 二人と入れ替わりに、両側から前へ進み出た。


「〽(はや)せば」


 ふたりで向かい合って腕を伸ばし、己の(右手)と相手の手のひら(左手)を向かい合わせる。

 互いの間にある空気を押し合うように、左右の腕を前後した。


「〽舞()づる」


 続いて同時に右を向き、扇で前を差しながら右回りに円を描く。

 観客からは、対極図のように見えているだろう。


 それぞれの立ち位置で止まり、正面を向いた。


「〽蟷螂(いぼうじり)


 私は体を右に向け、右足を半歩前に出す。

 じわじわと、鎌の形にした手を上げていく。

 右手を上に、左手を下にするところで、歌師(うたのし)の方が、存分に歌い上げてくださった。


 合いの手のように入れられた、鼓の「ポンッ」という音に合わせて、左の膝を軽く曲げ、顔のみを正面に向けると。


「「「わはははははは!」」」


 観客の笑いがとれた私は、涼しい顔でカマキリの型をしたまま、内心ガッツポーズをしていた。


「〽蝸牛(かたつぶり)


 右隣の童も型に則りながら、きっちりと笑いをとった。



 ──平等院にある水車 囃し立てれば舞い出す カマキリやカタツムリ──



 四人で最初の立ち位置に戻り、入手の楽で退場した私たちは、右方の控え処に入ったところでお互いの顔を見た。

 皆が手応えを感じており、満足のいく出来だと讃えあった。



 その後、遷御の儀はつつがなく終了し、雅楽寮の方々はようやく肩の荷を降ろされたようだ。



   ✽ ✽ ✽



 後日、雅楽寮の頭と舞師の方々が「一言御礼を」と、ご丁寧に我が家まで足を運んでくださった。


 舞童に今様など、白拍子と勘違いしているのではあるまいかと、雅楽寮の中で憤る声も多数あったとのこと。

 だが、僭越ながら私が申し上げた(げん)がきっかけで、此度の成功に繋がったと仰ってくださった。


 あまりに褒めてくださるので面映ゆい心地がしたが、瑣末ながらお役に立てたのなら幸いだ。


出手(ずるて):右方が舞台へ入場すること。

構えの姿勢:本作では、背筋を伸ばして肘を張る型を指しています。



ブックマークと評価を頂きました。ありがとうございます。

また、お読み頂きありがとうございます。

さらに、PVが10000を超え、ユニークが1500を超えました。こちらにお立ち寄りくださる皆様のおかげです。

心より御礼申し上げます。



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