風ちゃん、雷ちゃん
「おい、お前ら転移者だろう。」
帰ろうとした武蔵たちの背後から声が響く。
振り返るが誰もいない。
「だから、お前ら転移者だろ! と聞いている。」
え?
ワイチが振り向いた方には狛犬しかいない。
しかし、よく見ると目が合った。
「こ、こ、狛犬が、しゃ、しゃべったーっ!」
神社の入り口にいた石の狛犬が光り、青と黄色の姿へと変わった。
「お前ら、何しに来た。」
「別に何もしてねえよ。ただ見に来ただけだ。」
武蔵は少し語尾を強めて答える。
「嘘をつくんじゃねえっ! お前らみたいなのが意味もなくこんなところへ来るわけねえだろっ!」
青い狛犬が吠える。
「そんなもん本当に見に来ただけだ。」
武蔵も負けじと答える。
「だから信じられねえんだよっ!」
黄色い狛犬も怒鳴った。
「どうせ妖刀を狙ってるんだろ!」
「この妖刀には恐ろしい力が眠ってるんだ!」
「お前らもその力を使って悪いことをするつもりなんだろっ!」
「だから違うって言ってんだろっ!」
武蔵も声を張る。
息を合わせたように、皆で答えた。
「違う。」
「だったらわからねえ!」
青い狛犬が唸る。
「妖刀もいらない。」
「力もいらない。」
「じゃあなんでここへ来た!」
「この世界で何をしようとしてるんだ!」
武蔵は生き生きと答える。
「俺か? 強い奴と戦いてえ。それだけだな。」
「俺は剣を極めたい。その上で、この俺の力が少しでも誰かの役に立つんだったら、それに越したことはないかな。」
小次郎は眼差しを強くする。
晴明は静かに話す。
「俺は今までいた世界と、この世界では大きく違うものを感じています。その理を見てみたい。それが今一番興味のあることですね。」
「私は人を救うということが、まだわかっていないのです。だからこの世界に来たのであれば、それを見極めたいと思っています。」
空海は何か思うところがあるようだ。
阿国は微笑みながら話す。
「私は皆を笑顔にするのが大好きです。悲しいなんていうのは、この世からなくなってほしいとも思っています。それが私の生きる道です。」
全員の視線がワイチへ向く。
「正直、突然こんなところへ連れて来られて、何をしていいのかなんてまだわかってないよ。この世界で何をすればいいのかもわからない。だから逆に教えてくれ。君たちならわかるのかい?」
「そっか…………そっか…………。」
しばらく沈黙が流れる。
「妖刀が欲しいっていうのは俺たちの勘違いだったんだね。」
「ごめんね。」
「なんか気分を害しちゃったかな。」
「ずっと転移者を疑ってたからさ。」
「オレは風、こっちが雷。」
「狛犬風雷兄弟さっ!」
「あんたらの名前は?」
「俺は武蔵。」
「こいつが小次郎。」
「晴明。」
「空海。」
「阿国。」
「そしてワイチだ。」
「そうか。」
「オレ達はここの妖刀を色んな奴らから守ってるんだ。」
「なんせ危ない力を持ってるからね。」
「実際、世界を滅ぼすとも言われてる。」
「逆に、一つの鍵になるとも言われてる。」
「ま、本当かどうかは知らないけどね。」
「そうだ。仲直りの宴をしよう。」
「実は神社の裏に食べ物と酒があるんだ。」
「これでも食べて、もう少し話を聞かせてくれよ。」
「酒だと?」
武蔵の目が光る。
「食いつくところそこですか。」
神社の裏では小さな宴が始まった。
「なあ。」
風がワイチへ顔を向ける。
「お前、本当はあれ見えただろ。」
「え?」
「だからさ、あの妖刀から出てるものだよ。」
「あー……。」
ワイチが頭をかく。
「実は、ちょろっとだけ見えた。」
「赤いのと黒いの。」
「でも他は、なんかモヤモヤしたのしか見えなかったな。」
「そうなんだ。」
「まだそれしか見えないんだ。」
「だったらまだ能力が開花してないんだね。」
「たぶん、そのうち見えるようになるよ。」
「……能力?」
「大丈夫、大丈夫。」
「そのうち見えるようになるから。」
その時だった。
「なんの騒ぎだ。」
低い声が響く。
振り返る。
そこには武器屋のあの男が立っていた。
「風、雷。」
「こいつら、お前らに何かしたのか?」
「違う違う。」
「こいつらは大丈夫だよ。」
「転移者だぞ。」
「知ってる。」
「俺たちも最初はそう思った。」
「でも違った。」
「こいつらは今までの連中とは違う。」
「俺たちが保証する。」
武器屋の男は腕を組む。
「えーい……そこまで言うんだったら。」
「わかった! お前らに売ってやるよ。」
「俺は村正宗。」
「この辺で鍛冶屋と武器屋をやってるもんだ。」
「本当かっ!」
武蔵は生き生きと立ち上がる。
「刀と小太刀が欲しい。」
「……は?」
「小太刀もか?」
「俺は二刀だからな。」
「なら。」
小次郎が口を開く。
「拙者も長い刀はないか?」
「お前もかっ!」
その場に笑いが起こった。
宴会は夜通し続いた。
そして――
朝になった。
「おはようございます。」
ハロルドが頭を下げる。
「すっかり朝になりましたね。」
「それでは皆さんの実力を測るため、訓練場へ向かいたいと思います。」
次回予告!
小次郎だ。
刀が手に入ることになった。
それだけでも十分ありがたい話だ。
だが、本番はここからだろう。
この世界の剣術。
この世界の強者。
そして、この世界の理。
少し興味がある。
次回、訓練所
さて、どの程度のものかな。




