ノーモア!怒れる伏雷
破壊された工場跡には、砕けた石壁や折れた柱が散乱し、巨大な製造装置は見る影もなく崩れ落ち、黒く焦げた瓦礫の隙間から煙が立ち昇っていた。
その惨状の中を、伏雷は木ノ葉丸を抱えたまま進んでいた。
「これは……どういうことざます?」
伏雷の前には数体の屍将軍が並び、そのうちの一体が一歩前へ出た。
「侵入者によって収容所が襲撃され、捕らえていた住人はすべて奪還されました。さらに工場も破壊され、黒い雫の製造は不可能となっております」
伏雷の足が止まり、身体を震わせ、青筋を立てていた。
「…………」
「現在、逃げた住人と侵入者の行方を――」
橙色の閃光が走り、
ドォォォォン!!
巨大な雷が屍将軍を真上から貫き、爆音とともに地面が弾け飛ぶ。
「ノォォォォォモアァァァァァ!!」
伏雷の絶叫が工場跡に響き渡り、残された屍将軍たちが一斉に身を強張らせた。
雷を浴びた屍将軍は全身から黒煙を噴き上げ、そのまま崩れ落ちた。
「住人を奪われた!?工場までデストロイされた!?それで、よくのこのこワタクシに報告しに来たざますね?!」
橙色の雷が伏雷の全身を這い回り、足元の瓦礫が細かく震え始めた。
「侵入者を捕まえてくるざます!一人残らず捕まえて、ワタクシの前へ連れてくるざます!場合によっては首だけでも構わないざます!」
「は、はいっ!」
屍将軍たちは一斉に工場跡を飛び出し、ワイチたちを追って黄泉の川へ向かった。
その頃、黄泉の川では三台の馬車が岸辺に停まり、救出された住人たちが次々と荷台から降りていた。
「本当に……ありがとうございました」
「これで、ようやく黄泉へ戻れます」
何度も頭を下げる住人たちが川へ向かって歩き出し、家族同士で身体を支え合いながら、次々とその場を離れていく。
最後の住人が馬車を降りると、武蔵は二本の刀を腰へ戻した。
「よし、助けるもんは助けた。あとは残ってる奴らをぶっ潰しに行くだけだな」
「収容所も工場もなくなりましたので、残るは伏雷を倒すだけです」
「では、行きましょう!悪行三昧の伏雷を倒して、この先へ進みましょう!」
一行は再び三台の馬車へ乗り込んだ。
馬車が次々と向きを変え、骨馬の蹄が乾いた大地を蹴り、来た道を引き返し、伏雷の待つ根の国へ向かって走り出した。
三台の馬車は乾いた大地を駆け抜け、伏雷の門へ続く道を進んでいた。
少し進むと、先頭の馬車に乗っていた武蔵が前方に立ち昇る砂煙へ目を向けた。
「おい、前から何か来るぞ!」
砂煙の中から巨大な影が次々と現れ、刀や槍、斧を携えた屍将軍たちがこちらへ向かってきた。
「屍将軍です!こちらへ向かってきています!」
「うゎー団体様のお着きだー!」
三台の馬車が速度を落とし、骨馬が乾いた地面を削りながら止まると、武蔵たちは次々と荷台から降り、屍将軍たちも武器を構えながら道を塞ぐように広がった。
「貴様らが収容所を襲い、工場を破壊した侵入者だな」
「綺麗に燃えて朽ちたやつか!美しかったぞ!!」
「貴様ら、覚悟しろ!伏雷様の命令により、全員捕らえに来たが、抵抗するなら首だけでもとのことだ!」
「お前らも覚悟しろよ!伏雷のところへ行く手土産にしてやる!」
武蔵が二本の刀を抜き放つと、小次郎も刀を抜き、村正宗が玄武の盾を前へ構えた。
屍将軍の一体が巨大な刀を振り上げ、武蔵へ襲いかかった。
振り下ろされた刃を武蔵が二本の刀で受け止め、激しい金属音とともに火花が飛び散ると、その横から槍を持った屍将軍が武蔵の脇腹を狙って穂先を突き出した。
小次郎が一気に間合いを詰めた。
「瞬燕流――飛燕!」
槍の穂先が武蔵へ届く寸前、小次郎の刀が横から弾き上げ、屍将軍の懐へ潜り込んだ。
屍将軍が槍を引き戻して薙ぎ払おうとしたが、小次郎はさらに踏み込んだ。
「瞬燕流――飛燕返し!」
初撃が胴を斬りつけ、屍将軍が槍を振り回しながら小次郎へ向き直った瞬間、返しの一撃が胸元を走った。
巨体がよろめいたところへ、癒炎をまとったきゅうすけが飛び込み、脇腹へ拳を叩き込んだ。
「ぐおっ!」
屍将軍は踏みとどまり、槍を横薙ぎに振り払った。
きゅうすけへ迫った穂先の前へ村正宗が玄武の盾を滑り込ませ、激しい金属音とともに槍が弾かれた。
「今だ!懐が空いたぞ!」
小次郎が再び屍将軍との距離を詰めた。
「瞬燕流――神風牙!」
鋭い突きが胸を貫き、屍将軍の巨体が後方へ倒れた。
その間にも武蔵は刀を持った屍将軍と激しく斬り結び、振り下ろされた巨大な刃を右の刀で外へ受け流すと、左の刀を斬り上げて相手の腕を跳ね上げた。
「そんな大振りじゃ当たらねえぞ!」
屍将軍が力任せに刀を振り下ろしたが、武蔵は刃をかわしながら懐へ入り、太刀と脇差を重ねるように叩き込んだ。
「天魔流――天魔剛衝斬!」
二本の刀が屍将軍の胴を捉え、巨体が地面を削りながら後方へ吹き飛んだ。
倒れた屍将軍が刀を支えに起き上がろうとしたところへ武蔵が迫り、二刀を立て続けに叩き込むと、その身体は再び地面へ沈んだ。
武蔵の背後から斧を持った屍将軍が迫り、巨大な刃を振り下ろそうとした。
晴明が印を結び、
「風術――烈風刃!」
鋭い風の刃が斧を持つ腕へ次々と襲いかかり、狙いが逸れた斧は武蔵の横へ叩きつけられ、乾いた地面を大きく砕いた。
武蔵が横へ逃れたところで、屍将軍は地面へ食い込んだ斧を引き抜き、そのまま晴明へ向かって突進した。
晴明が式紙を放つと鬼が姿を現し、振り下ろされた斧を金棒で受け止めた。
斧と金棒が激しくぶつかり合い、屍将軍が力任せに押し込もうとしたが、鬼はその場で踏みとどまりながら斧を押し返し、金棒を横薙ぎに振り抜いた。
ドゴォン!!
金棒が屍将軍の脇腹へ直撃し、巨体が地面を転がって砂煙を巻き上げた。
武蔵が倒れた屍将軍へ迫ろうとしたところへ、別の屍将軍が横から刀を振り下ろした。
ガァン!!
村正宗の玄武の盾が刃を受け止め、激しい火花が盾の表面を走った。
「こいつはオレが止める!先に倒れた奴を仕留めろ!」
武蔵はそのまま砂煙の中へ駆け込み、起き上がろうとしていた屍将軍へ二本の刀を叩き込んだ。
村正宗へ刀を押しつけていた屍将軍は一度距離を取り、盾の横から回り込もうとしたが、村正宗も身体の向きを変えて玄武の盾を正面へ合わせ、再び振り下ろされた刀を受け止めた。
その戦場へ阿国の横笛が響き始めた。
軽快な音色が乾いた大地を駆け抜けると、武蔵と小次郎の動きが一段と速くなった。
「二人とも、まだまだ速くなるわよ~♪」
刀を持った二体の屍将軍が左右から武蔵へ迫り、一体が上段から刀を振り下ろし、もう一体が胴を狙って横薙ぎに刃を走らせた。
武蔵は上段からの一撃を太刀で受け止めながら、横から迫った刃を脇差で弾き、そのまま二体の間へ身体を滑り込ませた。
左右から再び刀が迫った瞬間、小次郎が高速で一体の背後へ回り込んだ。
「瞬燕流――飛燕返し!」
初撃が背中を斬りつけ、屍将軍が小次郎へ向き直ったところへ返しの一撃が走り、体勢を崩した巨体へ武蔵の太刀が叩き込まれた。
残った一体が武蔵へ刀を突き出したが、村正宗の玄武の盾が横から刃を弾き、屍将軍の身体が流れたところへ癒炎をまとったきゅうすけが踏み込んだ。
拳が腹へ食い込み、屍将軍が後ろへよろめいた。
晴明が印を結び、
「雷術――轟雷閃!」
雷が屍将軍を直撃し、全身を痙攣させながら動きを止めたところへ武蔵が踏み込み、二本の刀を胴へ叩き込んだ。
それでも残った屍将軍たちは武器を構え直し、一体が槍を突き出しながら小次郎へ迫った。
小次郎は穂先をかわして間合いへ入ろうとしたが、別の屍将軍が斧を横薙ぎに振り、小次郎の進路を塞いだ。
後方へ退いたところへ槍が再び伸び、穂先が小次郎の肩を掠めて衣服を裂いた。
「すぐに回復します!」
ナリアの回復魔法が小次郎の肩を包む間、村正宗が二体の前へ入り、槍と斧を玄武の盾で受け止めた。
激しい衝撃が連続して盾へ叩き込まれ、村正宗の足元が少しずつ後ろへ削られていく。
「力だけで押し切れると思うなよ!」
村正宗が斧を盾で跳ね上げ、そのまま槍を持つ屍将軍へ盾ごとぶつかると、巨体がよろめいて二体の間に隙間が生まれた。
傷の塞がった小次郎がそこへ飛び込んだ。
「瞬燕流――神風牙!」
鋭い突きが槍を持つ屍将軍の胸を貫き、その身体が大きく仰け反った。
村正宗は玄武の盾を外し、金槌を握って屍将軍へ迫った。
「ここまで弱れば十分じゃ!滅魂打!」
ドゴォォォン!!
金槌が胸へ叩き込まれた瞬間、屍将軍の身体から黒い瘴気が噴き出し、巨体がそのまま崩れ落ちた。
斧を持った屍将軍が村正宗へ刃を振り下ろそうとしたが、鬼の金棒が横から斧を弾き飛ばし、そのまま二撃目が屍将軍の肩へ叩き込まれた。
片膝をついた屍将軍へ武蔵が駆け込み、二本の刀を交差させるように胴へ叩き込むと、その巨体も地面へ倒れた。
最後に残った一体の屍将軍が刀を構えたまま周囲を見回し、倒れた仲間たちから武蔵、小次郎、村正宗、晴明へ視線を移した。
武蔵が二本の刀を向け、
「残ってんのはお前だけだ、まだやるか?」
屍将軍は一歩後ろへ下がり、武蔵が間合いを詰めると、さらにもう一歩下がった。
次の瞬間、背を向けて伏雷の門へ向かって走り出した。
「うわぁー伏雷様!」
「逃げやがった!追うぞ!」
武蔵たちは馬車へ戻らず、そのまま屍将軍を追って乾いた大地を駆けた。
屍将軍は何度も後ろを振り返りながら走り続け、やがて暗闇の向こうに伏雷が守る巨大な門が姿を現した。
「このまま門へ逃げ込むつもりですね!」
「伏雷様ー奴らを連れてきましたァァァァ」
小次郎が飛燕で一気に距離を詰めようとした、そのとき、屍将軍の頭上が橙色に染まった。
「え?!」
ドォォォォォォォン!!
巨大な橙色の雷が真上から叩き落とされ、屍将軍の身体を一瞬で飲み込んだ。
爆風と砂埃が押し寄せ、武蔵たちが足を止める中、雷に貫かれた屍将軍は全身から黒煙を噴き上げ、そのまま地面へ崩れ落ちた。
「おいおい……味方まで殺しやがったぞ」
漂う煙の向こうから木ノ葉丸を抱いた伏雷が姿を現し、橙色の雷を全身に走らせながらワイチたちの前へ進み出た。
「あなたたちざますね……ワタクシの工場をデストロイしたのは……!」
次回予告
阿国です♪
助け出した黄泉の住人たちを無事に送り届けて、これで一安心……と思ったら、最後にとんでもないのが出てきちゃったわね~♪
部下を雷で吹き飛ばしちゃうなんて、ずいぶん怖~いお方みたいだけど、ここまで来たら引き返すわけにはいかないわ♪
次回、第99話「キャッチ・アンド・サンダー!伏雷の力」。
さあ、どんな戦いになるのかしら♪ぜひ、お楽しみに♪




