お正月の一幕
「てーぬーきーだー111」
専用のタブレットにゆっくりと文字が表示される。
特におかしな様子は無い。
・・・タブレットの前に座っているのが猫でなければ。
田舎の澄み切った夜空からとけ出た様な艶やかな漆黒の毛と、左右の色が違う瞳。――以前別件でお世話になった獣医さんが言うには――
オッドアイではなく、生まれたときの病気による発育不良・・らしく、左目は暗いところでは満足に見られないだろう、とのこと。
いつでも側にある夜のような体と月のような瞳。
主は一目惚れして、耀く夜で[かぐや]と名づけた。
友人兼同僚が、
「でもこの子、男の子ですよ?」
とかぐやを抱き上げて言った時を思い出せば苦笑せざるを得ない。
かぐやが熱心にタッチしているタブレットは、
肉球でもしっかり反応するように特殊な素材で作られ、
彼の主がプログラミングしたアプリ[ぷにチャット]が起動されている。
まぁ、なんのことはない、20文字以下しか表示できないツイッターのようなものである。
「ごめんなさい、養父達のところに帰っていて時間が無かったの。」
かがんだ彼女は両手を合わせて謝る。
「それにね、おせち料理は作り置きだけど、手間がかかってるから手抜きどころかむしろ手は入れすぎよ?」
本日2日は実家に里帰りしてたので、朝は慌しくおせちの残り、
お昼はお皿に出していったおせちの残り、雪が降り帰りが遅くなったため、晩御飯もまたおせちの残り、である。彼が愚痴を言うのもある意味仕方ないと言えよう。
「いいわけむよう1けいやくいはんだ1」
ちなみにかぐやは右手オンリーで入力するため、!は1と表示される。
「ちゃ、ちゃんとご飯はあげているわよ?」
挙動不審になりながら主は答える。
「痛っ」
主の悲鳴にかまわず、かぐやは背中に爪を立てて肩に登る。
「かぐやー、寒いんだからコタツに入ろうよ。」
子猫のころからのお気に入りであるが、そろそろ体も大きくなってきた今となっては結構重いんだけど・・・お仕置きのつもりなんだろうから我慢しとこうか、なんて主は考えていた。
ふわふわの毛や、しっぽがタシタシと顔や体を打つのがくすぐった
く、同時に首周りが温かくて、まぶたが重くなってくる。
「ふに゛ゃっ」
コタツに埋もれつつ傾いだ体にかぐやはフーと威嚇する。
「ごめんごめn」
なんて喉を撫でつつ寝てしまったようだ。タシタシを顔にしても反応が無い。かぐやも隣で丸くなった。




