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【5万pv】ありあけの月 小話集【感謝申し上げます】  作者: 香居
光に内包する闇 ──保元二年(1157)如月~神無月

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四話




 雅楽寮からの代表者19名と、私たち殿上童8名が揃い、簡単な自己紹介の後、ご説明が始まった。


 舞を教えてくださる舞師(まいのし)の御二方が、私たちの世話役も兼ねてくださるらしい。

 左方(さほう)の舞、右方(うほう)の舞を、それぞれお一人ずつ担当なさるとのこと。


 殿上童は4名ずつ、左方と右方に振り分けられた。

 鶴千代殿は左方、私は右方となった。家柄からしても妥当だろう。


 童舞の定番曲と言えば、『迦陵頻(かりょうびん)』と番舞(つがいまい)の『胡蝶(こちょう)』だ。


 後ろの(たけ)6.3尺(約190センチ)もある装束は、着ると1.7尺(約50センチ)2尺(約60センチ)ほどが床につく。

 舞台上を飛び回る童たちの動きに合わせてひらひらと浮くさまは、長い尾が宙で遊んでいるかのように見える。


 左方の『迦陵頻』は、極楽に住むという霊鳥・迦陵頻伽(かりょうびんが)を模した極彩色の羽で背中を覆い、胸当てをつける。また、天冠(てんがん)には桜の花を2本挿す。

 中国・インド系を紀元とする舞なので、装束は朱色系統である。


 唐楽(とうがく)に合わせ、両手に持った小さな銅拍子(どうびょうし)を打つ。

 さらに、円をつくって舞台上を飛びまわる様子は、大空を悠々と羽ばたく迦陵頻伽の姿を描いている。


 右方の『胡蝶』は、蝶を模した羽で背中を覆い、胸当てをつける。また、天冠には山吹の枝を2本挿す。

 朝鮮・中国東北部を紀元とする舞なので、装束は()色系統である。


 高麗楽(こまがく)に合わせ、右手に持った山吹の枝を動かす。

 さらに、胸の前で合わせた袖を左右に広げながら舞台上を動く様子は、軽やかに飛ぶ蝶を描いている。


 鶴千代殿の愛らしさならば、『迦陵頻かりょうびん』、『胡蝶』どちらの装束もお似合いになるだろう。


 親バカさながらのことを考えつつ、ご説明の続きに耳を傾ける。


 10月までの予定として、週に一度、雅楽寮にて稽古をつけて頂く。

 修練度や背丈などを勘案し、最終的に左右で調和のとれた舞に仕上げるらしい。


 次いで曲目が告げられたが、困惑の空気が流れた。

 『迦陵頻』と『胡蝶』ではなかったからだ。


 信西殿が、御上が熱中なさっておいでの今様歌(いまよううた)を、童舞にと進言したらしい。

 御上は大層お喜びになり、今から待ち遠しく思し召しているとのことだが、「余計なことを……」という雰囲気が、雅楽寮の方々から伝わってきた。


 振り付け・装束・()を一から考えていらっしゃるとのことで、かなりの重圧に相違ないと拝察する。

 いくら内裏が改修中で、正式な宴は来年からとは言いながら、新たな試みとは……


 純粋に御上のためを思ってのことならば、雅楽寮の方々もどうにか得心なさるのだろう。だが、「立身出世のために御上の覚えめでたく──」という信西殿の思惑が透けて見えるだけに、お怒りになるのは(もっと)もなことだ。


左方の舞:左舞。客席から見て左側から登場することから。

右方の舞:右舞。客席から見て右側から登場することから。

番舞:左舞と右舞で舞姿の似た演目を一(つい)とした言葉。

天冠:金属製の宝冠。透かし彫りの山型板を額飾りにし、その両脇に飾りの緒をつけます。

唐楽:唐(中国)から伝来した合奏音楽。唐の宮廷音楽をもとに、インドやベトナム、日本の音楽が融合しました。

銅拍子:中央にへこみのある、銅製の丸い楽器。

高麗楽:朝鮮から伝来した合奏音楽。新羅、百済、高句麗の音楽をもとに、中国東北部、日本の音楽が融合しました。飛鳥時代~平安時代初期にかけて伝来したと言われています。



お読みいただき、ありがとうございます。


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