長い廊下
四方を白い壁に囲まれた空間に俺は居る。あの後、一日に二度も厳つい顔を見る羽目になった俺は、榊准尉の支持の元、控え室に案内された。
控え室とは名ばかりで、軍人宿舎の一部を開放して一時的に使っているのだ。試験終了後の扱いは良く、演台でマーキスが吐いた言葉がまるで嘘のようだった。
そして、今俺は、宿舎のベットに横たわり試験の結果を待っている。できる事なら終了後直ぐに通知してくれてもいいものを、極秘施設所属の選考ともなるとそんなに早く決めるわけにもいかないらしい。
寮は二人部屋で、川辺と萩原は他の部屋に案内されたのだと言う。
それにしても、あの勝負、どちらが勝ったのだろうか……。
最終ラウンド、善戦したとは言え、やはり結果は気になる。最後に隊長の投げたグレネードが敵のリーダーに当たっていれば良いのだが……。
モヤモヤとした気持ちの中、試験で起きた事を思い返しながら物思いにふけっている中、控え室の扉を叩く音が聞こえた。ノックの音はリズム良く三回鳴り。扉の外から自衛官と思しき男の声が、室内へと響き渡った。
「正道進一、高島施設長がお呼びです」
この窓一つ無い室内へと淡々とした声が入って来る。
どうやら、この宿舎の壁は相当薄いようだ……。
俺は、返事を返すと、扉を開けた。
開けた先には屈強な自衛官が立っていた。
すぐさま、自衛官の後ろから見慣れた関西人が顔を出してきた。この様子からして、俺と一緒に戦った仲間全員が呼ばれたのだろう。
「よっ、大将。どうやら試験結果が出たみたいや」
相変わらずの喜作な笑みを浮かべながら川辺が俺へと喋りかけてきた。更にその後ろから丸いメガネが顔を出す。
「川辺さん、誰もそんな事言ってないじゃないですか。タダ呼ばれただけですよタダ」
「なに言うとんのや、呼ばれたんやから結果の通知に決まっとるやないか、採用や!」
川辺と萩原が自衛官の後ろ、寮の通路で少しばかりの口論を始めると。その光景を半ば煙たそうに見ていた自衛官は、軽く咳き込むと二人へ強烈な視線を送った。
強烈な自衛官の視線に気がついた二人は口論の途中で意気消沈して黙り込んでしまった。
応接室へ向かう道
その後、表情一つ変えない自衛官の後ろを言われるがまま、付いて行く俺達は、少しばかりの世間話をしながら応接室まで続く長い廊下を四人で歩いていた。
結局呼ばれたのは三人。途中リタイアの二号機パイロットに加えて別室で戦闘に参加していた隊長には、戦闘の後結局、会う機会が無かった。
隊長は一体何者なんだろう……。縁があればこの先会う機会もあるとは思うが……。
「なあオッサン、ワイら一体なんで呼ばれたんや?」
多分、川辺はこの長い通路に痺れを切らしたのだろう、俺達を先導する自衛官へ問を投げかけていた。
その光景はまさに試験前のデジャブだ。
自衛官はその言葉に答えるように、細目で俺達の表情を伺うと鉄面の口を少しばかり開け、地鳴り程の声を廊下へと響き渡らせた。
「理由を知りたいのなら生憎だ。私は呼ばれた理由を聞かされていないからな」
「何やオッサンが勿体ぶっるんで期待したんに……」
自衛官の言葉を聞いて川辺は渋ると、両手を頭の後ろへ回して天井を見詰めた。どうやらお手上げという意味らしい。
ここまで、情報が出てこないと川辺じゃなくても不安になるものだ。
もし採用なのならここまで勿体ぶる必要もないわけで……。
「大丈夫だよ、あそこまで善戦したんだから……」
勇気付けようとした俺の発言に萩原が口を挟む
「そうでしょうか? 確かに善戦しましたが、結局一回も勝てなかったじゃないですか」
萩原の一言で場の空気が一気に重くなった。
俺達の淀んだ空気を察しながらも先頭を歩く一人の自衛官は、ある扉の前に付くと足を止めた。扉は宿舎の部屋と同じ木製の押し戸で、目で見ても分かる新鮮な塗装に、ニスの微かな匂いが、この施設の歴史の浅さを物語っている。
自衛官は扉で軽く三回ノックをすると、自前の声を響かせた。
「正道進一、以下二名を御連れしました」
自衛官のその言葉を待っていたかの様に、扉の奥から聞き覚えのある軍人の声が廊下へと返ってくる。
そして、自衛官は扉を開けると、俺達を中へと招き入れた。
その後、全員が応接室の中へ入ったのを確認すると、ビシッと決まった敬礼と挨拶を見せた。




