四話
雅楽寮からの代表者19名と、私たち殿上童8名が揃い、簡単な自己紹介の後、ご説明が始まった。
舞を教えてくださる舞師の御二方が、私たちの世話役も兼ねてくださるらしい。
左方の舞、右方の舞を、それぞれお一人ずつ担当なさるとのこと。
殿上童は4名ずつ、左方と右方に振り分けられた。
鶴千代殿は左方、私は右方となった。家柄からしても妥当だろう。
童舞の定番曲と言えば、『迦陵頻』と番舞の『胡蝶』だ。
後ろの丈が6.3尺もある装束は、着ると1.7尺~2尺ほどが床につく。
舞台上を飛び回る童たちの動きに合わせてひらひらと浮くさまは、長い尾が宙で遊んでいるかのように見える。
左方の『迦陵頻』は、極楽に住むという霊鳥・迦陵頻伽を模した極彩色の羽で背中を覆い、胸当てをつける。また、天冠には桜の花を2本挿す。
中国・インド系を紀元とする舞なので、装束は朱色系統である。
唐楽に合わせ、両手に持った小さな銅拍子を打つ。
さらに、円をつくって舞台上を飛びまわる様子は、大空を悠々と羽ばたく迦陵頻伽の姿を描いている。
右方の『胡蝶』は、蝶を模した羽で背中を覆い、胸当てをつける。また、天冠には山吹の枝を2本挿す。
朝鮮・中国東北部を紀元とする舞なので、装束は青色系統である。
高麗楽に合わせ、右手に持った山吹の枝を動かす。
さらに、胸の前で合わせた袖を左右に広げながら舞台上を動く様子は、軽やかに飛ぶ蝶を描いている。
鶴千代殿の愛らしさならば、『迦陵頻』、『胡蝶』どちらの装束もお似合いになるだろう。
親バカさながらのことを考えつつ、ご説明の続きに耳を傾ける。
10月までの予定として、週に一度、雅楽寮にて稽古をつけて頂く。
修練度や背丈などを勘案し、最終的に左右で調和のとれた舞に仕上げるらしい。
次いで曲目が告げられたが、困惑の空気が流れた。
『迦陵頻』と『胡蝶』ではなかったからだ。
信西殿が、御上が熱中なさっておいでの今様歌を、童舞にと進言したらしい。
御上は大層お喜びになり、今から待ち遠しく思し召しているとのことだが、「余計なことを……」という雰囲気が、雅楽寮の方々から伝わってきた。
振り付け・装束・楽を一から考えていらっしゃるとのことで、かなりの重圧に相違ないと拝察する。
いくら内裏が改修中で、正式な宴は来年からとは言いながら、新たな試みとは……
純粋に御上のためを思ってのことならば、雅楽寮の方々もどうにか得心なさるのだろう。だが、「立身出世のために御上の覚えめでたく──」という信西殿の思惑が透けて見えるだけに、お怒りになるのは尤もなことだ。
左方の舞:左舞。客席から見て左側から登場することから。
右方の舞:右舞。客席から見て右側から登場することから。
番舞:左舞と右舞で舞姿の似た演目を一対とした言葉。
天冠:金属製の宝冠。透かし彫りの山型板を額飾りにし、その両脇に飾りの緒をつけます。
唐楽:唐(中国)から伝来した合奏音楽。唐の宮廷音楽をもとに、インドやベトナム、日本の音楽が融合しました。
銅拍子:中央にへこみのある、銅製の丸い楽器。
高麗楽:朝鮮から伝来した合奏音楽。新羅、百済、高句麗の音楽をもとに、中国東北部、日本の音楽が融合しました。飛鳥時代~平安時代初期にかけて伝来したと言われています。
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