プロローグ
~プロローグ~
今となっては、良く思い出せない。
あの日僕はどこへ行こうとしていたのか、何を考えていたのか。
とまれ、状況は最悪だったと言えよう。
迷い込んだ小路には街頭も無く、夜半の月も僕を助けてはくれなくて、うっすらとかび臭い暗闇には敵意が満ちていた。
[四面楚歌]ではなかったけれど、[多勢に無勢]で、すなわち[絶体絶命]に他ならなかった。
・・・やはり振り返り来た道を戻るしかないのだろう。
道に不慣れな僕とおそらくは熟知しているであろう「彼ら」。
悪手ではあるが、握手して済みそうもない現状、悪手であろうと逃げるしかなかった。
後はタイミングを見計らって・・・・
――雲の切れ間からの光が射した。
その瞬間に振り返ってて逃げようとしたが、僕は身動き一つできなかった。
前門のトラに意識を向けすぎた僕は、後ろ首をつかまれたように「何者か」に引っぱられていった。
何が起こったのか、荒んでいるように見えた「彼ら」は悲鳴をあげて地べたを這いずり回っていたが、
それも一瞬見えただけのことで、目的地に背を向けて電車に乗ったように、風景が流れていった。
道知らぬ僕はどこに着いたのか、そもそもどこかに着いたのかどうかも定かではなかったが、ひとまず追手の心配は無さそうだった。
息を整えた「何者か」はこちらに振り向くと、僕を壁に縫い付けるように押しつけた。
腕がガッチリと固められ、身動きが取れなかった。
「一目見たときからあなたが気になってしまって・・・私と一緒に暮らしてくれませんか?」
間近に迫った顔つきはとても真剣で、薄くピンクに染まった頬と、熱の篭った声は僕を見惚れさせるのに十分だった。
そんな動じない・・・動けなかった僕に勘違いしたのか、
「さ、三食昼寝つきで、帰宅した私につき合って下さるだけでいいんです。」
と続ける彼女に僕の頭は自然と下がっていた。
この出会いが大きな運命の変更点となるこなど知る由も無く、
今回想しつつ考え直してみれば、これは[救出]で[提案]で、
そしてどうやら[告白]だったようだ。




