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彼女の秘密①前半

 同僚に今度の日曜日に一緒に遊びに行かないか?と誘われたが、私は断った。もともと人付き合いがいいほうではないが、今回は訳ありである。私は頻繁にとはいえないが、近所の剣術道場に通っている。日本が治安のいい国なのはこちらに来て身をもって体感したが、昔の癖が抜けず、腕がなまるのが怖いのだ。そんなわけで、時折しかし、日が開き過ぎないくらいに道場をお借りして、柔軟、素振り、型のおさらい等をすることにしている。

 お世話になっている道場は、地元では有名で、警察官の方々もかなり通っていり、ご一緒に鍛錬することも多い。というより、私の狙いは専ら彼らである。もちろん、色恋沙汰の甘い期待とは裏腹の、対痴漢、暴漢訓練である。現役警察官を相手に暴漢対策をされていると知られれば本気で怒られるかもしれない。道場に通う一方、荒々しい現場での勤務もあって、訓練にちょうどいいと思っているのは相手が些か気の毒なほどである。とはいえ、彼らにとっても少女はいい稽古相手だったのである。今回彼女が同僚の誘いを断ってまで道場に赴いたのは彼らが頼んだのである。曰く、県警における、合同親善稽古というなの武道大会を開催するので、それに向けて指導を頼むということらしい。つまり、見た目かわいらしい小柄の彼女が指南役である。もっとも彼女は当道場の客分であり、指南することは道場主の顔に泥を塗るようなことであるため、稽古相手以上のことはできない。

 いつもと違ったのは、今日はイレギュラーな見学者が居ることか。もしかしてデート?なんて疑いをかけられ、思わず全部ばらしてしまったため、気になった同僚が見学と言う形で除きに来たのだ。無論、入会するつもりは微塵もない。彼女がどんな人なのか知りたいという実に研究者らしい理由で、観察に赴いた限りである。垂れだったか?の名前を見るに瞑想のような体勢で居るのが彼女だろう。私は近くの道場生に声をかけた。

「すいませーん、あの娘って強いんですか?」

 私は剣道のことは全くと言っていいほど無知であるため、質問の内容も実にスィンプルだ。

「ああ、シオンさんの知り合い?ありゃあ、へたに相手してもらうと逆に自身なくしちゃうね」

 と年下の女性に対してかなり下手でわたしはびっくりする、が、

「シオンさん?」

 何よりびっくりしたのは彼女の呼び名である。垂れの名前とはというか

姓名共にそんな名前ではない。

「ああ、違う違う。それはあだ名みたいなもんでね」

 と苦笑しつつ、

「彼女が一体何者なのか俺達が教えてほしいくらいさ。まぁ、どうやら次、うちの主任とやりあうみたいだからさ、見ててみなよ」

正式な試合ではなく多少略式だが、礼をして睨み合う。高校生のときチラっと見たような激しく打ち合うような試合では無いようである。

息の詰まるような時間が過ぎ、主任さんが焦りから飛び出したときには

彼女が過ぎ違っていた。自分の知っている剣道とは違うスポーツのようだ。全く音が聞こえなかった。と思っていたら小さく「ドウ」と聞こえた。くぐもっているが、澄んだ彼女の声のような気がする。

「あの通り、全然音がせず、気づいたら打たれてる。音が死ぬから死音さんってわけ。」

 って女の子につく異名じゃないぞ。

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